星空エビデンス
evidence star
「聞いたよ真尋、榊クンに冷たくしちゃいけないじゃないか…彼はお前が大好きだったんだから。」
ピシャッと引き出しを閉めた叔父さんは顔色一つ変えず僕に腐った笑顔を見せていた。
「ははは、彼は良い男だっただろう?寂しい真尋を愛してる、変わり者で。」
「・・・。」
寂しい僕に誰がしたんだ…と想いながらも叔父さんには文句を言えず黙り込んでしまった。
確かに良い男だった。
別れてからアイツのことしか考えられない。
良い男過ぎて困るほど。
「で、何しに来た。そんなにお父さんの遺したお金が欲しくなったのか?」
「えっ?」
叔父さんの滑らせた真実の言葉に僕は納得した。
お父さんが遺したお金…
なるほど、そういうことか。
「真尋、あの人形の中には真哉兄さんがお前に遺した手紙と金庫の鍵が入っていたんだよ。手紙によると彼はお前に会社も資産も小野瀬家も継いでもらいたかったらしいな。
…と、榊クンから聞いてないのか?やはりお前の身体目当てだけだったのか、あの男は。ずっと性的な目でストーカーのように奴はお前を見ていたんだ。気持ち悪いだろ?そんな可哀相なお前に欲情して、早く犯したくて仕方なかったんだろうな。理性も保てない貞操観念の低い男だ。見た目からしてレベルが低い奴だと思っていたんだ。
まぁ、あの頭の悪い男のおかげで今までよりもずっと良い暮らしができっ、
ずらずら御託を並べる叔父さんを黙らせるため衝動的に僕は右手を振りかざしていた。
「真尋、誰に何をしたんだ?」
「・・・一流サンを悪く言わないでください。」
「は?」
「お金なんか、どうでもいい。叔父さん、榊一流サンは今どこに居るの?僕に教えてくださいっ!!!」
サカキに今すぐ会いたい。
あの温もりも、低い声も、優しい仕種も、綺麗な顔も忘れたくない。
この気持ちを二度と失いたくない。
「真尋、お前・・・榊クンが好きなのか?」
「・・・・」
――"好き"
―――"愛してる"
木霊するサカキの言葉と気付かなかった自分の気持ちが重なった瞬間。
『僕はサカキのことが好き。』
「叔父さん、教えてくださいっ…お金も小野瀬家もいらないからっ。一流サンに逢わせてっ・・・」
今さら届かない思いを僕はゆっくり認めていた。
サカキが居ないことが辛いなんて、思ってもみなかった。
早く居なくなれと思っていた日々が嘘みたい。
あんな奴のために泣くなんて思っていなかったのに…
「…真尋、顔をあげなさい。何もいらないとお前は言ったな?なら話は早い。望通り榊クンの家の住所を教えてあげよう。」
…★…★…★…
一流サン家の住所を教えてもらったその日は時間も時間だったし、迷惑だと思ってとりあえず眠って、翌日のプール補習後に向かうことにした。
だけど、鈴木クンが女の子に告白するとかで手伝ってあげていたら学校を出るのが遅くなってしまった。
「鈴木クン、良かったね。」
「うぉおっ!マジで感動だぜっ!!まさかあの熊沢も俺のこと好きだったなんてなあっ…!」
「男泣きはキモイぞ、鈴木…」
いつでもクールな吉岡クンに鈴木クンを任せて僕は制服のままかけて行った。
「真尋ッ!そんな上機嫌で…気をつけろよ!!」
「は〜いッ!二人とも、また明日あっ!!」
やっと、一流サンに会うことができる!と、小さな期待を胸に走っていく。
この時間なら一流サンは家に居るだろう。
仕事終わるのいつも早いから、きっと家でご飯を食べているだろう。
北中の近くのバス停からバスに乗って、10分ぐらい。
さらに歩いて辿り着いたのは茶色に塗られた僕の家より小さなアパート。
ニコニコ笑顔で階段を駆け上がろうとすると、上から男の人が楽しげに話す声がした。
(今日は帰ります!!)
(ああ、ありがとな!)
"ありがとう"とお礼を言った声の方は聞き覚えのある低い声だった。
嫌な事しか考えられない僕の前からやってきたのは携帯を片手に笑顔で走る髭を生やした一流サンと同い歳ぐらいの男。
──僕は一流サンの前で一度も笑ったこと、ないよ。
悔しくて、素早く階段を駆け上がっていく。
目の前には空を見上げて大きな溜息をつく一流サンの姿。
らしくない黒い瞳の輝き。
状況が理解出来なくて、今すぐ気付いて欲しくて…
僕は小さな声で彼の名前を呼んでいた。
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