御先祖様

目的地近くになり、用事とは別に彼に会える喜びに足取りも軽くなった頃、
目指す場所から来る人間達の思考が通り過ぎる度に彼の店を噂することに気付いた。
彼に何かあったのかと思い、さらに足早に進んでいくと、段々と説教をする怒鳴り声が聞こえてきた。
聞きなれたその元気な声にほッとすると同時に懐かしい姿に自然目元が緩む。
わいわいと騒ぎながら動かなくなった男を引き摺り中に入る青年を見て、男は笑った。


「相変わらずだな」










































【 千夜一夜物語 〜八夜目〜 】









































「マジ?すげーのなっ」

T世がいらない仕事を持ち込んできた男を吹っ飛ばした話を聞いた山本は爆笑した。
「・・・ホント凄いよ。
やる気一つで、透けてる身体なのに生身の人間殴れる幽霊なんてウチのT世だけだよ」
ていうか山本笑い事じゃないからとツナは嘆息する。

「いや、その前に幽霊がいるのに普通なお前等がスゲーよ」
ディーノが米が付いた口の周りを拭い口を引き攣らせる。

何故この宿の人間はそこを不思議に思わないのか。
(ほんと此処の奴らって変わったの多いよな〜)
まあそこが面白いのだが。

まともな思考のつもりでツナ達を眺めているディーノだが、実際は其処に住んでいられるだけで異常とされていたので、近所の者からすれば彼も此処の宿の住人と大差なかった。



「でもいるものはいるもんですしねー」
百聞は一見にしかずで噂の類や、人から言われたことなどは鼻で笑うだけで信用しないが、
目の前で実際に起こったことに関しては全部受け入れてしまう主義のツナは肩を竦める。

大体生まれた時から周りをふわふわされたり、自分と一緒に寝る主導権争いを父親の家光と毎晩されていたのだから。
今更幽霊怖ーいだの信じなーいなんて思えるわけがない。

(ほんと、厄介なご先祖様持っちゃったよなー)

スープの味を見ながら遠い眼になる。
度々そう思うが、彼等は小さい頃からずっと自分と一緒にいてくれた家族であり、
信頼できる大切な存在だから。
少し位のことは大目に見ることにしている。




「ふー、後は鹿肉煮込んで終わりだから今日の仕込みは終わりかな」
後は洗い物と店内を軽く掃除するだけだ。

一段落ついた食堂のカウンターでツナはこった肩を軽く回した。
それに目敏く気付いたT世が、声を出す。

「どうしたツナヨシ。
疲れたのか?だったら代わるぞ」
「・・・T世が俺から離れてくれたらわりと楽になるかな」
「そうなのか?」

ツナの首の周りに腕を巻きつけぺったりとくっ付くようにして浮いていたT世は首を傾げる。
透けていなくても重さはゼロのT世がくっ付いていようといまいと本当は特に関係ないのだが、
こうも近くにいられると仕事が遣り辛いのだ。


「お安い御用だ」

良い笑顔で一つ頷いたT世は浮くのをやめ、今度はひょいとツナを抱き上げて膝に乗せ椅子に座った。


「・・・・・・・・・・・」
ツナは頭痛の酷くなった頭を摩った。


「・・・・T世」
「なんだツナヨシ」
「仕事できない」

解決したような顔をして満足そうにしている一世にずばっと言う。
いい年してこんなことされても嬉しくないし。

「平気だ。
俺が後で何とかする」
「いくら幽霊で労働力になって人件費がいらないからっていっても一応多分恐らく偉いご先祖様のT世を働かせるのは気が引けるし、」
そこでツナは言葉を切り半眼になって直ぐ横にある自分と似た顔を見やった。


「T世じゃなくて結局U世がやらされることになるからいい」


昔からT世はツナを甘やかし放題で、家の手伝いなどの仕事も自分がやるといって代わってやることが多かった。
それではツナの為にならないと周りのものが困ったように眉を顰めてもお構い無しだった。
まあまだそれは当時店主だった家光もやっていたことだったのでまだいいとしても、問題なのは一世が最後まで仕事をやることが皆無で、いつも途中でU世に押し付けてしまうということだった。

それは面倒だからというのではなく、少しでもツナから眼を離すと心配になるからという理由からだった。
そしていつも近くにいたU世に『ツナヨシの様子をちょっと見てくるその間代われ』と言い、ツナを探し、見つけて抱き上げて一緒に遊び始めてしまうという具合だった。

初めのうちはそんなこと知らないツナは代わってくれるというT世に喜んで御礼を言っていた。
しかし、自分の仕事+T世の仕事+ツナの仕事まで請け負ったU世が幽霊らしくふらふらになっているのを発見し、仰天してからは人任せにすることは一切やめにした。
(U世も俺の為だーとか言われると断われないみたいだし・・・)
嬉しくもあるのだが、ご先祖様達の過保護にも困ったものだと思う。

勿論T世は本当に心からツナを心配し、可愛がっていることは知っている。

だからといってU世が全ての迷惑を被っていい理由にはならない。
幽体になってまでU世に胃潰瘍をこさえさせるわけにはいかないのだ。(U世の死因はT世に与えられたストレスが悪化したそれだったらしい)






悪気の無いT世は眼を瞬く。

「遠慮しなくていいんだぞ。
俺はアイツが扱き使われ様と気にしない」

「T世・・・、貴様」


青筋を浮かべて戻ってきたU世にツナはパッと顔を明るくさせ駆け寄る。(T世の膝からは無理やり降りた)


「有難うU世。
ごめんね、ゴミ棄てなんかやらせて」

好き勝手に言っていた一世により心労が増加しそうになっていたU世だが、
ツナの心配そうな瞳に自然心が落ち着く。

この子は昔から自分達の安定剤のようで、いつも癒された。
常人ではとてもこなせないようなハードワークに耐えているツナこれ以上心配などかけるわけにもいかない。

安心させるように微笑し頭を撫でる。

「いや、あの程度のこと何でも無い。
お前は明日も早いんだからそろそろ休めツナヨシ。
これはもういいのかヤマモト?」

カウンターに置いてあった使用済みの皿を持ち上げる。

それに些か慌てて山本が軽く頭を下げる。

「あ、スイマセン」
「美味かったぜ」
「作ったのはツナヨシだ。
礼ならツナヨシに言ってくれ」

少しばかり笑ったU世はそのまま出て行った。
洗い場へ向かったのだろう。






その後姿を見送り山本は関心したように声を出す。

「U世ってなんかかっけーよなー」
「顔はザンザスにそっくりなのにな」
「そんなこと冗談でも言わないで下さいよディーノさん」

聞き棄てならないことを聞き、むっとしてツナが口を尖らす。

「アレと似てるだなんてU世に対する侮辱と同じですっ。
U世は俺の心のオアシスなんですからあんなのと一緒にしないで下さい」
少々本気で憤慨するツナに、あんまりな言われ様のツナの従兄弟に同情しながらも、
その従兄弟にかけられているツナのいつもの苦労を察してディーノは苦笑して軽く謝った。

そこでデザートのココナッツアイスを口に運んでいた山本は、見当たらない姿に辺りを見回す。
「なあ、そういやT世はどうしたんだ?」
「はれ?」

実体が持てる時(見えてないときでも滅多に離れないが)は梃子でも離れないT世に、ツナは首を傾げる。

しかし、珍しいことだが(過去に3回ぐらいしかない)別にそこまで気にすることないよと笑い掃除を始めた。
















































T世はツナに向けるものとは間逆の凍てついた瞳で目の前の男を睨みつけていた。

「何をしに来た・・・」

聞いたものが全て芯から熱を奪われるような声音で問われても、男は億劫そうにする。


「別にお前に用はねえゾ。
アイツを呼ぶかそこを退け」
「・・・・・・・・・」
「まあ別に、嫌っていうなら・・・」




男の手に現れたそれに、T世も炎を灯す。





「それでも構わねぇけどな」



















































男が笑ったのが合図となった。





































































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