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仕事用のバッグに入れていた携帯が鳴り、僕は何も考えず電話に出た。誰からかなんて見なくても分かる。大好きなのに電話が来ればとても嫌な気分になる相手、風間さんからの着信だ。



「もしもし…」

『おはよう、桜庭クン。昨日は大胆にも抱きついたのにエッチできなかったんだね。』

「…か、風間さん、見てたんですか?」



朝から告げられた目撃情報。
昨夜、オフィスであんなことしてた僕らを風間さんは見ていたらしい。

僕が思っているのは風間さんだけなのに、好きな人に変なところを見られたことで切なくなった胸がキュッと痛くなった。



『自分を抑えるので精一杯なんだね、浅井は。君のこととなると彼はおかしくなってしまう傾向があるから…』

「浅井さんがおかしくなる?」

『そうさ。昨日一昨日の感じを見れば分かるよね?浅井の気持ち、』



風間さんの言う“昨日の感じ”を僕は一生懸命思い出してみることにした。でも、特に変な点はなかったと思う。というか、男同士でセックスをしようとするという点から間違っているのだが…。

もちろん浅井さんの気持ちなんか分かるわけない。ついでに言えば興味も無いから知りたくもない。



『…可哀相な宏紀クン。いつまで経っても報われない。』

「・・・。」

『今日はちゃんと命じよう。届いたそれを着てご主人様に奉仕しなさい。もちろん証拠写真もお忘れなく…それじゃ、』



調子の良い声で三日目の指示をした風間さんに失望しつつ僕はきちんと命令に従うことにした。

ダンボールから取り出したフリル付きのシャツに袖を通し、首のリボンも結ぶ。鏡を見ながら自分の姿を確かめソファーで待っている浅井さんの元へ向かった。









『はっ、早く出て来いよ!』



いつもより高い声をした浅井さんが、壁に隠れて居る僕を呼ぶ。着替えたのは良いがこの格好で彼と一日過ごすのは相当厳しい。

スカートの丈は短くて、タイツはムズムズするし。それに、なんだこの猫耳は。萌えとかいうヤツなのか?そもそも女装なんかして何が楽しいんだ?



「…ったく、俺は別に気にしない!何もしないから早く出て来なさい!」

「あ…、浅井さん。ホント、本当に笑わないで下さいね?」



掴んでいたオプションのステッキにぐっと力を込め、ソファーで寛ぐ浅井さんの前に立つ。

あぁ、死にたい。今すぐ飛んでなくなりたい。こんな格好、バカみたいですごい恥ずかしい。



「…さくらばっ、」



口をあんぐりさせたまま見つめる熱い視線に耐えられなくて、僕は再び壁に隠れた。

あの様子だと確実にキモいと思われた。開いた口が塞がらないは、まさにあの顔のことだ。



「えっと…よっ、きょっ・・・今日はどど、どうしたもんか…あはっ、あははは・・・」



かなり動揺している浅井さん、反応に困ってしまったみたい。エアコン効いてるのに、すごい冷や汗掻いて。

正直に気持ち悪いなら気持ち悪いって言って欲しいな。そしたら喜んで脱いであげるのに。



「あのっ…今日は僕、この格好で浅井さんと居ないといけなくって…嫌だったら嫌だって言ってく

「酔ってんのか?」

「ちが、違います!こっ、これは僕の意志ですから。」



手でパタパタと顔を扇ぎながら浅井さんは僕の様子をじっと見つめていた。

その何かを見透かすような視線は余計にボクの緊張を高めるだけ。バレないように一週間過ごさないと、風間さんに知られたら大変だ。



「じゃっ、じゃあ…朝ごはん作ってくれよ。」

「はいっ!」



赤面した浅井さんはキッチンを指差し朝ごはんを作るよう命令した。こんな格好の何がいいのか、風間さんのセンスもわからない。

ボクは慣れないメイド服を着たままキッチンへ。何を作ろうか、考えながら作業に取り掛かった。




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あきゅろす。
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