王とアルバイト

「何それ」

珍しくまだ月が昇る前にやってきたという仮の嫁兼・王の戦闘相手アルバイターに、
執務を早めに切り上げて私室にきた王は尋ねた。







































【 千夜一夜物語 〜四夜目〜 】







































「あ、なんか隣人のいつも迷惑を掛けられてる黒魔術師に押し付けられたものです。
曰く有り過ぎみたいなんで持ってきたんですよ」
それを無駄に家が建つ値段のものしかない室内の何処へ置こうか迷っていたツナは、王に挨拶したのち経緯を説明した。

「捨てればいいじゃない」
ほら解決しただろう?と簡単に言う王に、
「そしたら何請求されるかわかりませんしボンゴレに置いといたら小さい子達が心配だったんで」
もし危ないものだったら怖いですからと付けたし、結局ランプは床へ置くことにする。
因みに一番初めは王と同じ考えだったが、あの黒魔術師がそれを想定しないでこんなものをもってくるなんて思えなかったのでそれはやめた。

「ふうん。優しいね」
「そうですか?家主として当然だと思いますけど」
タダで貸しているというのに住人を第一に考え大切にするツナに王は微笑し、ツナはきょとんとする。
そうじゃなきゃ家主をやる資格などない。

置く場所を決めたはいいが、でも此処じゃ蹴っ飛ばすかなとぶつぶつ言うツナを上から下までとっくりと見ていた王はなんとなく聞いてみる。
「今日はいつもと違って随分ラフな装束なんだね」
「え?」
言われて初めて気付いたようにツナは自分の格好を見下ろす。
普段着だった。
一応此処に来る時は所有しているものの中でも上等のものを着て来ていたのだが。
今日は宿に寄らずにバイト先から直接来たのでそのままの格好だった。
通常であればこれは不敬に値する。
「あ、すいません。バイト帰りで」

それをそんな一言で済ます青年は意外と大物だ。
本人は自分は単なる一般小市民と言っているが、周りのものは誰も認めようとしない。
こんなのが一般市民だったらこの国は一人一人が優秀な傭兵部隊並みの戦力を持った強かで機転の利く恐るべき国家になると。
ついでにこんなに強欲で食い意地が張っていたら国は破綻するとも。


そんなことを言われてるなど気付いてもいないツナはまだのほほんと言う。

「雲雀さんこういうの気にしなそうだからいっかと思って。
どーせ男だってバレてるし女装の必要もないかなぁと」

自分だって男だ。出来れば女装なんてしたくない。
そもそも命がかかってなきゃ絶対しない。
ただ死んでもしたくないという訳ではなかったからするというだけ。
死ぬ位なら女性の格好をすること位なんというのだ。

だが以前と今は違う。しなくていいならしない方がいいに決まってる。
それに知り合いに見つかったらと考えると恐ろしい。
確実に憤死する。


「まぁ、キミは何を着ても似合うからいいけど」
「はい・・・」
「綱吉?」
何時もであればまたそんな冗談を〜などと相手にしないツナが素直に認めたことに、王はツナの体が前後に揺れていることに気が付いた。
「スイマセン、3日、寝て、なくて。
ちょっと、限か、い・・・・・」

いつもと違ったハッキリしない口調でもごもごと呟き、
パタリと軽い音を立ててクッションの山の中へ倒れたツナに王はクスリと笑った。
肉食動物の前で堂々と寝るなんてこの草食動物は面白い。



王は徐にツナに跨り、覆いかぶさるようにして寝顔を見つめる。

むにゃむにゃと動かしている口にそっと触れ、気のままになぞる。

(このまま、この子を食べてしまおうか)


時々、ふとそういう衝動に駆られる。
別に獣の本能としては可笑しくなどない。

嫌われてしまうとわかっていても、度々こんな無防備な姿を見せられたら、期待されてるとしか思えない。


長い睫毛が吐息に触れ揺れる。


嗚呼、この子の全てが愛おしい。
そう思い始めたのは何時のことだったか。





初めは女の癖に活きが良いという存在が珍しかった。

次に、俺男ですと馬鹿正直に言ったこの青年に興味が沸いた。

手合わせする度に強くなっていくということが面白かった。

青年の持つ美しい琥珀に眼が惹き付けられて、離れなくなった。

もっと近くで其れが見たい。
それだけを願い、燃える二つの至宝を追うことに熱中した。






そして気付いたら囚われていた。









「キミは一体何ていう動物なんだい?」

この世界にはこんな不思議な生き物などいない。
きっと別の世界からやってきた美麗な獣なんだろう。

一向に瞼を上げる気配を見せないのを理由に、身体をゆっくりと沈める。
この脳髄が痺れるような甘美な香りを、もっと感じたいが為に。

そして、




































ぱくり。




「・・・・・・・・・・・」






























妙な音共に気ままに動かされていた指が動かなくなり、身体を沈めるのを止める。

あと少しという距離で、突然咥えられたものを繁々と眺める。
今自分の何人もの敵を屠ってきた手の一部があるのは、温かい咥内だ。


「ワオ、随分大胆なことするね」

やっぱり誘っているのかい?


そんなことを聞かれているとは思ってもいないのか、おしゃぶりのように王の指をしゃぶるツナ。
「くすぐったいんだけど」

当然起きないとわかっていても言ってみる。
その声音は不機嫌というよりも面白がっている、楽しそうな含みがあった。

引き抜いても良かったが、ツナにされるがままにする。
こんなこと多分もう一生ないことだから。
経験してみるのも悪くないかもしれない。



しかし、暫くするとツナは眉を顰め、それをぺっと吐き出した。

・・・・お気に召さなかったらしい。






それに目を大きく見開いた王は、

「く・・・・っ」
一人頭を下につけて押し殺して笑い始めた。
体が小刻みに揺れている。

忠臣が見たら上へ下への騒ぎになるだろう。

あの王雲雀が笑うなんて・・・ッ!!




口直しでも求めているのか、ツナはまたにゃむにゃむと口を動かす。
流石、伝統ある宿の主。
舌が大分肥えているらしい。

不味いものは不味い。
そう判定するのは相手が王であろうと関係ないようだ。





やがて、気が済んだのか。
一息ついてから王は涙を拭う。

「失礼な子だね」
恐れ多くも王の指を食べておいて不味いと判断するとは。

でもまさか食べようとしていた獲物に自分が先に食べられるとは思わなかった。
上からの視線を身体を横たえることで変える。

この草食動物は本当に面白くて飽きない。

「・・・キミが此処にずっといたら、もっと面白いんだけどね」
耳元で囁き、王はツナ抱きかかえて満足そうに目を閉じた。







































<...fine?>
























・・・こんな甘甘しいもの初めて書きました。
雲雀さんとか相手だと何故かエロい雰囲気になります。
嘘です。
アダノの脳内がドピンクのアンチキショウなんですスイマセン。。。 _| ̄|○

こんなにメロメロな癖して王はツナのバイトで戦って遊ぶときは殺す気でやってます。
それはそれ、これはこれで。
ツナ君の綺麗な眼を見てるとどうしようもなくなるらしいです。

・・・・・・・・アダノは狂気染みた歪んだ愛情ばっか書いてる気のせいにしといてやって下さい、
埋まってくるんで。





























...Continua a P8→



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