後味

押した瞬間零れ落ちた、手の甲に付いたものを見つめ

男はそっと口付けた







「・・・・・・・・しょっぱ」





























【 後味 】




























よく、わからない人だなぁと思う





「ん、」
「へ?」
「やる」
「・・・どーも」

(あ、オレンジだ)
受け取ってから、いつもと違う色だと気付く。

・・・それは依然好きだなーと何気なく言っていった味で。





こんななんでもないようなことですぐに強く感じる

自分の胸の鼓動を




「何だ?」
「・・・・・えと、何でもないです」
「ふーん、じゃ次は右手出して」
「はぁ・・・」













(変な人だな、ホント)

でも好きだな、と 思う







自分の気持ちに気が付いたのは何時だろうか






うろたえて

自分の心に気付かないようにして

でも結局負けて







全てが終わりに近づいた時

気がついた






この恋は実らないって

















泣きもしなかった



ただ

ゆっくり、ゆっくり


目の前が暗くなっていって

光が失われていくのがわかった






この人と自分は本来なら重ならない筈の時を

誰かの気紛れと、悪戯で一緒に過ごした、過ごせただけの淡いものだから

仕方ないと、何処かで諦めていた


例え生きる時が同じでも実るとは思えなかったし

まだ時間はあると思ってたから













でも、唐突に別れはやってきた

























「十代目!!」
「わ!?な、何獄寺くん」
「直りました!」
「何が?」




揺さぶられ、ぐらぐらする頭で聞いた言葉を




「十年前に帰る装置です!」
「え・・・?」





聞き間違いだと 思いたかった


























「なあ、スパナ」
「何」
「俺、帰らなくちゃ」
「・・・・・・・・・・・ふうん」







そっけない答えに

やっぱり

涙は出てこなかった
















俺もスパナも、乾いてる

秋に舞っている枯葉みたいに

人の足に踏まれ、風に煽られ、小さくなって、消えていく





寂しくて切なくて何か言いたいのに何も言えない






























そして、別れの日








遅れてやって来たその人の


「ぁ・・・」


小さく手を振った手に握られたものを見て

堪えていたものが、溢れ出した













「離れたく、ない」
「ツナ・・・?」



離れたくない・・・・ッ!









嫌だ!











誰かが止めたような気がしたし、皆が見ていることもわかっていたけど
そんなことはもうどうでもよくて

薄汚れたツナギに涙とか鼻水だとかもうごちゃ混ぜに擦り付けてやりながら滅茶苦茶に抱きつく
癇癪を起こした子供の俺に、スパナは首を傾げる


この人はこんな時だって抱き返してもくれない


「・・・十年待てば会えるだろ」
「馬鹿!俺が知ってるスパナはお前だけだ!」


多分だけどというのがもどかしくて、

自分とは違う、こんな時でも平気そうな顔をしているのが哀しくて


「俺が元の時代に戻ってッ、十年待ったってッ、スパナに会えたとしても・・・ッ!」






それはお前じゃない


それに、





「お前は?」
「・・・・・・・・・」
「俺は待てば会えても、お前は俺に、もう二度と・・・ッ」

怖くて口にできない言霊を喉で押し止める。




「それなのに平気なの…?」




俺だけなの?




声が震える




馬鹿みたいだ




わかってる




でも止まらない


























「自分だけが悲しいと思ってる?」
「・・・・・え」
「寂しいと、思ってんの?」









スパナはフッと目元を和らげた。








「アンタやっぱり、ボンゴレのボスだね」










初めての優しげな笑顔に付いて来た言葉は











「凄い残酷」












とても愛しげに呟かれ、直ぐに轟音にかき消された

















額に一つ触れ、スパナは軽くツナを押した


「さいなら」

































アルコバレーノは嘘吐きだ

「ボンゴレは塩味だ」





誰もいなくなった其処で一人呟き

あげ損ねた飴をいつも通りに口に含もうとして、やめる







今 口の中にあるそれは

自分だけが知っている味だから






もっと味わっていたっていい筈だ





















「・・・・でもしょっぱすぎ」




新たに咥内に入り込んできたそれが自分のものだとは気付かず、また呟いた男の手から

オレンジの結晶が滑り落ち、欠けた





































もう戻らない、あの子と同じように















<...fine>



あきゅろす。
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