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今日一日ずっと挙動不審な浅井さんが擦れ違い様、僕の肩とぶつかって小さくすまないと言った。なかなか目を合わせてくれない浅井さんはそのまま席に着いてパソコンで作業している。

一週間前のよう、ブツブツ僕の悪口を言いながら仕事していた彼はもうここには居なかった。



「桜庭、1番にヨシダさんから電話だ。」

「…あ、はいっ!」

「お前に用みたいだからな。もしかしたら契約増やせるかもしれないから…慎重にな。」



気抜け顔で浅井さんを見ていた僕は繋がった電話を取り、ヨシダさんの対応をした。

浅井さんの言う通り、気分が良さそうなヨシダさんは早速ヨルヒフードとの本契約について僕に相談してきた。



「お電話代わりました、桜庭ですっ!」

『おぉ、桜庭君!実はねぇ、来月から本格的にウチでヨルヒフードの商品を出そうと思っていてね…』

「ヨ…ヨシダさん、ホントですか?」

『勿論嘘じゃないさ!ヨルヒさんのお酒以外にもタブレットや栄養ドリンク、ジュースも店に並べたいと思って…、』



僕の頑張りだけじゃないのだけど、ヨシダさんは担当も僕に任せたいと言ってくれて話をどんどん前向きに進めた。

この一週間が始まって4日目、浅井さんのおかげで大損害から免れて。ヨシダさんや課長にたくさん怒られたけど、ヨシダさんは僕に信頼を置きたいと言ってくれた。



「ではまた明日、お昼過ぎにお伺い致します!」

『ああ、浅井君にもよろしく言っといてくれ!』

「はいっ!ありがとうございます!」



この僕が担当に大きな薬局さんの営業を任されたのも実は僕の力ではない。あの時浅井さんが僕を助けてくれたから。影でずっと支えてくれたからなんだ。

そう思うと浅井さんが居なきゃやっぱり三課は回らないと、つくづく思う。



「浅井さん…あ、あのっ、ヨ、ヨシダさんが来月から本格的に契約したいと…担当は僕で、よろしくお願いしますと言われましたっ!」

「…ほ、本当か?」

「はいっ!8月から…僕が

「良かったな、桜庭!大手企業のヨシダ薬局と契約なんてそう簡単に出来ることじゃないぞ!」



溌剌と響く低音、綺麗に輝く蒼い瞳。浅井さんに微笑みかけられたその瞬間、僕は確実に自分の気持ちを理解していた。

入社してからずっと僕に厳しかった彼の何でも無い笑顔が僕の心をおかしくする。この一週間彼の神髄に触れて僕は変わってしまった。









全ての始まり、会議室。
そこに呼び出された僕は大きな窓ガラスからこの辺り一帯の景色を眺めていた。

一週間の最後の日の今日。
僕は好きな人に想いを伝えるため今日で全てを終わらせると誓った。そしたらまた彼の笑顔を見られるはず…と希望を抱いてある人物を待っていた。



「桜庭君、」

「風間さん…」

「お疲れ、どうだった?一週間、浅井との生活は?」



銀糸の髪を靡かせ、目の前に現れた風間さんはセンターの席に足を組んで座り浅井さんとの一週間について尋ねてきた。

いろいろあったけど総合すれば充実していたあの一週間をどう評価し、伝えたらいいのか分からなくて僕は下を向いた。



「そんなに辛かったんだ…そりゃそうだよね、この世で一番嫌いな浅井に犯されちゃったんだもんね。」

「・・・。」

「いっぱいエッチなことされたの?気持ち悪かった?好きな人にならいいけ、

「風間さん!ごめんなさい!僕、実は浅井さんとは何もしてないんです!」



本当のことを話した僕は風間さんに何を言われても承知でいた。この事実がある以上は約束を破ったことになるし、交換条件が果たせていないため僕がいけないことになる。

目を丸くして驚いている風間さんはくすりと大声で笑って本性を曝け出した。



「おい、どういうことだよ。桜庭くん…君、私をバカにしているの?」

「や、そうじゃなくて…」

「まあ、確かに決定的な証拠はなかったよね。なら、仕方ない、今から浅井さんを呼ぼう。それでここでセックスしなさい。」

「か、風間さん!!」



何を言っても聞く耳を持ってくれない風間さんは携帯を片手に会議室の外へ消えて行った。もし浅井さんの耳にこのことが入ったら全てが終わると絶望し、膝をつく。

最初から僕は幸せになっちゃいけない人間だったんだ。




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