SEVEN
7/29 (THU)
重く扉が開く音と差し込んだ光に目覚めた僕は眩しい明かりに目を擦り身体を起こした。ゆっくり起き上がると同時に低い叫び声が響いて、聞き覚えのある声に意識が整う。
目の前で血相変え走る影は大きく、昨夜僕が求めていた姿がそこにはあった。
「桜庭っ!どこだ!さくらばっ!」
「あっ、浅井さんっ…」
「っ、お前っ…!」
綺麗な蒼を輝かせ、僕の目の前に立つ浅井さんは何よりも早く僕の姿を捕らえて強く身体を引き寄せた。
加減の無い力にホッとした僕は大きな身体に包まれる温もりを幸福に感じていた。
「バカヤロウ、すっごく心配したんだぞ…」
「す、すいません、」
「何回も電話してるのに出ないし…カレー作って待ってたのに、お前と…お前と一緒に食べたくて、ずっと…心配かけやがって、」
息を何度も吸い込みながら僕を抱きしめる浅井さんの身体はドクドク、心臓の音が僕の耳に留まるくらい大きく鳴り響いていた。
言葉の拙さからも分かるよう心配していた鼓動のスピードで想いが鮮明になる。
「確か今日が最後の日だったよな、」
「…は、はい、」
「そうだな桜庭、今日は俺と帰ろう。お前にちゃんと話さなきゃいけないことがあるんだ。」
浅井さんの“話さなきゃいけないこと”を前から予知していた風間さんの姿は無く、僕一人だけ地下倉庫に閉じこもっていたとすぐ社内中話題になった。
もし浅井さんに何か言われても風間さんの発言通り伝えようと自分自身を守るためと彼が来る前はそう思っていたけど、このぬくもりに触れて僕の答えは決まっていた。
◆
「カズくん!生きてたか?浅井にいじめられたんか?」
「か、課長!それは違、
「倉庫に閉じ込められたなんてイジメかと思うわ!第一発見者がムキムキ浅井なんてどうもおかしいって、話題になってなー!日頃から浅井がカズくんに怒ってるの見てた人からすれば…浅井にやられたんじゃないかって、言うてたんや。」
浅井さんが後ろに居るのにも関わらず大声で浅井さんを悪く言う課長は僕のほっぺをぷにぷに触りながら何度も安心したと言っていた。
そこまで事件に挙げるのは大袈裟だと思うけど、課長はそういうネタが大好きみたい。
(浅井には気をつけるんやで…カズくん、)
(な、何をですか?)
「アイツはな…もしかしたらゲイとか言う部類の人間かもしれないんよ。あーんなイケメンやのに彼女の噂は一切無い、可愛い子から告白されても必ず断る。知ってるか?先月、秘書課のマドンナ千崎すみれに告白されたのにフリおったんや!それに!巨乳も嫌いやて、アダルトビデオも貸す言うめも借りん。ホンマ意味分から
「課長、俺の悪口言うなら俺が居ない所で言ってもらえますか?仕事の邪魔なんで。」
僕の真後ろに立っていた浅井さんは何十にも重ねられた書類の束を百瀬課長に押し付けて給湯室の方に姿を消してしまった。
浅井さんに発見されてからもう大分経つのだが、浅井さんは僕の顔を全く見てくれない。
「わぁー!アイツ、今日頼んだ仕事全部終わらせてるやん!ホンマ冗談通じない堅物クンやね、」
「あははは…」
「カズくんもあぁなったらアカンよ!早う開発行ったらえぇのに…変わり者やから営業に留まってな、」
「…はい?」
「カズくん、知らんの?浅井は先月開発にスカウトされてな。市谷がめっちゃ推したのに俺は面倒を見なきゃいけないダメな部下を持ってるから三課じゃなきゃダメだって断ったんよ…」
百瀬課長から聞いた話と浅井さんが言っていた話の違いに僕は首を傾げる。何故浅井さんが三課に留まるのか、今更分からないと言っても許されないと思った。
それに僕も。
浅井さんがもしこの席から消えてしまったら、僕の隣から去ってしまったらなんて…―怖くて、恐ろしくて、切なくて、考えたくなかった。
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