後編

一番最初に宝を持ってきたのは、石作皇子役の坂田銀時でした。

「おら仏さんの石の上にあった鉢だ」

おざなりに言いつつ、差し出したのは、真っ黒な石の鉢。
その辺で売っていそうな感じです。明らかに指定させた仏の石の鉢ではありません。
っていうか今おもいっきり仏様の上にあったものって言いましたよねこの人。
それにお婆さんは顔を引き攣らせます。

「・・・・いや、あんたこれ、駄目だろ持ってきちゃ。本物じゃねーか」
「あん?仏さんの鉢持って来いつったのはそっちだろ」
「その仏さんじゃねーよ!神様の方だ!!」
「面倒臭ぇなぁ、細かいこと言うなよなんか名前とか似てるしそれでよくね?」
「よくねーよ・・・。あった場所戻して来てくれ」

疲れたように突っ込んでから、悪いけどあんた失格だからとお婆さんは言いました。










次に宝物を持ってきたのは蓬莱の玉の枝を指定された車持皇子役の桂木弥子譲です。
これにはお婆さんは少し悩みました。
枝も花も全て本物の貴石だったからです。

「これで沢田さ、じゃなくてかぐや姫と会えるって本当ですか?」

ドキドキと胸を高鳴らせていることがわかる可愛い少女に、お婆さんは焦ります。
っていうか何だその話、聞いてないんだけど。
どうやってこの少女の期待の眼から逃れればとお婆さんが弱りきった時、

「枝を作った代金を払って貰えますか、先生」
「は、え、ネウロ!?
何でッ、この仕事には出演しないって話じゃ、」
「ハハハ何をわけのわからないことをおっしゃってるんですか先生?」

細工職人役の悩噛ネウロが現れ、ぎょっとして振り返った弥子の頭をガシリと掴みました。
お婆さんは助かったとばかりに言い募ります。

「おぉ、じゃコレは偽物だったってことだな!?良かった良かったわりーけど引き取ってくれるか?」
「そんなぁ!じゃあせめてちょっとだけ、顔見るだけでもいいから沢田さんに会わせてくだ」
「さぁ行きましょうか先生(我輩に黙って仕事を取るなど百年早いぞ)」
「いーーやーーー!!」

お婆さんは細工職人に引きずられていく弥子を見送りました。

「・・・・ちょっと可哀想なことしたなぁ」












三番手は火鼠の裘を頼まれていた右大臣阿部御主人兼、警備隊長役の雲雀恭弥です。
彼は持って来た毛皮・・・、ではなく生きている梟を差し出しました。

それにお婆さんは固まります。
次は本物ならば燃えないはずだと言って火をつける手筈になっているのですが流石に、無理です。
「あー・・・・、恭弥。
これは明らかに偽物だから、その」

取り合えずうけとっては見たものの、扱いに困ったお婆さんは言葉を濁します。

「何で、燃やしてみなきゃわからないんでしょ?」
「いやそうだけどこれ毛皮じゃないしネズミでもないし、」
「空を飛ぶネズミもいるじゃない」
「いやあれはモモンガっていってげっ歯目科ではあるけど鳥じゃねえし、」
「でもその鳥気に喰わないんだよね」
「それはお前がアイツ咬み殺したいだけだろ!?」

死ぬ気の炎を灯してトンファーを構えた雲雀に、動物虐待は駄目だとお婆さんは慌てて梟を逃がしました。
お陰でボコボコにされてしまいましたが、結果的に宝を持ってこれなかったので失格となった雲雀は暫くするとリボーンに興味を移して出て行きました。

「また来るよ」
「・・・・・・・・・・・・・・」

一言、憂鬱になる言葉を残して。










四番手の大納言大伴御行役のアレン・ウォーカーは、竜の首の珠をとりに行きました。
お酒を持っていくといいよと途中寄った茶屋にて女将役のコムイに言われたので素直に買ってはみたものの。

「何だか嫌な予感がするなぁ」

やはり酒というキーワードに不安な様子です。
嫌々ながらも、アレンは龍の住むという所に赴きました。

「遅かったじゃねえか、馬鹿弟子が」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・師匠」

そしてやっぱりおわした自分の師であり親であり不幸の源にがっくりと頭を下げました。
本物の竜の方がどんなにかよかったか。
この人から首の珠を取るなんて端から無理でしょう。

「何落ち込んでんだ、いいからそれ寄越せ」
「・・・はい」

色々と諦めたアレンは溜息を吐いて呟きました。

「あーあ、ツナさんと共演。してみたかったなぁ・・・」

何やら嘘を教えられていたらしい少年に、クロスは俺で我慢しろと言って口端を上げました。
久々の親子水入らずにご機嫌のようです。














さて、最後の一人は中納言石上麻呂役のうずまきナルトです。
頼まれたものは燕の子安貝。

ナルトは燕の巣を見上げました。それは高い所にあり、面倒臭そうです。
忍者の彼等からすれば簡単かもしれないのですが、此処はギリギリ届かなそうな位置にあると思ってやって下さい。

「誰がそんなこと聞くか」
「でもそういう設定なら仕方ねーってばよサスケ」
「ちッ、これが綱吉さんとの仕事じゃなけりゃ・・・」

あの、ブツブツ言わないでくれません?

「えーとじゃあ、
サスケ、ジャンプしても届かなそうだってばよ!どうしよっか」
「業とらし過ぎだぞナルト。
おまけに何だその腹が立つ程の大根役者っぷりは?そんなもので俺に振るな」

早速困ったように上を見上げてくれているナルトに、方向音痴ということで道案内をさせられていた、…ということになっていますが実際はスタジオを崩壊させることを事前に止めるよう言われていたサスケが視線を向けました。

「んージャンプ以外でアレを取るには、えーっと、」
「・・・・・・・・何する気だナルト?」

あれでもないこれでもないと考えているナルトに何だかとても嫌な予感がします。
しかし、集中し始めていた為サスケの言葉を全く聞いていなかったナルトは分身の術を行います。

「待て、何でアレを取るのに分身する必要がある・・・ッ!」

必死の声にやっと気付いたのか、左にいたナルトが言いました。

「取れないなら取れる高さにすればいいんだってばよッ」
「なッ!?」

俺って頭良い?とえへへと笑いながらナルトが作ったものは螺旋丸。
どうやらそれを柱にぶつけて巣を落とす気らしいことに気付いたサスケは蒼白になりました。

そんなことをすれば、今自分達のいる屋敷は瞬く間に崩れることでしょう。

「待てナルッ」
「「 螺 旋 丸 !!」」



ナルトの生み出したチャクラの固まりが見事は柱に命中し、





「 こ の ・・・・ッ、ウスラトンカチいいいいいい!!!!」





サスケの怒声と建物が崩壊する音が重なって響き渡りました。
二人は数時間後やってきたカカシ先生達に助けられます。



















こうして結局、5人とも宝を得られなかったのでこれでお婆さんも一安心・・・のはずだったのですが―――


















かぐや姫は毎夜月を見上げては、溜息をつき物思いにふけるようになりました。
食欲はあるのですが、不機嫌の八つ当たりにより日々周りに氷の像が増えていきます。

たまりかねたお婆さんが、かぐや姫に声を掛けました。
「一体どうしたっていうんだよT世?」
「わかっている癖に聞くな馬が」
「馬言うな・・・。
いや、まあそうだけどよ、いつもとはちょっと違うみてーだから」
「・・・・・・・・・・・」

かぐや姫を心配しているのだというお婆さんに、かぐや姫は愚痴りました。

「月に帰らなくてはならんのだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」

月?

お婆さんは笑顔のまま固まりました。
この場合冗談が巧いなと笑った方がいいのでしょうか。

途端自分の意思を読み取ったらしいかぐや姫により部屋の冷気が増してきたことにお婆さんは慌てて先を促します。

お婆さんが何とか機嫌を直させてから、かぐや姫は自分は月の住人なのだと説明します。
そして、次の十五夜に迎えが来る事になっているそうなのです。

「でも、いいのか?お前デーチモって子を捜しに来たんじゃ」
「だから不満なのだ。
俺の弟は堅物だからな、融通なんて聞かんだろうし」
「そんな、」
「まあ帰る気など毛頭ないからどうでもいいがな」
「・・・・・・・・・・・・・・・だよな」

かぐや姫の帰る気が全くない様子にお婆さんは遠い眼をしました。
うん、そんな気はしてた。

迎えを追い返す手伝いをしろと命令するかぐや姫に、お婆さんは嘆息しながら了承しました。














そして、かぐや姫が帰らねばならない十五夜の晩。

豪邸の周りには人っ子一人いませんでした。
かぐや姫の絶対に帰らないという鬼神の如くのオーラに、お婆さんが事前に町の人間を皆避難させておいたのです。
今更ですがお婆さんは町を統率する頼もしいボスでもあることを補足しておきます。

「来るなら来い、U世め」
「獲物の独り占めはズルイよ」
「・・・・・・・・・・・何でお前もいるんだ恭弥」

お婆さんは頭痛のする頭を抑え嘆息します。
生き生きとかぐや姫の横で眼を輝かすのは先日決闘を申し込んだ内の一人、雲雀でした。

「だってこの男が此処まで臨戦態勢をしている相手ってことは、強いんでしょう?」
「胃痛持ちだがな。まあまあだ」

さらっと言った言葉に、お婆さんは何となくこれから迎えに来るらしい相手に親近感を持ちました。
胃痛持ちの時点で苦労人ということが知れます。





そうこうしている間に辺りがぼんやりと明るくなり、月からの使者が現れました。
「漸く見つけたぞT世!!!貴様は今まで何をしていたんだ!?」
「??」

何やら決まった日に迎えに来たというよりは散々探し回ったとわかる様子の相手にお婆さんは首を傾げます。

「フン、本当に今日来たか」
「おいT世、日取りは決まってたんじゃなかったのか?」
「そんな気がしただけだ」
「・・・・・・・・・・・」

超直感で悟ったのだろうとわかっていても何ちゅーアバウトな。
まあ取り合えず相手がまともそうだということに、お婆さんは既に凍らそうとしているかぐや姫を抑えて迎えの前に立ちました。

「よう初めましてだなT世の弟。俺はこの辺を仕切ってるディーノっていうんだ」
「そうか、本当に迷惑をかけたな」
「え?い、いやまあそうなんだけど」

大変だったろうと悲壮感溢れる様子で深々と頭を下げられ何だかいたたまれなくなり、礼は後日送らせるからと言う相手に慌てます。

「そんなんいらねーんだ。
変わりにコイツの我侭、もうちょっと聞いてやってくんねーか?」
「・・・・・・何?」
「コイツ、デーチモっていう大切な子を捜しに来たっていうんだよ」
「]世を・・・?」

訝しげな顔をした迎えは、暫しの後合点がいったのかガクリと全身の力が抜けたように脱力しました。
「通りで、今回は意地を張っていると思っていたら・・・」

呆れたようにしてから使者は乗ってきた高級車の後部座席を開き、中へ声をかけました。
「ツナヨシ。着いたぞ、起きろ」
「ふぇ?へ?もう・・・?
ってことは、そうだ爺ちゃん!!」

寝ぼけた声が明瞭となると同時に飛び出してきた影に、お婆さんは驚きました。

柔らかそうな金糸の髪から覘くは潤んだ朝焼け色の瞳。
思わず口付けを落としたくなるように美しい桃白の肌、そこに収まる唇は小さな蕾のようです。

彼こそが本当に輝夜姫というに相応しいでしょう。
琥珀を縁取るように織り成されている睫毛が微かに揺れる様に、お婆さんはドキリとしました。



「今まで何やってたんだよ爺ちゃんーーー!?」
「ツナヨシ、お前どうして」
「どうしてもなにも元々地上になど迷い込んでなかった。お前が早とちりして下界に下りただけだろうが」
「だったら早く迎えに来い愚弟が」
「がッ!!」



こうして、かぐや姫は世話になったなとだけ言って颯爽と背を向け帰っていきました。
後には別れを惜しむ一同がいつまでもそれを見送っていたということです。




・・・・・・・・・・・・まあ、この似たり寄ったりの惚けた顔を見れば、このまま彼等が諦めるわけがないということは丸分かりだったのですが。












おしまい



あきゅろす。
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