愛し子に幸あれ

「・・・・そっか、うん。うん、わかった、・・・ありがとう」
耳から話した携帯電話。
電源を切りもせずに暫し沈黙する。

また、駄目だった。
違う人だった。
何度目だろうか。

「・・・・・・・めた方が、いいのかな?」


一人呟いて、笑うことに失敗した。
顔が歪む。


最近、同じことばかりがぐるぐると頭に浮ぶ。
「もう・・・、無理なの、かな?」



その名を呼んでも答えはない。



あれは夢物語のようなもので、あの時とは全く違う未来に今俺はいる。
だから、


――潮時。なのかもしれない。





























【 愛し子に幸あれ 】






























「―−やっぱまだ、捜してんのか?」
「! ・・・・リボーン」
ハッと気付き、ツナは慌てて電源を切った。

(コイツが俺に気付かないなんて、こりゃ相当だな・・・)
定位置のようになっている壁に寄りかかる。

いつからか、ツナは自分が気配を消しているというのに声をかける前に振り返るようになった。
驚き半分、誇らしさが半分で、「お前はもう立派なヒットマンになれるな」と言ったのを笑って無理無理と流したのは何時だったか。
そんなツナが、今は全くといっていいほど気付いていなかった。
隙だらけだった。
これならば三流ものでも軽く引き金を引ける。
リボーンは密かに嘆息した。
あいつが電話してきたことにやっと納得がいった。

さき程のリボーンの言葉が聞こえていなかったのか、ぎこちないながらもツナが尋ねる。
「珍しいね、リボーンが来るなんて」
どうしたのという問いに、肩をすくめる。
「偶には昔の教え子の様子でも見てやろうかと思ってな」
「なんだそれ」
飄々というリボーンに、ツナは少し噴出す。
それにリボーンは眼を細める。
「案の定、相変わらず引きずってるみてーだからな。
来て正解だったぞ」
「・・・・・・・・・」

ツナの手が、止まる。

「諦めろ。とは言わねえ」
言ったって無駄だろうしなと言うリボーンの言葉に、ツナの手に力が篭る。
「だが、可能性が0に近いことは認めろ」
淡々というリボーンをツナは見ようとはしない。
それをわかっていても。義務を果たすようにリボーンは言葉を紡いだ。

「お前が昔十年後に行ったことで、未来は大きく変わった。
だからアイツがこの世にいる可能性も消えたかもしんねーんだ」
「・・・・・・・・・つまり、俺があの人の未来を。消したって、こと?」
掠れた微かな声に、リボーンは簡潔に返した。
「場合によってはな」
「・・・・・・・・ッ」
「アイツはオメーのすぐ近く来てるのかもしれないし、もうこの世に存在すらしてねぇかもな」
「・・・・・・・・」
「正直どっちとも言えない。だから諦める必要もねえ」
「・・・・・・・・・・・お前は、俺にどうして欲しいんだよ、リボーン」

矛盾することばかり言うリボーンを、ツナが困惑したように見る。
リボーンはそれに無表情を返す。
「別に。俺はただのヒットマンだからな。
希代のドン・ボンゴレに望むことなんて何もねーぞ」
「・・・・ッ!!
それはお前が、お前が俺をそうしたんじゃないか・・・・っ!」

思わずカッとなって、直ぐに吐き出した言葉に後悔した。

『マフィアになんてならない』

いつからか言わなくなっていた言葉。
我慢していた言葉。
言ってはいけない、言葉。
だったのに。


なのに、


「その通りだ」

何故か優しく笑った目の前の、男の考えてることがわからない。

「お前は俺の育てた最高傑作。簡単に諦めることなんて許さねぇ。
お前が望む限り、それは絶対だ。やめようなんて弱音吐いてんじゃねーぞ」
「・・・リボーン?」
「ほら」
わけのわからなくなってきたツナに、リボーンが小さな紙を差し出す。
そこには小さな走り書き。

「・・・・・住所?」

しかし、見たことのないものだった。
少なくともボンゴレのテリトリーではない。

「最近。其処に妙な餓鬼が住み着いたらしいぞ」
「?」
ツナの反応を面白そうに見ながら、男はニッと笑う。
それはツナの知っている癖のある笑い方。

「見た奴が言うには痩せた長身で常に薄汚れた作業着、
口癖は“ドン・ボンゴレを知らないか?”」
「・・・・・・っ!」

心臓が、大きく胸を叩く。
まさかという思いと、ひょっとしてという感情。

「行ってみる価値はあんじゃねーか?」
「お、俺行ってくる!!」






決め手は何よりの保証のような、元家庭教師のニヒルな笑みだった。























脇目も振らず、すれ違った右腕に一体どちらへと悲鳴を上げさせる。
駆けて行くその後ろ姿に、リボーンはくっくと笑った。




『うっとうしくて、咬み殺したくなるんだよね』




閉口一番そう言ってどうにかしてくれと依頼の電話を寄越した男の声音を思い浮かべ、相変わらず素直じゃねー奴が多いファミリーだなぁと部屋を後にする。
昔のように慌てふためいている嵐達の傍をを通り抜け、悠々とリボーンは歩く。

そして邸に入って来た入口近くにいた男に軽く眉を上げる。
珍しい。
「なんだ、見送りでもしてくれんのか」
「そんなものかな」

それと報酬はもう振り込んであるからという男に、やや呆れた眼を向ける。
「オメーも回りくどいことすんのが好きだな」
「君ほどじゃないよ」



すれ違い様に言われた言葉に、リボーンは面白くなさそうに眉を寄せる。
でも否定するのも餓鬼臭い。



「・・・・・・・・・悪ぃかよ」
「その通りだから、否定はしないよ」






やや開き直ったように言ったリボーンに、男は笑んだ。





(駄目な子程可愛いっていうのは、本当みたいだからね)











自分に気付きもせずに一目散に走っていった一途の塊。
少し面白くないけれど、あの子が生きているならそれでいい。











「僕たちの愛しい教え子に幸あれとでも、祈っておこうか」
「何にだ」
「決まってるだろう」

満足そうな依頼人に見送られ、ヒットマンは鼻を鳴らしながなもその通りだと思ってしまった自分に少しばかり辟易した。












<...fine?>



































過去に戻って、それから十年が経ってからのお話(ややこしいな


リボーンと雲雀さんはツナを駄目な愛しい生徒としてみてる保護者みたいなカンジです。
未だにスパナを探し続けていたけども、ちょっと挫けそうになったのを見かねて雲雀さんがリボ様に依頼しました的なね。(説明しないと駄目ってどんだけ_| ̄|○

『あ?なんで俺が態々・・・。
大体何でテメーで叱咤しねーんだ』
『僕がやったら遣り過ぎてしまうからね。
あの子は可愛いから』
『・・・・・・・』

雲雀さんはツナたんを弄るのが好きな模様(笑)
因みにリボ様はフリーなヒットマンです。
ツナを保護者的に見てるリボ様はツナを近からず遠からずの位置で見守ってるんじゃないかと。

こんなカンジのパターンの二人を書くのは初めてですがとても楽しいですねv
でもアダノの中の本当の未来予想な二人はこんなんかもしれない。



さてさてスパナとツナたんが出会えたかはまたいつか、書けたらいいな。。。(殴




2008.12.26



あきゅろす。
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