彼が着ぐるみを着た理由 


「ひらけ、ぽんけっけ〜」

やる気のないテーマソングと共にのたりと出てきた着ぐるみにわっと子供達が集まる。
それに応じもせず、微動だにしない着ぐるみがいた。
テレビではお馴染みの眠そうな眼をした怪獣の着ぐるみである。
子供の勢いからも今も昔もちびっ子達からの人気は変わらないのは様として知れた。
が、テレビと異なり、何故か無理やり学ランを纏っているアンバランスなその着ぐるみからは、おどろおどろしいオーラが出ていた。



「・・・・・・・・・・咬み殺したい」
「! やめなさい!この子供達にまで手を出したら僕までとばっちりで怒られるでしょう!」
ぼそりと呟いた黄緑色の着ぐるみが不穏なことを言ったのを聞き咎め、赤いのに雪男という不思議な着ぐるみがぎょっとしたように振り返る。
それを我慢ならんとばかりに何故か持っていた棒状の鈍器で吹っ飛ばした黄緑の着ぐるみは唸った。
「暢気で間抜けな顔をした君が一番ムカつく」
「仕方ないでしょうそういう着ぐるみなんですから!!」

動きの取りにくい寸胴な仕様の為に受身がとれず、間抜けに頭を打った赤い着ぐるみが叫んだ。
打ち所が悪かったのか心なしか涙声だ。
それに少しは憂さが晴れたのかフンと眠たげな眼をしている着ぐるみが鼻で笑う。
「元からそんなじゃない君」
「ボンゴレにまで綺麗だと云わしめた綺麗な僕の顔に向かってなんてことを!!」
「前から思ってたけど君って妄想だけはホント豊かだよね」







遊園地の一角にて、予定にない着ぐるみの乱闘ショーが始まった。


































【 彼が着ぐるみを着た理由 】


































マフィアランドに新たなアトラクションが増えた。
何てことはない遊園地だ。
マフィアなりにも善良な方の従業員達は、そこで子供達や親子連れ達を楽しく見守っていた。
だがその平和は遊園地がオープンしてから数日で終わりを告げられる。


「今日から一緒に働く新しい仲間だぜコラ」
何故か涙眼で必死に笑いを堪えてやってきた金髪の鬼教官に、従業員達は首を傾げ、

「オラ、てめーらもなんとか言いやがれ」
「嫌だよ」
「何故僕がマフィアの、しかも下っ端になど頭を下げなければならないんですかアルコバレーノ」
「ツナに言いつけるぞコラ」
「「宜しく」」




そしてボスンと間抜けな音を立てて着ぐるみの頭を取った中身が、ボンゴレ最凶と言われる男二人だったことに気付いた者は真っ白になった。












ヒバピンという着ぐるみを着せられ不機嫌な中身であるのは雲雀恭弥という男だった。
群れることを嫌うのであまり表舞台に出ようとしないが、マフィアよりもマフィアらしい組織を統率していることはあまりにも有名だ。
極悪非道な雰囲気と返り血を適当に拭い去ったことがわかる鉄錆色が所々にあるのが恐ろしいが、ある意味本当の恐竜の姿といった着ぐるみを着ているのが本人だとは信じられないが。
ていうかコレ本当にあの雲雀恭弥?という疑問が一同に沸いたが眼が合いそうになったので考えることはやめた。

その隣にいるヒバピンの相方ことムックのひょうきんな頭を抱えた美麗な男は、六道骸というらしい。
自己紹介もしない二人に代わってコロネロが言った名に、従業員達は石化した。
それはマフィアを殲滅せんと一時期裏社会を混沌に陥れはしたが、今は行方を眩ましている筈の脱獄犯ではなかったか。
何かを読み取ったのかついと眼を向けられたのでそんな過去の出来事は頭から消去した。

まあどちらにせよ最悪なのは変わりないことだけは確かだった。



しかし何故、唯我独尊な彼等が渋々ながらもこんなことをしているか。
そんなことまでは二人は勿論コロネロも説明しようとはしなかったが、それは裏社会の帝王ドン・ボンゴレこと沢田綱吉の逆鱗に触れたからだった。













「ん?これって・・・」

数日前のことである。
既に検品済みだった筈の郵便物の中に、ヴェルデからの小包が届いていることにツナはうへえと顔を顰めた。
贈り物と業とらしく表記してあるが、その可能性は万に一つも無い。
あの虹の子の中でもかなりの曲者の彼はツナをただのモルモットとしかみていないのだから。

彼を知っている同胞ならば即座にもって遥か遠くへそれを捨てただろう。
ツナも例に洩れずそうしようとしたのだが。



「此処には沢田綱吉しかいないけど、何の用なの」
「そんなことは知っていますしマフィアでもない貴方には関係ないでしょう?」


「げ、この声は・・・ッ」
いつもの言い争う声が何故か外から聞こえたことにギョッとし、



「「殺す」」
「ぎゃあああああ此処5階なんですけどおおおおお!?」



特殊防弾の筈の窓が大破したことに咄嗟にそれを放り投げ、頭を庇ったのが悪かった。
ツナの手を離れたそれはひょうと宙に舞い、そのまま重力に逆らいもせず落下した。

――つまりはドン・ボンゴレの頭上に。




パリンという、軽いが何故か気になる音に一時手を止め振り返った二人は動きを止めた。
何やら小さな壷を頭に載せ、沈黙したボスがいる。
俯いているので表情はわからない。
その怪しげな容器からは更に怪しげなトロリとした液体が滴っていた。
因みに色は作った張本人を思わせる人外な蛍光緑だ。

それだけならまだ良かったかもしれない。
鉄拳制裁か4時間程の説教で終っただろう。
だが、二人はやってしまったと思わずにはいられなかった。
一騎当千の強敵に囲まれても顔色を変えたこともない彼等の背中を冷や汗が流れる。









――― ツナは小さい。
成人男性の中ではかなりの小柄で華奢だ。
それが彼のコンプレックスでもある。

だが昔に比べてだいぶ身長も伸び、童顔ではあるが顔もいくらか精悍な顔尽きになった。
・・・のだが。

今の彼は昔を思わせるような。
いやそれ以上に、・・・・小柄な姿をしていた。














ぽたぽたと髪から流れる雫をふるふると頭を振って払い、己の体を繁々と眺めたツナは暫しの沈黙の後。
ぶかぶかのスーツ姿で、にっこりと天使の微笑みを浮かべた。










「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・取り敢えず、自力で経費稼ぐまで帰って来なくて結構です雲雀さん」










ああ心配しなくてもバイト先は俺が入念に選んで差し上げますから心配しなくても大丈夫ですよ言う必要もないかもしれないけど勿論骸お前もだからな当たり前だけどとノンブレスで言った天使の額には、くっきりと怒りマークが付いていた。



































これがドン・ボンゴレが5歳児になったという衝撃のニュースが幹部や他ファミリーのボス達に知れ渡る前までの出来事である。
そして後日、雲雀の屋敷にはドン・ボンゴレからバイト先についての文が届く。



「・・・・・・・・・・・WAO、中々熱いラブレターだね」


先刻まで自分の頭があった枕に刺さった鋭利な鏃と、それに結び付けられた和紙に戦慄する程流麗に綴られた赤い文字。
文は文でも矢文という古風過ぎるものに、流石の雲雀恭弥も無言でスケジュールの調整をするよう草壁に伝えたという。













2009.6.22



あきゅろす。
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