黒魔術師とランプ

『The Arabian Nights' Entertainments; A Thousand and One Nights』

・・・・アラビアン‐ナイト【Arabian Nights】

アラビア地方を中心とした民間伝承説話を集大成したもの。
成立年代・作者未詳。
大臣の娘シェエラザードが王のために物語を千一夜続けるという体裁で、冒険談・犯罪談・旅行談・神仙談などからなる。
千一夜物語。千夜一夜物語。

〔補説〕 原題 (アラビア) Alf Layla wa Layla
アラビア・ペルシャ・インドなどの民話約二五〇を集めた説話集。九世紀頃の成立。
大臣の娘シェエラザードが王に千一夜かかって物語る形式をとる。
アラビアン-ナイト。千一夜物語。







































― はい。今日はこれでおしまい。お話の続きはまた明日よ。
お休みなさい、私の坊や。

― うん。おやすみなさい、お母さん。
・・・ねぇねぇ、お母さん。
でもその中には一体何が入っているのかなぁ?

― そうねえ、それは・・・


































































「アルコ・ランプ?」
「そうです!
コレが何でも願いを叶えることが出来るという伝説の!
・・・・なんですかその眼は」
「いや別に?」








胡っ散臭ぇーーーー・・・・










其れが初めてその存在を知った時の感想だった。








































【 千夜一夜物語 〜一夜目〜 】









































「何か言いたいことがあるなら言って下さい」

暇じゃないのにコイツの煩い呼びかけに、ほいほい中に入れたのは勿論食料をタダでくれるというから。
例えその相手が怪しい黒魔術師の闇商人でも、だ。

背に腹は変えられない。

愛で飯が食えるか。

コレが俺の今日の座右の銘。



「いや、だってさ。
コレ、ランプはランプでもアルコールランプじゃん」
「アルコ・ランプです」
「いやだからアルコール、」
「さて、この使い方ですが」

・・・この野郎はぐらかしやがった。



(ま、いーさ)
軽く息を吐いた青年は琥珀の瞳を気だるげに細めた。

タダで今日の晩飯に困らないというなら、暇な黒魔術師の訪問セールの話でも何でも聞いてやるよ。
買わないけど。

青年は昨晩のバイトの所為で徹夜だった為とても眠かった。
うとうとしそうになるが、何とか正気を保つ。
これも家計の為だと思えば、こんな楽なバイトもない。

妙にウキウキしながら話す暑苦しい黒尽くめの男をぼんやりと眺める。
何だか、南国系の果実に見えてきた。

「まずアルコールがあるか確かめ、芯がちゃんと出ているのを確認し、マッチで下斜めから火を」
「・・・だからやっぱアルコールランプじゃん」
「しつこい人ですね貴方も」
しぶといお前に言われたくない。
それに如何見てもそれは只のアルコールランプでそれ以外の何ものでもなかった。

やれやれと呆れたような腹の立つジェスチャーをする男を半眼で見やる。

「其処まで言うなら仕方ありません。
お試し期間で2週間レンタルして差し上げましょう。勿論タダでい」
「いーよ」
誰が欲しいって言ったよ?

「・・・・・今ならタダでレンタ」
「いんないって、しつこいぞお前。
タダより高いもんなんてないし、何より胡散臭い」

同じことを言おうとした男を遮って正直な感想を述べてやり、ふわあと大口を開けて遠慮せず欠伸をする。
うーん気持ちがいい。

のびーと背伸びまで始めた青年を、怪しげな黒魔術師は憎たらしげに睨んだ。

「くっ、貧乏人の癖に生意気な!
食べ物はタダならほいほい貰う癖に!」
「俺は自分の嗅覚に絶対の自信がある。特に食べ物ならね。
多少腐ってよーが問題無いし」
喰えてエネルギーに変えられればいいのだ。
味は腕の見せ所だし。

妙なことに胸を張る青年に業とらしく呆れたように黒魔術師は嘆息する。
あ、コイツ、ほんとムカつくなー。

「自慢気に言うことでもないですよ、ボンゴレの主。
だからウチへ奉公へいらっしゃいと何度も言ってるじゃありませんか。
ウチは自給いいですよ?」
「俺はおしんか。
ヤダ。
幾ら給料良くてもお前んとこは割に合わない気がする」
「ちっ、いつもの超直感ですか忌々しい」
「図星?」
「人の親切を全く・・・・。
まあいいです、今日の処は帰ります」
帰りますと言いながら、のろのろと店仕舞いを始めた黒魔術師を商品事ポイと表の通り、は迷惑なので裏口から放り出す。

「食べ物持ってない時は来なくていいからー」
「貴方ホント酷い人ですね!!」

そんな叫びなど気にせず扉を閉じる。
清々したように一息吐く。

「あー、やっと帰ったよ。
あいつヴァリアーより面倒臭、って、ん・・・?」

ツナは卓上に置かれたままのものを見て固まった。



・・・アルコールランプ。
文字通りアルコールを燃料とするランプ。理化学用の実験などで、ものを熱するために使用するもの。
因みに英語ではspirit lamp。
まんまだが豆知識として覚えておいても損はない。
使えるかと聞かれてもそれにはノーコメント。



其れと同一の形をしていて唯一違うといえば少し、美しい青みを帯びているというもの。
それがまだ、目の前にある。

『アルコランプという呪いのランプを手に入れたんですよ〜』

奴がやって来た時の第一声を思い出した。













「あんっの腐れ糞似非駄目魔術師っ!どさくさに紛れて置いてきやがったなーーーーーーーーーー!!!!」











当然、既に裏口には何もいなくなっていた。







































「鬼が出るか蛇が出るか。
あの呪いのランプには何が宿っているのでしょうね」

『オッスィディアーナ』店主、六道骸はうっすらと微笑んだ。

「さて、どんな風にボンゴレが泣きついてくるか楽しみです」
るんるんと帰路につきながら、闇の商人は夕暮れに紛れて消えていった。






































― 何がいるのか。 それはランプの主にしか、わからない。




































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