ラブリーアニマル

イタリアンマフィア最大最強と謳われるのはかの有名なボンゴレファミリー。
中でも最凶と恐れられているのは独立暗殺部隊であるヴァリアー。

それは裏社会では常識のことで、それを率いる男は想像を超える強さだという。
ではさぞや強力な匣を持っているのかと噂をされども、それを使うところを見た者はいなかった。
きっと見たら最後、命はないのだろう。
何も知らない者達はそう判断し、くわばらくわばらと決してそれを口に出そうとはしなかった。

が、その男よりも更に上。最強の男はいるもので・・・。





























【 ラブリーアニマル 】






























「あれ、そういえば最近ザンザス匣開けてないよね?」

それは同盟ファミリーの定例会議が終わった時のことだった。
椅子に座ったまま護衛で来ていた男に尋ねたドン・ボンゴレに、周りの者達は皆凍りつく。

「お、おいおい何言ってんだツナ?」
右隣に座っていたディーノがやや青くなって弟分の肩を掴む。
それにツナは聞こえなかったのかと繰り返す。
「え、ザンザスに最近匣は開匣してないのかって聞い」
「うんそれはバッチリ聞こえたからもういいぞー」
だから頼むから怖いから二度も言わないでくれなと引き攣り笑いを浮かべるディーノにツナは不思議そうにする。

「へーザンザス君の匣兵器かぁ」
周りの動揺を気にもせず眼の前に置いてあった自分専用のお菓子ボックスに手を伸ばし、マシュマロを一つ摘んだ男がにっこりと笑う。
大切な会談にそんなものを持ち込むのはこの男、白蘭だけだろう。
最凶と名高い噂の匣に、興味津々といった様子でもむもむと口を動かす。
「噂には聞いてたけど、どういうタイプなの?」
「あぁ、白蘭さんは見たことないんですね」
是非見てみたいなという白蘭に、ツナは納得したように頷く。
それに周りはボンゴレ以外は恐らく誰も知らないんじゃと突っ込みたかったが色々怖くて出来なかった。
てか流れでいくとじゃあ開匣しますかなんてことになりかねないので寧ろ帰りたいんですが。

「・・・・・・・・・おい」

しかしそこで重低音の不機嫌ボイスが響き、そろそろお暇してもと言おうとしていたボス達の言葉は揃って喉の奥に引っ込んだ。
見れば其処にはドス黒いオーラを出す魔王がお一人。

「テメェ、いつまで触ってやがる」
「へ?」
「お前じゃねぇ、隣のカスだ」
「あ、あぁ、悪い」
ツナの肩を掴んだままだったディーノは慌てて手をどかす。
いつもやっていることなので大して気にしていなかったが、この男の眼の前でやることはある意味自殺行為だった。
久々に顔を合わせたので忘れていたが。
肩のことやそんなことは気にしてもいなかったのか、ツナは別のことに眉を顰めた。
「ザンザス、お前ディーノさんにカスとか言うなよ」
「カスをカスと言って何が悪い」
「何もかもだよ。
大体ディーノさんそんなんじゃないし、ディーノさんがそうだったら俺なんて、」
「ツナ!ツナ嬉しいけどもういいぞ!有難うなッ?」
益々自分にかかる圧力が増してきたことにディーノが苦笑してツナを止める。
それに些か不満そうにしていたが、ツナはわかりましたと小言をやめた。
妙な空気が流れるのを白蘭以外が悟っていたので、そろそろお開きにしようとした時。

「・・・・・・・・!?」

空気が抜けるような音が響いた。
室内が一気に緊張する。
敵対するファミリーか、はたまた誰かが裏切ったのか。




それは間違いなく匣兵器の開匣音。




一瞬の交錯の後に自分に集まった視線に、予想していたのか男は笑顔を返す。
「やだなー僕じゃないって。
ていうか酷くない?こういう時真っ先に疑うのとかさー」
「日頃の行いのお陰じゃねーか?」
「あははそうだねー、でも僕じゃなくて君達が一番疑ってない子がだと思うよ」
「?」
ちらりと横に視線を向けた白蘭に、釣られてそれを見た者達は拍子抜けた。



ひくひくと時折動く小さな鼻。
ふわふわとした真っ白な体に綿毛のような尻尾。
きゅるんとした眼にぴょこりと立った縦長の耳。



「う、兎・・・?」
その可愛らしいフォルムになんだとほっとするが、しかし此処にいるのは皆トップクラスの者ばかり。
見た目に騙されてはいけない。
そもそも一体誰の匣アニマルなのかと兎が乗っている肩の男を見やったものは、押し寄せる後悔の念と共に硬直した。


「・・・・・・・・・・・・カスが、勝手に出てきやがって」


えええええええええええ何でザンザスーーーーーーー!?
何でこんな強面な奴の匣兵器が、っていうか視覚の暴力だ!頼むから同じ箇所に並ぶのはやめてくれ!!
こういう可愛いものは寧ろ別の、


「あ、ウサヨシ久しぶり〜」


そうそうボンゴレのようなと思った一同は、次にへらりと笑ったボンゴレが発した単語にギョッとした。

う、ウサヨシ?
ザンザスの匣兵器なのに名前あるのか!?という全員の無言の突っ込みに気付いたのかツナが笑顔で答える。

「あ、ウサヨシっていうのはあだ名です。
本名は綱吉なんですけど、」

綱吉!?
え、ちょ、それボンゴレの名前じゃ、

「俺と被るんでややこしいんから俺がつけたんあだ名なんですけど。
いやぁ、同じ名前だなんて偶然ですよね〜」

偶然じゃないから絶対業とだから!!絶対想い主の名前つけただけだから!!
ドン・ボンゴレの言葉に再び周りは凍りつく。
一人白蘭だけが爆笑している。

ツナの笑顔に釣られたのか、兎、もといウサヨシがザンザスの肩からピョイと飛び降りる。
膝に突然降りてきたウサヨシに、ツナは驚いたようにするが、直ぐに顔を緩ませる。
「あはは吃驚させないでよウサヨシ。
それにしても久しぶりだねー?」

会えて嬉しいよと匣兵器に普通に話しかけるツナに、嬉しそうにウサヨシが伸び上がって顔を擦り付ける。
・・・・・・・・・あれ、兎ってこんな懐っこいものだっけと周りは思うが、なんだかとても可愛らしい構図なのでどうでも良い気がしてくる。
寧ろずっと見ていたい絵だった。
相変わらず可愛いなーお前とにこにこするドン・ボンゴレに、貴方の方が可愛いですよなどと思っているのがまるわかりな周りに、ザンザスが気に食わなそうに舌打ちする。
「ちッ、・・・戻れ、綱吉」
「・・・・・・・・・・・・(プイ)」
「・・・てめぇ」
しかし不満だったのか主人を無視するウサヨシに、ザンザスの額に青筋が浮ぶ。
強硬手段とばかりに大きな手をグッと伸ばす主人から、ツナが慌ててウサヨシを抱えて遠ざける。
傍目から見てもザンザスが悪者にしか見えなかった。
「やめろって、嫌がってるだろ」
「るせえ、綱吉は俺のだ。綱吉をどう扱かおうと俺の勝手だろう」
「お前いくら匣アニマルだからってなぁ」
「はッ、畜生にまで慈悲をやるとは相変わらず甘い奴だな。
別にかまわねぇぞ?そのままてめえのもんにしたってな。どのみち綱吉は俺のもん(炎)がなきゃ生きてけねーんだ。
俺は綱吉が耐えられなくなるのを待つだけだ」
「だったら属性は同じなんだから、俺のをあげれば」
「綱吉は俺のしか受け付けない体質なんだよ。
てめえの粗末なもんと一緒にすんじゃねえ」
「お前、その昔から喧嘩腰の口調なんとかならないの」
「・・・・・ちょ、ちょ、お前等あのな、わかってるんだけどその兎公を綱吉って呼ぶのはあの、やめてくんねーかな」
妙な気分になるんでというディーノに、周りのボス達も大きく頷く。
白蘭だけが「えー別にもっとしていいのにー」と言っているがスルーされる。

「にしてもコイツほんとにザンザスの匣兵器なのか〜?」
似合わねーと言いながら手を伸ばすがディーノの手は、瞬く間に鎌鼬に巻かれたような傷で一杯になった。
途端流れ出す血にディーノはギョッとする。
「げ!?」
「あああこらウサヨシ!!
す、すいませんディーノさんっ、コイツ慣れない人には警戒心強くって!」
この間はスクアーロがとんでもなっめに遇っていたというツナにディーノな嫌な予感がしてくる。
「え、じゃ、じゃあコイツが懐いてるのって・・・」
「えと、ザンザスと、・・・・俺。くらいですかね」
俺の知る限りですけどと付け足すツナに、ディーノは端正な顔を盛大に引き攣らせた。

見るからにザンザスには懐いてなかった。
つまりは懐いているのはツナだけということで・・・。




(コイツ、見た目ツナみてーな癖して中身ザンザスじゃねえか・・・・・ッ!)




この飼い主にしてこの匣兵器有り。




「あっはっはっは!!ほんっとよく似てるねーーーッ!!」
余計にゲラゲラと笑う白蘭に、周りはある意味羨ましいと思った。
なんでこんな状況で笑えるんだ。
自分達にはとても怖くてできない。

「白蘭さん、ウサヨシはザンザスみたいなやんちゃな奴じゃないですからやめて下さいよ」
やんわりと否定するツナに、ボス達は皆気が遠くなった。
あのザンザスをヤンチャの一言で済ませられるボンゴレのあまりの偉大さに。

流石大空。
全てに染まりつつ全てを包容するその度量の広さと深さにはひたすら感服する。

でも、でも、でも・・・・ッ





お願い気付いてボンゴレ!!!そいつ中身ザンザスだから!!





各ファミリーのボスの心の絶叫空しく、ツナはウサヨシに頬ずりをするという無駄に可愛い行為を行っただけだった。



























後日、それは会談というよりも怪談だったということで同盟ファミリートップ達の脳内からはそれらの記憶は全て削除され、匣の中身については誰もが堅く口を閉ざしたという。

こうして、ヴァリアー率いる男の匣兵器に新たな逸話が追加された。

実際はそれよりもそれらを全て受容するドン・ボンゴレの方が最強だったりするのだが。
その事実はあまり知られていない。












<fine>































見た目はツナたん、中身はザンザス。その名は最強匣兵器ウサヨシ!(名/探/偵コナ/ン風)

…はい終わっとけってことでホントすいませんでしたアダノはザンザス君の匣はとっても格好いいものだと信じて疑っていません(どの口がそれを言う?

2008.12.28



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