星空エビデンス
nitwit star
伯母さんとミクちゃんはカレーを食べながらサカキの話しばかりしてニコニコ顔で帰っていった。
その日、僕は初めて夜を一人で過ごした。
4月から始まったこの一人暮らしも3日前までずっとヌヌちゃんと過ごしていたし、ヌヌちゃんが居なかった3日間もアノ変態が家に居たから…
夜の景色はこんなに冷たくてどこまでも暗く寂しいんだなと思った。
ぼっーとしながらもぐっすり寝ることができた朝、作ったカレーをタッパーに詰めて学校へ持っていくことにした。
――ピンポーン
朝早くにチャイムの音。
今日は月曜日なのに伯母さん、お弁当作って来てくれたのかな?
急いで玄関に行って扉の穴を除くと、俯いた男の顔が見えた。
戻ってきた…
少し安心した僕は深呼吸をし、気持ちを整えた。
「小野瀬、おはよう。」
二度と見ることは無いと安心していた顔、釣り上がった瞳とニヒルな口元は相変わらずか。
って一日離れただけだけど…
「いきなり悪いな。今日は、お別れに来たんだ。」
「えっ…?」
二度と戻って来ないと思っていたのは嘘だ。
アイツはまた戻ってくる…
平然と、笑顔で「小野瀬、ヤろうぜー」とか言って。
だから、お別れなんて言葉を聞いた時、胸の中の何かがチクッとしてぎゅっと拳を握りしめていた。
「3日間、本当にすまなかった。お前の言う通り最初から俺、どうかしてたみたいだ。力で捩じ伏せたって何も変わらないのに…自分勝手に襲って、傷つけてごめん。」
違うよ…
サカキ、違う。
なんで、こんなに哀しいんだろう。
僕はどうしたいんだろう。
いや、分かっている・・・
サカキに姿を消せと言ったことを悔やんでいるんだ。
「で、コレ…お詫びも何もねぇんだけど、お前の大切なモンだ。」
「・・・・」
渡されたのは星柄のプレゼントボックス。
「中、開けてくれ。」
「はい・・・」
巻かれているリボンを外し、包装紙も丁寧に取る。
サカキはその僕の様子を腕を組みながらじっと見ていた。
「うわああっ、ヌヌちゃんッ!」
中に居たのは僕の大切な家族、クマのヌヌちゃん。
久しぶりの再会に思わず笑顔が零れた。
3日前と変わらない…目の輝き、少しけばけばしてしまった毛並み、大きな首の赤いリボン。
腕にはローマ字でmahiroと書かれた赤い革のブレスレットが嵌められていた。
存在を確かめるためヌヌちゃんに微笑みかけ、ぎゅうっと抱きしめた。
「ああっ、くそっ…」
ふとした拍子に僕はサカキに抱きしめられていた。
ヌヌちゃんは僕とサカキに挟まれる形に…
さっきはお別れって言ったのは冗談だったみたいだ。
安心感に包まれた僕は初めて、サカキの背中に腕を回して温もりを肌で感じることが出来た。
「小野瀬…」
「一流さんっ…」
手がゆっくり伸びてきてあごをクッと上に持ち上げられた。
整ったサカキの顔が近づいてきて熱く口づけを交わす。
変わらない暖かい舌がぐいぐい奥に侵入して僕は息を何度も飲む。
心拍数もあがり、サカキに緊張が伝わってしまうんじゃないのかってぐらいバクバク鼓動が鳴り響いた。
「…ありがとな。」
目の前に居るサカキは涙を流して泣いていた。
僕はその真意が分からなくて首を傾げる。
ヌヌちゃんを奪った事を悪いと思っているのかな…
結果、帰って来たし僕は気にしていないのに…
「本気でお前が好きだったよ。」
・・・
「だった…?」
「…元気でな。」
僕の頭を優しく撫で、サカキは駆け足で去っていった。
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