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薔薇十字団男子寮
※現代パロで青木、鳥口、益田のルームシェアネタです。ギャグです。
※益田君は重度のオタクという設定の為、キャラ崩壊にご注意下さい。














青木が下宿を引き払い、益田と鳥口とともに一緒に住むのだと俺に報告してきた時には驚いた。他人と居を共にするなんざ煩わしいだけだと思っていたからだ。
そう言うと、それでもいいんですと楽しそうに笑ったから、俺はこうして引越し祝いの酒を持って奴らのシェアハウスを訪れたのだった。


「これ、ツマミです。夕飯できるまでこれで先にやってて下さい」
「おう、悪ィな」
そう言ってビールと共に青木が持って来たのは塩茹でしたアスパラと鶏モモハムだった。どうやらハムは自家製らしい。塩加減が絶妙で美味かった。
「それ僕が作ったんですよ」
灰皿を持ってきた益田が得意げに言った。なぜか純白のエプロンを着けている。ヒラヒラとしたレースのついたヤツだ。
「そ‥‥そうなのか。美味ぇよ」
俺は何故そんなものを着けているのか聞くのが怖く、あえてそこには触れずにおいた。
代わりに、喫煙者のいないこの家になぜ灰皿があるのか問うと、馬鹿探偵からの引っ越し祝いだという答えが返ってきた。どうみても百均かそこらで売ってるアルミ製の灰皿が引っ越し祝いとは。
あの野郎、さては自分用にするつもりだな。
「あと、木場さんが座ってるそのソファ。それも榎木津さんからの引っ越し祝いですね」
「‥あぁん?」
やけに座り心地の良いソファだと思ったら、これもそうなのか。だったらやっぱり、あの野郎は自分が座る為に押し付けたに違いない。

ごく普通の一軒家だった。
一階には風呂と便所と台所、野郎三人が悠々と寛げる程の居間と和室が一部屋。二階には洋間が二部屋と物置きとベランダ。因みに小さな庭もついていて、全く生意気にも贅沢な住処だ。こんな所なら俺も混ぜて欲しいくらいだぜ、と前言を撤回する。
三人は台所でなんやかやとくっ喋りながら夕飯の支度をしている。まるで学生の合宿のようだなと苦笑してしまった。庭に面した居間のガラス戸が全開になっていて、緩やかに吹き込んだ春の夕方の風がカーテンを揺らした。どこまでも平和な空気に和みつつ、俺はアスパラをフォークでつき刺し、ビールを飲んだ。


「木場さんも、何か意見やアドバイスがあったら言って下さい」
夕飯の支度が整ったテーブルに着いて鳥口が言った。そういえば今日はルームシェアをする上で大切な決まり事を審議するんだとか言っていたな。それで第三者の意見も聞きたいとか。
庭に面したガラス戸を背にして鳥口が座り、後の二人はその真向かいに座った。俺は両脇にそいつらを置いて、テレビが真正面に見えるソファの上を陣取っている。さながら判事のような格好になった。
「ああ、分かった」
若造どもがどんな意見を交わすのか、まぁテキトーに見物でもするか。ビール片手にそんな感じで気楽に構えていたのだった。


「じゃあ早速、益田くんより提案のあった件について検討したいと思いますけど」
「ああ。別にあれはあれで良いんじゃないか?彼女やそれに準ずる女性を連れ込む事禁ずるって、僕らにしたらそんな心配事は無用でしょう」
おい待て。大切な決まり事ってそれなのかよ。
いや、まあ大事な事ではあるのかもしれねぇけど。さすが若者の意見だと言えば言える。
「そんな事言って青木さん。いや、青木さんだけじゃないですよ、鳥口くんもです」
「何ですか?」
「お二人には本当に彼女は居ないんですか?彼女じゃなくたって、そういう‥‥ほら、あ、あれですよ、所謂、そのぉ‥‥」
益田は何かを言い淀んで目線を彷徨わせている。挙動不審に見えるのは垂れた前髪のせいだろう。街で見掛けたらまず真っ先に職質している所だ。
「セフレ」
そんな益田を面白そうに眺めて鳥口はビールを煽りながら、いともあっさりと言った。
「そ、そ、それですよ!その割り切ったオトナの付き合い方をしている女性!いないんですか?」
「今の所、彼女はいませんねぇ残念ながら」
「僕も居ません。作ってる暇がない」
「あやしい。あやしいですよ、お二人とも。特に鳥口くんの『彼女は』という言い方!彼女ではないけれどセ‥、身体だけの付き合いのある女性なら居ると言うふうに聞こえましたけど?」
目をすがめ下から覗き込むようにして益田は鳥口の顔を見た。やたら卑屈に見える。
鳥口は一瞬だけ目を丸くして、何かを思い出すかのように、アァと言った後、口角を上げてへラっと笑った。
「アハハッ」
その顔を見た瞬間、益田が豹変した。
「何笑ってるんだよぉ!モテ男のチャラ男が余裕ぶっこいて調子乗ってんじゃねぇよぉぉ!」
肯定も否定もしない鳥口の態度に、益田はテーブルを跨いで掴みかからんとする勢いで立ち上がった。
「益田くん、落ち着いて。キャラが崩壊しかかってるから気を付けて」
それを青木が制して宥めている。益田は肩を上下させて荒い息を整えた。
「‥‥失敬。取り乱しました」
取り乱しすぎじゃねぇか?
「ほんと気を付けて」

「そんな事言うけどさぁ、じゃあ益田くんはどうなの?本当は彼女居るんじゃないんですか?探偵なんてモテそうな職業なのに」
「モテませんよ」
落ち着きを取り戻した益田は今まで見たことも無い真面目な顔つきで、やけにキッパリと言い切った。
「探偵でモテるのは小説や映画の中の探偵か、榎木津さんくらいですよ。あの人が出てきた途端に女性は皆んなあの人しか目に映らなくなる。隣に居る僕なんかその時から居ないもの扱いですよ。AnotherですよAnother。Anotherだったら死んでますよ」
Anotherって何?死ぬの?
「ああ、まあ、そりゃご愁傷様としか」
「でも!皆んな、なぁんにも分かっちゃいない。外見に惚れて中身なんか見向きもしない。それで通常運転のあの人を目の当たりにして離れていく」
益田はそこでふっと顔を曇らせ、何故か馬鹿にするような声音で笑った。
「所詮、その程度なんですよ女の人は皆んな。あの人の事を理解しようなんてしないし出来ない!出来るはずが、ない‥ッ」
握りしめた拳を自分の膝に打ち付ける。
「‥‥益田くん?」
「あの人の事を一番理解しているのは、この僕なんだ!!僕が誰よりあの人を‥‥!榎木津さんの事をッ!!」
「分かったから。君の榎木津さんへの歪んだ忠誠心は良く分かったから」
青木はそこで何故か俺の方をチラリと見た。
どういう目配せだそれは?
「だから僕には彼女もセフレも居ません」
さっきは言い淀んでいたセフレという単語をスンとした真顔の早口で言い放った。お前にとってそれは口に出しづれェ単語じゃなかったのか?
「いや、だからという接続詞はどうなのかな。そういう風に聞こえてしまうよ?」
そういう風って、どういう?
「まあ良いんじゃないですかぁ?益田くんは魔法使いを目指しているんでしょう?」
いや、何でだよ。
「魔法使い?そうなのか益田くん。君の部屋には、魔法使いの少女達が苦難苦境を乗り越えた末に、あまり救いの無い最後を迎えるアニメのDVDがあったと記憶しているけれど、君自身が魔法使いになりたいなんて初耳だよ」
おいおい。おめぇも随分詳しいじゃねぇかよ、青木。
「僕はぁぁッ!30才までには童貞捨てますよぉぉぉぉ!!!」
益田は突然立ち上がって叫ぶと、膝から崩れ落ちるようにテーブルに突っ伏して肩を震わせた。泣いているようだ。
大丈夫かコイツ。情緒不安定なのか?

「益田くんが彼女無しの童貞だって事が判明した所で青木さん」
自分の皿に取り分けた唐揚げに、これでもかというほど七味を振りかけて鳥口が言った。
コイツも大丈夫なのか?
「なんですか?」
「青木さんは居ないんですか?本当に?」
「居ないよ。こんな事、嘘ついたって仕方ないでしょう」
「うへぇ、そうなんすねぇ」
鳥口はニヤニヤと青木を見つめ、七味まみれの真っ赤な唐揚げを一口で食った。
大丈夫か?咽せねぇか?
「何だよ?」
「いやいや、別に何も」
「ああ‥‥もう、面倒くさいから、いっそ女人禁制にすれば良いじゃないですか。ここはいわゆる男子寮みたいなものなんだし」
青木は、自分の取り皿に山盛りにしたマヨネーズの中へ唐揚げを放り込んだ。
‥‥お前ェも大丈夫かよ?そんな万遍なくマヨネーズを絡ませて、最早唐揚げには見えねェよ。ただの白い塊だよ。
「薔薇十字団男子寮ですか」
「薔薇十字団男子寮‥‥!!」
テーブルに突っ伏していた益田が勢いよく顔を上げて復活する。
「じゃ、じゃあ‥‥薔薇十字団女子寮もあるんですか!?何処です?何処にあるんですか、その魅惑の建造物は!!?」
目をギラギラとさせながら興奮気味に喋る益田は何だか気持ちが悪い。いや、健全なこの年頃の男なら当然の反応なのかもしれないが、益田の口から語られると同性の俺からしてもぞっとするような口調と表情で、正直、ぶん殴りたい。
「ない。ないんだよ、そんなものは」
青木は憐れみのこもった眼差しで益田を制し、落ち着かせた。何だか慈悲深い地蔵に見える。
「いいんですか?本当に?」
「いいだろう別に。その方がややこしく無いし変に気を遣わなくても済む」
「で、でもそれじゃあ中禅寺夫人や関口夫人も出入り出来なくなっちゃうんですか?」
「あのお二方はそうそう来ないでしょう」
「来てくれるかもしれないじゃないですか!作り過ぎた惣菜なんかを持ってきてくれたり、醤油が切れたから貸してくださいって、来るかもしれないじゃないですか!」
あの二人にどんなイメージ持ってんだ。こんな遠くまで醤油借りにくる馬鹿がいるかよ。
「じゃあ既婚者の女性に限ってはOKにすればいい」
青木が仕方がないというふに溜息をついた。どこか投げやりな感じに聞こえなくもない。
「ょしッ!人妻はOK!!」
「益田くん、言い方気を付けて。ほんと気を付けて」
「それじゃあ敦子さんは出入りできないんすね」
「っ!」
一重の細い目をカッと見開いた青木は鳥口に向きなおる。京極の妹がなんだってんだ。
「‥‥あ、敦子さんはっ!」
そこまで言って青木は顔を赤くして俯いた。
これは、もしや。そういう事なのか?
‥‥ほほう。
「敦子さんは、何なんですか?」
鳥口はニヤニヤと笑いながら青木を見ている。青木は微かに唸りながら鳥口を見返した。
「敦子さんも別に良いでしょう」
サラダの盛られた皿から、胡瓜、竹輪、チーズ、胡瓜、竹輪、チーズ、チーズ、竹輪とフォークで串刺しにしながら益田が言った。なんでチーズとチーズの間に胡瓜を挟まねぇ?順番守れよ。気持ち悪ィだろうが。ほんと殴りてェ。
「何でです?」
「だって敦子さんですよ?僕ら誰一人として彼女を邪な目で見てないじゃないすか。見ちゃいけないっつうか。距離を取って接している方が楽で安心できる女性でしょ?女神でしょ?そんな女性に僕らがナニできるってんですか?」
「え、あぁ‥‥そう、ですね」
「まあ、その通りなんすけどね」
「えっ?なんですか?もしかして二人とも敦子さんを邪な目で見てるっていうんですか?それは感心しないなぁ」
益田はそこで正座をして居住まいを正す。他の二人も益田に倣う。なんなんだ、こいつら。
「いいですか?推しは唯一無二の存在です。清らかで聖なる存在です。聖域です。そんな推しを穢す事は万死に値しますよ。そのような淫らな想像は頭の片隅にチラとでも思い浮かべてはなりません」
「「はいっ!」」
‥‥‥‥ヤベェ。
「我々は推しの笑顔と幸福の為に日夜研鑽し推しの心安らかなる日々を願いその人生が健やかなものである事を至上の喜びとする」
益田は切長の目を半眼にして両掌を上に向けた。何してやがるんだよヤベェよ。何の宗教だよ。つうか推しって何?
「敦子さんは出入り自由って事でいいですか?」
「勿論ですよ」
青木が言った。
「世界の常識です」
鳥口が後に続く。
なんとなく目の色が違って見えるのは、頼むから俺の勘違いであってくれ。
「という訳で、薔薇十字団男子寮は、人妻と敦子さんの出入りは自由って事で」
益田が決め顔でグラスを掲げ、二人を順に見た。他の二人も決め顔でグラスを掲げている。
「人妻と、敦子さんに、乾杯!」
「「乾杯!!」」
三人は涼やかな音を響かせてグラスをぶつけ合った。正気かよコイツら。

「で、木場先輩」
乾杯のビールを飲み干した青木がくるりとこちらを向く。やけに澄んだ瞳をしていやがる。
「今の議題について木場先輩のご意見をお聞きしたいのですが」
他の二人も同じく、澄んだ瞳を俺に向ける。
やめろ。そんな目で俺を見るな。
「あ‥‥いや、い‥‥いいんじゃねぇの?それで」
京極の妹も遠くからそんな薄気味悪い想いを寄せられるくらいなら、いっそ邪な目で見られた方がマシなのでは?という意見は飲み込んだ。
「そうですか。良かった。木場先輩も同じ意見なら間違いない」
にっこりと笑う青木に違和感を覚える。俺の知る青木と同一人物なのだろうかという疑念が湧いてくる。というか同じ意見ではない。俺はこんな薄気味悪い連中と同じ意見など持っていない。断じて。
「‥‥そんな七面倒くせぇ決まり事作るんなら、別にわざわざ一緒に住まねェ方が良いんじゃねぇか?」
「は?」
「え?」
「ん?」
ポツリと漏れた俺の本音を聞き取った三人が、またもや一斉にこちらを向く。一様に目を見開き気味で、かなり不気味だ。
「う‥‥いや、まぁ‥お前らが良いってんなら俺が口挟む問題じゃなかったな、わ、悪かったよ」
何で俺が謝らなきゃなんねぇんだ畜生。
「そうですよぉ、僕らはこの環境が好きなんですよ?」
「居心地がいいっていうか、誰かと一緒に生活してると色々と安心ですしね」
「誰かの気配を感じてられるって落ち着きますよ」
いや、だからそれを恋人なり嫁なりに求めれば良いのではないのだろうか?という俺個人の意見は伏せる。先程まで喧々としていた奴らはもう談笑しながら酒を飲み交わしている。変わり身の速さに驚きつつも、ああ、こうやって共依存のぬるま湯から抜け出せない若者が増えていくのだという例を目の当たりにした。

「‥‥ああ、そうかい‥‥良かったな」
俺は力なく笑って、二度とこんな所に来るものかと、強く心に誓った。














end.














後日。



「木場先輩、今度餃子パーティーするんですけど、来ます?」
「行かねェよ!!」





おわり。



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