[携帯モード] [URL送信]
FOUR



7/26 (MON)

昨日の夜は楽しかった。すっかり僕は浅井さんに慣れたのだろう。二人で順番にお風呂に入って書類を作成している真剣な浅井さんの横でお菓子を食べながらテレビを見て笑っている。

オフィスに居ればきっとそんな怠けていないで仕事しろとか怒鳴られるのだろうけど、浅井さんは優しい顔で笑っている僕を見てくれていた。



「桜庭、大丈夫か?」

「はいっ…」

「課長には俺から適当に言っておくから、しばらく休んでいろよ。」

「あ、はい…すいません、」



そんな楽しい夜を過ごし、無駄にお酒も飲んでしまったため気怠さが残っている。浅井さんはそんな僕にも声をかけてくれるようになった。



「桜庭、シャワー浴びろ。下着はココに用意してあるからな。」

「はい、」

「じゃあ俺は先に行くぞ。無理するなよ、」



支度を済ませた浅井さんは僕の朝ごはんまで用意していてくれていた。いつもの味噌汁と魚もある。健康思考な浅井さんならではの朝食。

シャワールームへお腹を掻きながら向かうとカゴの中にシャツもパンツも入っていて本当にキッチリしている人なんだなと思った。



「よしっ、僕も行かなきゃ!今日も一日頑張るぞっ!」



気合いを入れて頬を二回、パチパチッ。実は今日はヨルヒフードの新商品『スピンスマッシュ』の発売日なんだ。担当課である三課もみんな各部署回って大忙し。身体が怠いのは治らないけど、みんなに迷惑をかけちゃいけないから…

僕も休んでいられない。
早く会社に行かないと。









会社に向かうと、誰ひとり居ない静かなオフィス。新商品の発売日で開発課の人も仕事に追われているらしく、挨拶をしたが無視されてしまった。

三課の皆も初日で各担当場所で宣伝や販売しているんだと思う。だから僕も急いで姫宮と担当しているヨシダ薬局さんの所へ向かおうと、書類を整理していた時だった。



「写真、ありがとう。」



後ろから聞こえた冷たい声に全身、罪悪感が染み渡る。

実は昨日の夜中、僕は浅井さんの顔を写真に収めていた。風間さんに頼まれた通り浅井さんの寝顔が写った一枚を、自分の罪を守るために送ったんだ。前の僕なら悪い気はしなかっただろう。でも、3日過ごして、いろんな浅井さんを見ているうちにほんの少し…
こんな自分、嫌だなと思ってしまっていた。



「今日はお休みでいいよ。この写真のおかげで気分が良くなった。ありがとう。」

「ど、どういたしまして…」



何故風間さんにお礼を言われたのか。意味が理解できない僕を見送り、ニコッリ笑顔の風間さんはオフィスを後にした。

風間さん…
今は悪い人だけど一週間後にはきっと僕が見ていた優しい彼に戻ってくれるはずだよね?この一週間は我慢の期間なんだ。思いを伝えるには我慢も必要なんだね、きっと。

あんな酷い命令ばかりされているのに笑顔を見てドキドキした。すごくカッコイイって思った。ずっとあの笑顔を見ていたいと思った…―やっぱり僕は風間さんが好きみたいだ。



「風間さん…」



長く綺麗な後ろ姿に語りかけるように僕は自分の思いを再確認する。これが終わったら幸せになれますように…と叶わぬ夢を抱いて遠くなる姿を見つめていた。




[ret*][nex#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!