呼び声

「十代目」









そう呼ばれるのが嫌だと感じるようになったのは何時だろうか。

いつもその呼びかけに気落ちする。

でも振り返って必ずあるその笑顔に、下がった気持ちが上昇するのだから。
自分は随分と現金だ。











「何?」
「もう少しかかるそうです」
「そっか、わかった。
時間になったら教えて貰ってもいいかな」
「え」
「俺は少し、先生と話があるから」




少し離れた所に影のように立っている男に視線を投げる。
それに納得したように獄寺は頷いた。

























【 呼び声 】

























十代目。
獄寺君は彼が好きだ。

一応それは俺のことを指しているんだろうけど、俺はいつも違う人の名前のようにしか感じない。


だって俺はマフィアになんてなる気はないのだから。


それはつまり彼の笑顔と存在を失うことにも繋がるわけで。





(キツイなぁ・・・・)





そのことを考える度に気分が沈む。



俺が好きなのは京子ちゃん。
彼女を見てるとドキドキするし、笑顔を向けられると幸せになる。

守らなければと思う大切な人。





獄寺君は俺の始めてできた友達で、時々怖かったり思い込みが激しいこともあるけれど大好きで大切な存在。
いなくなってしまったらきっと哀しいだろう。




初めて会った時から獄寺君が必要としているのは十代目で俺ではない。
時々十代目という存在にムッとする俺は結構ヤキモチ妬きなのかもしれない。

友達を取られたような気分になるなんてどれだけ子供なのか。





でもそれも仕方ないと思う。





俺には資格がないから。

いつも繰り返し言っていることなのに、誰も耳をかしてくれないけれど。
俺はマフィアになんてならない。





骸がやってきた時から思っていたことだけど、それの所為で俺の大好きな人達が傷付いた。
関係の無いお兄さんは重症を追い、京子ちゃんを心配させて泣かしてしまった。






俺は何度も何度も言ったんだ。






例えリボーンや獄寺君達が、・・・・・・・・・・・・俺の眼の前から消えてしまったとしても。
その意思は変わらない。





だからもう一度言おう。




















「リボーン、俺はマフィアのボスになんてならない」







家庭教師は眼だけで続きを促し、それに応えるように青年は言葉を続けた。








「だから。俺はボスにならない為に、ボンゴレを壊しに行く」
「・・・・・あぁ」








にっと満足そうに笑った家庭教師に、青年は顔を悲痛に歪ませる。
どうして、笑えるのか。

それはお前が守ろうとしているものも含まれるのに。
自分のエゴの為だけに俺は行くのに。

言いたいことも、伝えたいことも、謝りたいことも、憎まれ口も。
沢山、沢山あった筈なのに。

いざとなったら何も出てきやしない。







「お前が望むようになれなくて・・・・・、ごめん」






結局出てきたたった一言に謝罪。
それに馬鹿にしたように、しかし愛しそうに家庭教師は眼を和ませる。







「駄目ツナが。
誰がお前を此処まで育てたと思ってる」
「リボ、」
「俺がお前に教えることはもうない」
「リボーン・・・・」
「・・・チャオ、俺の可愛い生徒」





額に口付けた男に。
青年はもう何も言わずに背を向けた。





「十代目!
そろそろ出国できるそうです」
「そう、有難う獄寺君」







颯爽と去っていった元生徒を、眩しそうに見送りながら。

ただのアサシンに戻った男はもう一度だけ、呟いた。


















「チャオ・・・・、ドン・ボンゴレ」




























<...fine>



あきゅろす。
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