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艶事ファシネイト




バス通勤の鬼形を見送って、時枝は一人のんびり電車を待った。


ホームで待っていたはずの彼だが、気が付くと社の地下にある保管所に居て、1から順に商品の様子を覗き「24」の前で立ち止まっていた。



まるでもう一人の自分が居るみたいに…

心は家を、身体は保管所を目指していた。





「野々宮…」



「んぅう?だぁれぇ…?」



明かり一つ灯っていない冷たく静かな地下。

自分でもびっくりするぐらい切ないトーンで彼の名を呼んでいた。






「野々宮、入るぞ。」



「ぅぬぅ…おやつぅ?」




時間も周りの目も考えず、所持していたマスターキーで時枝は檻の中に侵入した。

音を立てずに暗闇の中、感覚だけで野々宮に近づこうとする。



ゆっくり…ゆっくり進むと爪先が柔らかいものにちょんと触れたのが分かった。

時枝は足元に野々宮が居る事を認識し、手繰り寄せるようにぎゅっと抱きしめた。




「んうっ…とちえださん?」



「あぁ…」




香りで分かったのか時枝だと気付いてきゃっきゃと笑う野々宮を何も言わず、自分の胸に引き寄せる。


小さな温もりは時枝の中にすっぽり収まり、奮えている様子も無い。






「とちえださん、すち?」



「はっ…」



「のののことすち、でしょ?」





時枝の指を掴み問い掛ける彼に罪は無い。

おそらく彼は自分に微笑みかけているであろう…



しかし、何も答えられない時枝は黙ったまま指を握りかえしていた。




「…明日は良い人のところに行けるといいな。」



「うぅっ?」



「きっと、優しい人がお前の旦那さんになってくれるさ…野々宮、おやすみ。」





事実この世界に野々宮を守ってあげられる優しい奴なんて…いやしない。


嘘をつけばつくほど辛くなるだけの言葉をこれ以上言わないように時枝は目を背け、慈しみを持ちながら掴んでいた指を離した。




「うんっ!おやちゅみ、とちえださん・・・ちゅっ。」



「あっ…」




何も見えない檻の中で、野々宮は何の前触れも無く時枝の頬の辺りにキスをした。


純真なキスと分かっていたが、時枝は抑制の利かない理性を一気に爆発させてしまった。




「・・・だめだ、もう。」



「んぅっ…わわっ!」




視界からは何も伝わらないが、手探りで肩を掴み小さな身体を組み敷いた。



もう一度、最後に…

思い出になる前に時枝は野々宮と繋がりたかった。




「はぁっ…野々宮、俺は狂ってるな。昨日からずっとそうなんだ。お前を見ているとこうしたくて頭がおかしくなる…でも、もうこれで最後だから。少し我慢してくれ・・・」



「ぅんんっ……」



昨日よりは長く、優しく野々宮の身体を撫でながら甘いひと時に酔いしれる。


時枝は滾る自分の熱を早く中に押し込めたい思いでいっぱいだった。




「ぅうっ!」



ジャージの中に手を入れて割れ目に指を這わせるとふりふり腰を揺らしながら吐息を漏らす。

そのひとつひとつの動作が心を支配していく。





「痛いか?」



「うぅうっ…ぁあ、」




昨日、強姦したとは思えないぐらい労りながらちゃんと時間をかけて馴らした。


盲目なのにも関わらず、暗がりとは思えない動きで身体の隅々に触れる。



「ぁ…うっ、」



「とちえだっ、さん…?」






ぴちゃっと床に染みた謎の液体。

それは下に居る野々宮の顔にも降り懸かり、弧を描くように流れ落ちた。





…時枝は泣いていた。






何故、時枝が泣いているか理解出来なかった野々宮は「ごめんなしゃい」と謝り続けた。




「ごめんなしゃい…とちえださん、ごめんなしゃい…」



「・・・・んっ、」



「いぁあっ!…ふぁあ!!」




パチンと音を立て腰を突き入れた時枝は、感覚を頼りに泣きながら野々宮を犯した。

瞳からこぼれ落ちる雫は何度手で拭っても止まることはなかった。




「んっ!んっ!」



「野々宮、なぁ…俺はどうしたらいいんだ?」





自分でもよく分からない気持ちと欲をぶつけながら問いたが、野々宮は答えない。


理由や結論は今分からなくとも、明日はっきり彼は認識できるだろう。





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