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艶事ファシネイト




「ちょっと、脱いでみてよ…」


「身体見せて欲しいなぁ…」


「すばぅくん、こっちむいて!」




客の質問の卑劣さと数は増し、鬼形一人では対応しきれなくなったため強制終了…


早々と本題に入ることにした。




「質問はこれぐらいで…始めます!・・・24番、2億円からのスタートです!!」



「10!!」


「30億!!」


「50だっ!!!」




汚い罵声をあげ、亡者のように値段を競り上げる客を入社してから3年間、今まで楽しく鑑賞していた時枝は、この短時間で何があったのかと言うぐらいにげっそりしていた。


奮えていた身体も全く動く様子が無く、下方一点を見つめて固まったまま。




それに気付いた舞台の野々宮はじっと時枝を見ながらうぅっとうめき声をあげている。


時枝の異変に気づいてほしくて、熱狂する鬼形の袖を引っ張った。




「ねぇねぇ、オニしゃん…とちえださん、おなかいたいのかなぁ?」



「100億です!!!これは今までに無い最高金額だぁっ!!」




ヒートアップするオークションにテンションが高くなった鬼形は野々宮に全く気付いていない。

話しを聞いてもらえなかった野々宮は舞台に降り、項垂れる時枝の元に歩み寄った。




内股で自然に震えてしまう足を一生懸命引きながら苦手な階段を降り、時枝の前に立つ。



それでも鬼形は気づかず、声を張りあげオークションを続けていた。




「うぅっ…」



「・・・。」



なめらかな手が時枝の頬に触れる。

一、二回…
優しく摩り、大きな瞳で俯く顔を覗き込んだ。




「とちえださん…おなか、いちゃいの?」



「・・・。」



「おいしゃしゃん、いこよ?のの、とちえださん、しんぱいだよぉ…」



「チッ、」




素早く席から立ち上がった時枝は細くしなやかな野々宮の腕を引いた。

小さな頭を抱えギュッと抱きしめれば、抑えられない感情が溢れ出す。




「・・・はぁっ、」



「ん、おなか…へーき?」




こんな自分を心配そうに見つめてくる澄んだ瞳はどこまでも美しく、神々しい。




時枝は脆く繊細な野々宮を見て、自分が彼を護るために出来ることは一つしかないと思った。




「ののみや。」




ゆっくり近付く綺麗な顔…
薄紅色のくちびる…


違う意と捉えられることを恐れ、一度も触れたことの無かった場所。




時枝は大衆の前で堂々と“商品”に熱い口づけをした。


甘い香りのくちびるを一思いに吸い、小さな口を激しく荒らす。




「のっ、」



「っんぅっ・・・」





どよめきが無くなり会場はシーンと静まり返った。



社員も来場者も二人に釘付け。


前代未聞、オークション課のトップである時枝の失態に客も社員も呆然。




「…一緒に、」



そして時枝は野々宮を抱き抱え、会場を飛び出していった。



飛び交うヤジに対応しきれない社員は時枝を追いかけることすらできない。



「おい!何してんだよっ!!」



「どういうこったコレは!なめてんのか?」



「も、申し訳ございません!!えぇっと・・・まだ3品残っていますので皆様、御着席下さいませ!!」




緊急事態で響めく会場を静めるため必死に叫び声をあげる鬼形ら。



呆れて席を立つ客ばかりで、ヒルヨホールの出入口はあっという間にごった返した。





[*ret][nex#]

あきゅろす。
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