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mellow2※
※最初からそんな事になってます。
※益田君は殆ど喋りません。












ひそめた声が余計に興奮させるのか榎木津はいつもより丹念に、というよりは濃厚に愛撫を施した。声を抑えなければならない状況なのは承知しているが、それならそれでもっと我慢させてやりたくなる。

「ん‥‥、ん、んっ‥んぅッ 」
先程、榎木津がそうしていたように益田はシーツに顔を埋めて声を殺している。時折り、ぷはぁと息を吐き出す。
うつ伏せにした益田の背中を背骨に沿って舌で舐め上げながら脇腹に指先で軽く触れ、なぞるように滑らせた。更に上に指先を移動させると小さく尖るものに触れた。益田の身体が分かりやすく反応する。
「っふ‥、ぅ」
期待を裏切るように、その周りをくるりと一撫でして腹筋に指を滑らせる。下腹部を辿って立ち上がり始めた益田の中心部に指だけ絡めて離した。焦らされている。
何もかもが焦ったいのに、その一つ一つが益田を確実に狂わせていく。いつもより興奮しているのが自分でも分かる。足の指をきゅっと縮めて僅かに腰を上げた。益田の意思でそうしているのではなく、勝手に腰が浮いてしまうのだった。
その浮いた腰を掴んで榎木津の舌が仙骨から尾骨に這う。際どい所を舐められると急に恥ずかしくなった。
「だっ‥‥だめ、です‥、そんな所っ、あ、」
身体を反転させようとして押さえ込まれ、耳を舐められた。尖らせた舌の先を耳の穴に突っ込まれて抜き差しをされると、ざわざわと全身に鳥肌が立った。それに反応して固くなる乳首に指が這い、抓って離れた。
「あ、あ‥‥」
僅かな刺激を受けて声が漏れ出そうになり、シーツに押し付けようとしたその顔にも指が伸びて唇に触れた。
「舐めて」
抑制された口調だった。
艶を帯びた榎木津の低い声が先程まで犯されていた耳に落ちた。益田は息を呑んでグッと腹に力を込め、あられも無い声を飲み込む。 
唇を優しく撫でる指先に促されて、益田はその指に舌を伸ばした。

ぺろぺろと舐められる指先が擽ったい。
舐めろと言った自分の命令に素直に従っているのだ。可愛くないわけがない。
まるで犯すみたいに背後から覆い被さって益田の動きを封じた。衣服を脱がせると益田の線の細さが一層顕になる。上に乗る度、折ってしまわないかと不安になった。それでも抱き潰すのをやめる事は出来なかった。
抑えている声も、時折り混じる泣き声のようなひそやかな喘ぎも。どれもが榎木津を高揚させる。合わさった肌の温度が幸福と残虐と感傷を呼び起こす。それが許されて受け入れられるのは、この年若い恋人だけだった。
与える愛撫に素直に反応を返して熱くなる細い身体。華奢な腰が揺れて誘う。薄暗い部屋で、声をひそめた恋人が小さく喘いでよがる。
───たまらない。
榎木津は知らずに吐め息を吐いていた。


「‥‥吸って」
暗く響いた榎木津の命令に従って口の中で舐めていた指に吸い付く。くちゅうぅっと人差し指と中指に同時に吸い付いた。舌先で二本の指の間に舌を這わせながら吸って指先の腹を舐めしゃぶる。
これが欲しい。これが欲しいんだ。
「ん、っふぅ‥‥んん、んっ、」
鼻から抜ける自分の吐息は相変わらず媚びているような声音だと益田は思った。
可愛いと、思って欲しいのか。
男の自分を?
考えるたびに気持ちが沈んだ。どうしたって自分は可愛らしくはなれない。なのに。
嫉妬したと榎木津は言った。あの可愛らしい女子高生を相手に。凄く嬉しかった。


『くだらないよ』
いつか榎木津が言っていた。
僕に正解を求めるなら、お前が先に解答を示せ。全部否定してやるから。
そう言って不敵に笑った。 
僕が好きなものは僕が決める。誰にも文句は言わせない。君にだって言わせない。
そうして榎木津が益田を抱きしめて囁いた言葉は───。
呪いか、でなければ言祝ぎだ。
どちらも同じ意味だ。
その甘く優しい呪文で益田は生かされている。


「もっと強く、吸ってごらん」
耳のすぐ後ろで囁かれる。甘い声。榎木津の声。益田はその命令に従って口内にある指に吸い付いく。舌の上を這う指が性感帯を刺激して、益々息が荒くなる。
こんな所を触られて気持ち良くなるなんて思っていなかった。舌の上。付け根。表面、歯列の内側。すべてこの指に暴かれた。
益田は榎木津の手を掴んで咥え込んだ。
二本の指を根元まで口に入れ、それに見立てて舐めて吸った。
酷く興奮しているのが分かる。たったこれだけの行為が何故脳を揺する程の興奮剤になり得るのか。疑問に思いながら益田は腰の浮いた隙間から、もう片方の手を入れ自分の股間に伸ばす。痛い程張ったそこを触りたい。
「こら。まだ駄目だよ、もう少し我慢して」
榎木津の手がそれを優しく阻んだ。
「は‥‥んん‥‥」
わずかに涙の浮いた熱の籠った益田の目を覗き込んで笑う。とても優しく笑うので首を横に振ってみた。多分、今なら許される。そんな気がしたからだ。
情事の時の榎木津は大抵優しい。普段からは想像も付かない程、甘やかしてくれる。それは、世の恋人達は少なからず皆似たような状態になるのだろうとも思うのだが、榎木津の場合は普段との落差が激しい分、破壊力が増すのだ。
破壊力されるのは益田の精神と身体だ。

「や‥‥だ‥‥やだ‥も、ぉ‥‥触りたい」
小さな声で小さく反抗する。口の中にはまだ指があるので、それはくぐもって聞こえた。
とても甘えた声だ。
「困ったな‥‥」
可愛い。
いつもこれくらい甘ったれてくれても構わないのだがと思わず笑みが溢れる。くたりとした少し長めの黒髪を梳くように撫でる。柔らかい直毛が愛おしくてこめかみや目蓋にキスを落とす。何度も。
「そんな風に、可愛く言うのはズルいだろ」
ズルいと言うなら自分の方がズルいと榎木津は思う。
「もっと焦らしてあげたくなるね」
こうやって優しく虐められるのが、益田は好きだという事を知っていてするのだから。
もう一度目蓋にキスをして、ゆっくりと指を引き抜いた。唾液が糸を引いて指と唇を結んでいる。
「ほら、腰あげて」
益田の細い腰に手を添えて促す。酒に酔っているようなとろんとした目が榎木津を見た。少し不安そうな顔つきだった。
浮かせた腰を更に引き上げて、益田の足の間で
張り詰めたものに触れた。可哀想な程、熱を帯びて硬くなった先端から蜜のような先走りが垂れていた。
「っ‥‥‥あ、ぁ──っあ」
軽く触れただけでこの反応だ。丹念に愛撫をして焦らしただけの事はあるな、と榎木津は満足そうに笑った。

促されるまま腰を上げた状態で握り込まれた。びりびりと電流が走るようにそこから快感が広がっていく。更に腰を突き上げる格好になってしまった。榎木津が微かに笑った気配を感じて益田は恥ずかしくなる。今更だとは思うけれど。
「ここ、触ってあげるから、足、閉じて?」
‥‥そうそう──いいコだね。
優しくて甘くて重く低い榎木津の声が麻薬みたいに脳を融解する。その声だけでもいい。もっと欲しい。
耳と乳首と口の中を弄られただけで達してしまいそうになるのは、そういうふうに榎木津に改造されたからだ。 
「ぁ、ん‥‥」
──それは、僕のせいじゃない。

閉じた足の会陰部に、自分のものを沿わせて擦り入れた。ぬるりとした感触は自身の先走りだろう。
「っ‥‥‥、」
榎木津はぶるりと痩身を震わせた。益田を追い詰める一方で自分自身も追い込んでいるのだから呆れる。
しかし、そうでなければこの行為には何の意味もない。どちらか一方が、一方的に快楽を貪って終わりという行為にはなんの意味もないし、ただ虚しいだけだ。だからこそ榎木津はセックスの最中には殊更、優しくなれる。自分がどれだけ愛しているかを徹底的に暴力にも似た強引さで益田に教える為に。

先端が益田の陰嚢の裏に当たって擦れる感覚が気持ち良い。陰茎の締め付けはさほどでもないが、ゆっくりと抜き差しを始めると視界に映るいやらしい様に興奮した。
細い身体を、痙攣したかの如く震わせる益田の身体と尻の間を滑る怒張した己の陰茎が濡れている。
「‥‥‥ふっ、」
堪らず息を吐くと、四つん這いになった益田も抑えた喘ぎを漏らした。鼻から抜けるその声が聴覚を刺激する。
もっと聞かせてくれ。

閉じた太ももの付け根辺りから熱く濡れた感触が入ったと同時に、それが榎木津のものだと気が付いて身震いした。陰嚢の裏の濡れた感触がむず痒いような快感で、同時に竿を擦り上げられるのが気持ち良くて、でも声を抑えなければならないこの状況にとても興奮する。額をシーツに押し付けて益田は声を殺した。
腰を掴まれ尻たぶを左右に広げられて、穴に何かぬるぬるとしたものを塗り込められている。これは先程、自分が舐めしゃぶっていたあの指だと思い至る。これが欲しいと思っていたのがバレていたのだ。
所詮、益田の思惑など榎木津にはばればれで隠し事なんかできない。
ぬっと指の入ってくる異物感があった。
「だ、だめ‥‥です、それ‥っ、ゃ───あ」
入り口の内側を円を描くように浅く擦られて息を飲む。制止しようとした手から力が抜ける。ごく浅い部分を指先でぐるぐると回しながら突かれると、我慢ができない。足からも力が抜ける。崩れる身体を榎木津に抱きとめられ、一緒になだれ込んだ。

榎木津は涙に目を潤ませた益田の顔を覗き込むように唇を重ねた。唾液の滲む舌を絡めて吸った。
「‥‥なぁ‥少しだけ、声聞かせて」
根元から圧迫を加えるようにして竿を握る。
「ふっ、ぅ‥‥んんっ」
上下に扱くと先端からまた先走りが溢れる。ぬるつく感触に思わず声が出そうになったが、すんでのところで飲み込んでわずかに首を振った。
「ん‥?‥‥聞かせてくれないのか?」 
「‥っん、ぅ」
扱いていた益田のものと己のそれを合わせると、榎木津は益田の片手を取って二本ともを握らせる。その上から自分の手を重ねて上下に動かした。
「あ‥‥」
隣と階下には友人達がいるのだ。もし自分のそんな声を聞かれたら面と向かって会話もできなくなるだろう。益田は唇を結んで更に首を振った。パタパタと、伸ばした前髪が揺れる。
「分かったよ‥‥じゃあ、ほら。僕にだけ聞こえるように」
片方の腕を背中に回してしがみつかせ、顔を自分の耳元に寄せるようにして益田の頭を抱き込む。同時に、重ねた手に力を加えて動かした。緩急をつけたその動きに腰が揺れる。
「っあ‥‥あ、あ、ぁ──」
榎木津のこめかみ辺りに顔を埋めて小さい声を出す。素直な反応が嬉しくて、榎木津は抱き込んだ益田の頭を撫でながら囁く。
「ふふ‥声、いいな‥‥かわいい」
「ぃ‥‥ぁあっ、あ、あ‥‥」
「‥‥気持ちいい?」
「ぅん‥っ、うんっ、えの、きづ‥‥さんっ」
額を擦り付けるようにして頷く。
その小さな動作が榎木津の胸を疼かせる。どうしようもない程、愛おしい。
榎木津はその大きな目を細めて笑う。
熱を帯びた額も触れるまつ毛も柔らかな頬も濡れた唇も、全部。

「きみが好きだよ。龍一」

それは、あの日聞いた呪いと言祝ぎの呪文だった。





「ハンバーグ美味しかった」
「え?‥‥そ、れはっ、良かった、です」
でも、つなぎは卵だけでパン粉は無かったのだが。そういうと、でも美味かったぞと言って榎木津は笑った。その笑顔にドキドキしながら益田は胸が一杯になると同時に、いたたまれない気持ちにもなる。隣で肩肘をついて寝そべった榎木津の顔から目を逸らす。
こんなに無邪気に笑うのに。
先程までの行為を思い出して益田は赤面した。散々焦らされた挙句、今夜も地獄を見る程の快感を味わったのだ。お蔭で足腰が立たない。
予定通りシーツを替えようとしてベッドから降りると、その場にくずおれてしまった。ひとしきり笑われた後に榎木津がシーツを交換したのだった。

「‥‥お土産に持ってきて貰ったチーズも入れましたからね。好きでしょう?チーズinハンバーグ」
「好きだ!」
「わわ‥‥っ、ちょっと、声が大きいですよ」
時計を確認すると午前二時が近い。ダウンライトの部屋の中は、宇宙空間にぽっかりと浮かんでいるような感じがした。確実に寝ているだろう階下と、もしかしたら起きているかもしれない隣室。聞こえていなければ良いなという益田の心配をよそに、榎木津は更に続ける。
「僕があの時好きだと即答したのはお前の事であって、女子高校生の事ではない」
「‥‥‥は?」
「まぁ女子高校生も好きではあるがな」
何を言い出すのかと思えば。その事か。
でもそれは益田の中で消化不良を起こしていたのも事実だ。だから榎木津が嫉妬したと言った時、独占欲と優越感を感じたのだ。
「でもお前は女子高生が好きなんだろう?好かれて嬉しいんだろ?」
にやりとした笑みを浮かべる榎木津は自信に満ちていている。益田の心は自分の元にあるという自信。それは事実なのだが。

「‥‥ええ、まぁそうですね。でも僕ぁ榎木津さん一筋ですんで、浮気なんかしません」
照れ臭いのでごろりと横に身体を倒した。榎木津に背を向けて身体を丸める。股関節のあたりがまだ痛い。
「ほんとか?」
背後で榎木津が起き上がる気配がした。
「本当ですよ。見てくださいよ僕のこの身体。もうお嫁にも行けない」
自らの体たらくを榎木津のせいにして、いつもの調子でそう言う。
「じゃあ、責任とらないとな」
「え?」
益田が榎木津を振り返る前に、長い腕が益田の身体を抱きしめた。


そうして囁かれた言葉は、呪いでも言祝ぎでもない。

それは、永遠を誓った幸福の呪詛だった。










end.







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あきゅろす。
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