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艶事ファシネイト




白いドレス姿で危なっかしく歩く野々宮の姿に時枝の想いは紅く染まり、自分でもこの感情が何なのか…

分かるくらいに拡がっていた。






――のののこと、すちでしょ?



その言葉が繰り返し時枝の頭を駆け巡る。


二度も強姦した俺のこと…

野々宮はどんな風に見ているのだろう。







「すっごいかわいい…」


「ヤりたい…」


「肌が真っ白だ…」


「チンポ挿れられて腰振る姿なんかそそるねぇ…」



VIP以外の席からも聞こえる汚い声。



目の前の彼の美しい容貌は地獄に咲く可憐な花を思わせる。




時枝は息苦しくなって、呼吸を整えながらズキズキと痛む胸を抑えた。




「エントリーナンバー24番!野々宮昴クンです!!」



「こんにちわぁ!僕の名前はののみやすばぅ。じゅうごさいっ!すきなたべもにょはあいしゅとくっちーで、きらいなたべもにょはヒーマンです!」




「すばぅだってぇ・・・時枝君、あの子は歩き方も変だしちょっとアレな子か?」



「…えっ、えぇ。」




高千穂の目がギラギラと輝いたのを見た時枝は苦笑しながらじっと黙っていることしか出来なかった。

心に広がるのは罪悪感と絶望、烈しい悋気。




「時枝君、ときえだくんっ!!」



「て、勅使河原サン…」



「あぁ、君も良い目利きをするようになったね…。障害者であの容姿なんて…あぁっ、すごく美しい瞳だ。」



興奮して鼻息を荒げる周りの連中の空気に耐え兼ねた時枝は頭を抱え、舞台に立つ野々宮を見ないようにした。



 ・・・・・・・
『ショウガイシャ』

最初から目を伏せていた事実。



人権侵害、差別、虐待。


何も悪くない…

何も、悪いことなどしていない!



今までだって障害者を販売した例はあった・・・

その時は売っても罪の意識なんかこれっぽっちも感じなかった!



商品に愛着を持つなんて…

俺はどうかしている!!




時枝は激情的に髪を乱しながら自分を責めた。

しかし、オークションは時枝に構わずどんどん進む。




「野々宮クンの特技はおえかきです。じゃあ、クレヨンで得意なモノを書こうね?」



「うんっ!」



野々宮がアクションする度に男の低い歓声がホールに響き渡る。

覚束ない手を一生懸命に動かして絵を描く姿は多くの男の欲望を駆り立てるだけ。




「ぉおっ!出来たみたいですッ…野々宮クン、それは何かなぁ?」



「んっ、とちえださぁん!」




野々宮が振り上げた画用紙には人らしきモノが描かれていた。

黒い髪に蒼色の瞳、口から何かを吐いている不思議な絵。




「おっ…オークション課の課長、時枝欣嗣サンを書いたんですねぇ?」



「そうっ!とちえださんはいっつもよだぇらして『ののみやぁーののみやぁー』って、のののことよんでぅよ!」



「なっ…!!」




赤面した時枝は自分が変質者と公に思われた気がして、穴があったら入りたい気分になった。


確かに野々宮と呼んでいるが、涎を垂らしたことなどない・・・はず。




「上手な絵でしたねぇ…はいっ!野々宮クンのアピールタイムでしたぁっ!次はVIP様からの質疑応答タイムです。質問のある方は挙手をお願いします!」





変わらず時枝の気持ちを無視してオークションはどんどん進む。


何がこれから起こるか理解していない目の前の野々宮は自分を見つめ得意げに笑っている。


その真っすぐな瞳を見るに耐えられなくなった時枝は、鄙劣な質疑応答の時間も目を背けていた。





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