◇
「ヨシダさんはお前をよく飲ませたがるみたいだからな…りんごの350を飲むんだぞ?」
「はいっ!」
「それはノンアルコールだから…酔うことは無い。」
「ありがとうございます!」
昨日のアレで僕の泥酔癖を知った浅井さんは視線をクーラーボックスに落とし、こちらを飲むように指した。そんなところまでちゃんと考えてくれていることがちょっぴり嬉しくて、思わずお礼を言っていた。
さっきから浅井さんの言う通り頷いているだけの僕だけどお母さんみたいに全てを導いてくれる浅井さんに嫌悪感を抱かなくなっていた。前までは嫌で仕方なかった態度は寧ろ丁度良いと感じていた。
「当社は有名なヨルヒハイパードライ、今週発売したスピンスマッシュなどの発泡酒の他に女性や、発泡酒が苦手なお客様のニーズに応えるためサワーやチューハイなどのプロジェクトも密かに進めていました。そして、今回また新たに発売される商品はりんご、もも、レモンと種類も豊富でフルーティーな味わいと低カロリー、アルコール数は3%で誰でも安心して飲めるヨルヒフードイチ押し商品“フルーリッシュ”です。アルコール入りの他にノンアルコールのフルーリッシュも来秋発売予定となっております。」
「ほうほう、ヨルヒさんも考えたね。パッケージもかわいらしくてこれは女性が買いそうな商品だな。」
「はい、ヨシダさんのおっしゃる通り。フルーリッシュは若い女性をターゲットに制作しました。」
浅井さんの超絶な営業展開にやはり僕は隣でうんうんと頷いているだけ。
ヨシダさんは浅井さんに推されて、フルーリッシュを手に取り、笑顔を浮かべている。これはもしかしたらもしかする…かもしれない。
「じゃあ、桜庭君!君、ちょっとコレを飲んで私に感想を教えてくれ。」
「あ、はいっ!」
案の定、ヨシダさんに促された僕は缶を手に取りフルーリッシュをこくこく飲んでみた。
一瞬、喉がとてもひんやりした気がしたが、ヨシダさんに感想を求められていたため全く気にしなかった。
「…喉にスキッと通って…甘くておいしいですっ!果汁が10%入っているので桃の甘みだけでなく酸味も効いていて…これは女性じゃなくても幅広く御愛飲頂けると思います!」
「そうだね、桜庭君の言う通りだ。…来月からフルーリッシュ、展開してみようか、ね。」
「ということは…、ヨシダ社長ッ!」
「浅井君の営業スタンス、桜庭君の飲みっぷりがとても気に入ったよ。今回もよろしくね、ヨルヒさん!」
厳しいヨシダさんからベタ褒めされた僕らはフルーリッシュの営業許可を頂いた。僕はただ飲んで感想を言っただけだから、9割浅井さんの力だと思う。
「ヨシダ社長、では来月よりよろしくお願いいたします。」
「あぁ、他の仕事も頑張って!お疲れさん!」
「ありらとうごらいまひた!」
ニコニコ笑顔のヨシダさんに見送られながら僕らはヨシダ薬局の駐車場へ向かった。
営業許可を取れたから浮かれているのだろうか。とても不思議。ノンアルコールを飲んだはずなのに頭がポッーとしてきてしまった。
「あらら…?あさいしゃん、あさいしゃんっ、」
「ん?・・・あぁっ!お前、まさかッ!!」
「うぅっ、だぁあ、ッ…」
車についたと思って安心していたら頭がぽーっとして視界がぐらぐら揺らいだ。
浅井さんの心配そうな顔を見てバタリ。思い切りボンネットに沈んだ僕は意識を失っていた。
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