理由

『ツナヨシ。なんだそれは』
「ただいま〜」

誰かと似たようなことを言いながら出迎えてくれた青年にツナはにっこりと笑う。
妙に間延びした話し方とヘロヘロとした足取りでいつも通り朝帰りをしたツナに、青年は眉を顰める。

「コレはね〜、とーッても良い、もの、なん、ら・・・」
ご機嫌に説明しようとするが、ツナは言い終わる前に崩れ落ちる。
限界が足に来たようだった。
通りと入り口の間でも構わず大の字になって爆睡を始めたツナを抱き起こしながら、青年は不満気な様子で昇り出した陽を睨んだ。





その容姿は、ツナと深く似通い、憂いと知性を秘めた端整な顔立ちだった。






































【 千夜一夜物語 〜七夜目〜 】



































青年は不満だった。

最近ツナはあまり構ってくれない。
いや、構いたくても構えないというのが現状だった。

週3日になったとはいえあの王の憂さ晴らしにも似た戦いの相手とその他諸々の雑用のバイトまでやるなんて。
ツナにはこのボンゴレの経営とまだいくつかのバイトもあるのだ。
身がもつわけがない。

その結果がこれだ。
「おいしーよー・・・」
寝言を言う、以前よりも更に軽くなった気がする体を抱えなおす。

だからあんな愚王のバイトなど辞めてしまえばいいものを。
再三言っているというのにツナときたら、

『でもバイト代がいーんだよー』
しかも労働内容もそんな酷くないしと暢気に答えるのだ。

命のやり取りの何処がそんなに酷くないのか。
理解ができない。
王のことを楽しそうに話すのも気に喰わなかった。

『全く、人の気も知らずに』
ツナを抱え上げることができる間にと簡素なベットへ急ぐ。

寝かせると同時に透けてきた身体に息を吐く。
間に合った。

ツナはもっと食べれるよなどと夢の内容がわかりやすい声を上げ寝返りを打つ。
幸せそうだ。





昔から変わらないあどけない寝顔。





『・・・・・・・・・』

思わず手が伸びて、
暫し彷徨い、
結局ツナの前髪を軽く払うだけに終わる。

元々痩せていたが更に儚くなった面差し。
明らかに、働きすぎだった。

『俺の時は其処まで貧しくはなかったと思うが』
何故、ツナの代からこうなのだろう。
商才は歴代の者達の中でも群を抜いているようなのに。
首を傾げる。

『・・・・・・・・お前の所為だろう』

『何時俺がツナヨシの仕事の邪魔をした』

突然かけられた声にも驚かず、青年はツナを見つめ続けながらムッとして返す。

ツナにかける布団を持ってきていた長身の男は、些か強面だが整った容姿を呆れたようにする。
本気で気付いてないのかこの人は。

『俺はツナヨシの邪魔にならないようにしているし、ツナヨシに近づく害虫共を日頃追い払っている。
役に立ってはいてもツナヨシの不利益になるようなことなどするわけがなかろう』
『・・・・・・・・・・・・・・・・』

ツナが危ないからと、男なら全員追い出すお前の所為で客が来なくなったのだとは言えず、男は溜息を吐いた。
死んでからも気苦労が絶えないのはこの人の所為だ。

――― そういう本人もツナが気がかりで成仏できていない情けない内の一人なのだが。






































『ボンゴレ・ファミリー』

この国のものならば知らないものはいない宿。
知名度共に歴史は最高。
店主は優しく気配りも良くついでに物凄く可愛い。
おまけに格安と言っても過言じゃない良心的な値段で宿泊ができ、
古いながらも清潔感のある食堂で出される食事も、ジャンルは少々特殊だが抜群に美味しかった。

とくれば売れに売れている。

・・・かと思えばそうでもなかった。
寧ろ全然儲かっていなかった。
ハッキリ言ってしまうと店主は国一番貧乏だった。
宿は人気なのに何故か裕福にならないのだ。

まあ理由はわかりきっていたが。

≪――ボンゴレ・ファミリーが貧乏な理由≫

それは、





































「ち・が・う!」

ボンゴレファミリーの主ことツナは今日も大声で怒鳴っていた。

もう夕刻で食事の支度をしないと間に合わないのに、よっぽど暇人なのか男は諦めず、
まだ出て行く様子も見せない。

(こいつ絶対女性にモテないな!?)

内心自分のことは棚に上げて毒を吐き、ツナは歯軋りをした。
こんなにしつこくては大抵の女性は去っていくだろう。
物事は諦めが肝心だ。
粘ることも大切だがコイツは遣い所を間違っている。

「何度も言ったらわかんだよ!ボンゴレは取立て屋なんてセコイ商売やってないって言ってるだろ!」

店の評判にも係わるような柄も態度も顔もついでにお頭も悪いらしい男にツナは苛々と声を張り上げる。
彼是43分は似たようなことを繰り返しているだろうか。
どれだけ理解力が足りないのか。

初めは不快に思いながらも、丁重な態度で接していたのだ。
それなのに・・・ッ!

(いつまでも調子に乗って居座りやがって・・・ッ!)
メラリとツナの琥珀が揺らめく。
幼いころはほやんとして怒ることなど一度もなかったが、両親がいなくなって一人で経営を始めて苦労を重ねているうちに、
ツナは結構短気になっていた。
しかし一時間近くも保っただけ大分気は長い方だろう。


これじゃあ来たくてもお客さんが来れないじゃないか!
決してウチが売れてないからとかじゃない。
今日の売り上げが悪いのはコイツのせいだ!!

ツナは一人の客も来ないことも男の所為にし始めた。
ちょっとあまり関係ないかもしれない。
だが常連の客も姿も見せないというのはやはりこの男がいるからだろう。





「そんなこと言って、あのヴァリアーを意のままに従えてるドン・ボンゴレってのはあんたのことだろ?」
「あれは・・・!」
勝手に馬鹿な従兄弟がやっているだけで・・・ッ!

叫びたかったが、親戚を罵倒するのもその親のあの人を貶すようで言えなくて、ツナは言葉に詰まる。

しかし意のままに操ってるっていうのはなんなのか。
そんな凄い素敵なことが出来てたらとっくにあの馬鹿弟にはあんな事業辞めさせてウチで働かせてる。
それにドン・ボンゴレとかアラビア人の癖になんでそんな単語知ってんだよと思う。
何処からかいらん間違った情報が流出しているのだろうか。

少し考え込んでツナが黙ったことを勝手に良い方へ解釈し、男はニヤリと笑った。
生まれた時から周りが見目の良い者達ばかりだったツナは怖気が立った。
絶対小さな子たちには見せたくない、トラウマになる。

「一回でいいんだ。
取り立てて欲しい家がある。
悪名高いあんた等ならそれで十分だからな」
報酬も弾むぞとやな笑みを浮かべる男を愚弟の代わりに張り飛ばしたくなる。
(お前が毎回毎回無茶ばっかするからこんな悪名とかいらない迷惑な名誉が増えてくんだぞ!?
ていうかそれボンゴレやったんじゃないし!!)

此処にはいない従兄弟への怒りを、其れまでの苛立ちと迷惑料も含めていい加減払わせてやろうか?
そう思って眼の据わり始めたツナが重心を下へ沈める。

前に、


男は急に宙へ吹っ飛んだ。


「え?」
『ツナヨシに近づくな』

ツナは突然目の前を覆った見慣れた背中を間の抜けた顔で眺め、
普通は吹っ飛ばす前に言うべき台詞を不機嫌に言った青年は、魅力的な微笑みで振り返った。

『大丈夫か?ツナヨシ?』

その誰もを魅了するであろうものには何の感慨も持たず、ツナは脱力して呻く。

『どうした、浮かない顔をして。
ナンパ男はいなくなったから安心していいんだぞ?』

わかっていない青年に、ツナはひたすらなかったことにならないかとこめかみを揉んだ。

「・・・・まだ18:00前なのにどうやって殴ったの」
『ツナヨシへの愛と想いと・・・。そうだな、気合だ』
「・・・・・・・・・・・・・・」

気合でいつでも実体化されては困る。

諦めたように嘆息し、あの誰もが見て見ぬフリをしている男をどうしようか考える。
生ゴミに出してもいいのだろうか。

まったく。

「T世のお陰で今日もボンゴレは大繁盛だよ」
『そんなに褒めるな、照れる』

(褒めてねえ・・・)

皮肉も彼には通じない。


ツナが頼むよと情けなく見上げた青年は、
体の殆どが透けていた。













































ボンゴレ・ファミリーが貧乏な理由。

それは

美麗な歴代ご先祖様達が、現在も皆揃って宿にいらっしゃる為だった。
































...Continua a P11→



あきゅろす。
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