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閉じ込められた倉庫の中、風間さんは嘲笑しながら僕の身体に触れていた。心まで焦がれるような浅井さんの舌とは違い、ただ滑っているだけの舌がザラザラ当たって寒気立つ。

きっと浅井さんで慣れてしまったから、嬉しいことも身体が理解出来ないだけと安易に考えていた。



「…私はゲイじゃない。それに君へ特別な感情も無い。だから浅井のように君にキスをしたって興奮しない、」

「・・・。」

「ということでサービスはここまで。夜はここで明かして浅井をビックリさせようね。」

「風間さん、それは一体どういうことですか!」



案の定、風間さんの目論見に引っ掛かった僕は逃げようと走って出口へ向かったが、固く扉は閉ざされていた。

僕に興味無い風間さんは浅井さんの気持ちを手中で転がし、弄んでいる。恐ろしい表情も甘いマスクで隠せば素敵、裏表はっきりしている風間さんはどこからか持ってきた寝袋を僕に渡してくれた。



「電波も繋がらないからね?」

「くっ、」

「浅井と今日は何する予定だったの?やっぱりセックス?そんなに気持ち良いの、浅井とのは。」



ゴソゴソ音を立てながら寝袋に入った風間さんは予定通りで嬉しいのか、無駄に瞳を輝かせ僕と浅井さんの情事について話しを振ってきた。

何もしていない浅井さんと僕。
さらに憧れていた風間さんの前でそんな話しは出来ないから僕は口を噤んだ。



「“初めて”の割にはセンスあるんだ…」

「はい?」

「ん、いや…何でも無いよ。エアコン効いてないから暑いかもしれないけどちょっと我慢してね、」



独り言を呟く風間さんは忙しなく寝袋に潜ると二度と僕に話しかけなかった。

一人ぼっちになった僕は高い天井を見上げながら浅井さんが今すぐココ来て僕のことを助けてくれたら良いななんて思っていた。









なかなか寝付けない、熱帯夜。暑くて冷たい倉庫は風間さんの寝息と風に当たる戸の音だけが響いている。

完璧に寝たであろう風間さんを見送って僕は地面に置かれたままのアルバムに手を伸ばした。
きっと何日か前に見てしまったあの写真。僕が浴衣を着て卓球を楽しんでいる写真。浅井さんのベッドのサイドテーブルに置いてあったそれはきっとここから抜き取った物だろう。


『営業三課、集合写真』



開かれたページには笑顔の課長をセンターに宴会後、撮られた三課メンバーの集合写真が貼られていた。

左端に立つ僕の隣には姫宮、村雨、百瀬課長に武田さん。右端にはムスッとふて腐れた顔の浅井さんが居るのだが…
何故浅井さんが嫌そうな顔をしているか分からない。



『宿、温泉にて』



次に開いたページには乳白色の温泉に浸かる浅井さん、百瀬課長、武田さんの姿。

そこでもふて腐れた顔は変わらず。たくましい鎖骨と首筋を覗かせる写真に僕はドキッとしてしまった。



「ねぇ、桜庭くん…」

「へ、」

「君は…浅井の何になりたいのかな?」



ぼーっと写真を見ていた僕の後ろで口を開いた風間さんは鋭い目付きで真剣に、僕の心中に食らいついてきた。

実際、この一週間を終えた後の僕に突破口は一つしか残されていないのだ。



「何度も言うようで悪いけど…今更好きになっちゃいました、なんてことは絶対に赦さないからね?」

「か、風間さんっ…」

「明日の最後、浅井に言いなさい『僕は他に好きな人が居るんです。だから貴方の気持ちには答えられません。』ってね。僕は浅井が大嫌いなんだ。あいつを傷つけられるのなら何だってする…何だってね、」



風間さんが僕の弱みを握っている限り僕は絶対自由にはなれない。そう確信して彼の言う通り頷いた。

浅井さんが僕を好きでも、僕が浅井さんを好きでも。きっとこの感情は嘘だろうと、彼の優しさに惚れてはいけないと。心に言い聞かせても頭のどこかではもう彼への思いでおかしくなりそうだった。




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