艶事ファシネイト
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何をどうすればいいのか、自分が置かれた状況を上手く理解出来ない時枝は一先ず車のエンジンを切り叫く男と話し合うことにした。
いきなり殴りかかってこられてはどうにもならないので慎重に、男の顔色を伺いながらドアを開け絶望的な表情を眺める。
「貴方、名前は…?」
「高浦だ。早くののを返、
「分かりました高浦さん。その前にちょっとお話を聞かせてください。貴方は一体
「アンタ、警察に通報したらどうなるか分かってる?俺は知ってんだ、お前…ドーフ・ヒルヨって言う性犯罪を売りにしてる会社、そこで人身売買やってたろ?」
突然したり顔で知っていることを話しはじめた“高浦”と言う名の男は時枝の胸倉を思い切り掴むと一発、頬を拳で殴って地に伏せさせた。
来ると思って構えていたため唇から血を流す程度、時枝はペッと唾を飛ばし高浦を睨む。
「チッ、突然何だ。冷静になれないようだな、」
「は、冷静?ふざけんな。てめぇは自分が何したか分かってんのか。こりゃ犯罪だ。法律上親権は俺にある、だから早く“昴”を返せ。」
初めて野々宮を昴と下の名で呼んだ高浦は車に乗ったまま震える野々宮をじーっと見つめていた。野々宮は時枝が殴られたのが心配なのか、時枝の顔を伺おうとしているが背を向けているため様子が分からない。
時枝は高浦が語る“親権”という言葉に一度首を傾げ冷静を保ち続けた。
「親権とは、一体どういう意味だ?」
「アンタに語ることじゃない。早く昴を返せ。」
「それは出来ない。野々宮は俺と居ることを望んでいるんだ。それに俺も、野々宮と一緒に居ることを望んでいる。」
「・・・。」
自分の気持ちを知らない男に伝えた時枝は黙った高浦を見送って車に乗った。ふるふる震える野々宮に大丈夫だと言ってエンジンをかける。
しかし、野々宮はハンドルを握った時枝の腕を掴んで突然泣き出してしまったのだ。
「うぁぅっ、とちえだしゃぁんっ…、」
「な、どうした野々宮…」
「ショウちゃん、ダメなんだよ…ショウちゃんはののが居ないとダメなんだよっ、」
「…は、?」
訳の分からないことを泣きながら言った野々宮はぼーっと車内を見る高浦を指して時枝に縋った。自身は野々宮が居ないとダメかもしれない、でも野々宮は高浦を必要としている。
理解したくない状況に野々宮の腕を振って時枝は理性に身任せ、アクセルを強く踏んだ。
・・・・・・・・・・・♂
最後ちらりと見た悔しげな、真の性格が分からない高浦の目はずっと野々宮を見ていた。それに野々宮も、時枝を通り越し高浦を見ていた。
殴られた時はきっと自分を気にしてくれていたに違いないと、無駄な自意識を抱いた時枝は暗い道の路肩に車を止め野々宮の肩を掴み無理矢理キスをした。
「ののみや、」
「はぅっ?!」
「さっきの発言は一体どういう意味だ?おかげで遊園地に行く気が失せた。今日はもう諦めろ、」
「ん、ちがうの。とちえださんっ、」
違うの訳が分からない時枝は助手席でシートベルトをカチカチいじる野々宮の腕を掴んで口内を激しく舌で荒らした。
クチクチ鳴る舌にドキドキする時枝は股間を既に膨らませ、これ以上を求めている。
「何が違う?お前は高浦と居たいのか?」
「んんっ…、」
「迷うのか?すぐに俺とは言えないのか?」
「んんぅっ、」
口ごもる野々宮を真剣な目で見る時枝は心が潰されそうな気がした。もし今野々宮が必要としている人が高浦ならば、考えれば考えるほど胸が痛く裂けそうになる。
挙動に動く野々宮をただ信じるしか出来無い時枝は拳をぎゅっと握りしめ爆発してしまいそうな理性を飲み込もうとした。
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