Per ora,Insanabile improbabile

一度して懲りたから。
もう、絶対に絶対にしない。
そう決めた。
そうならないよう気も遣った。
あまり好きじゃないけど珍しくお金も使って、痛いのも我慢した。
なのに・・・、
あぁもう、どうして!





















【 Per ora,Insanabile improbabile 】






























「で、今まで黙ってた理由はなんだ駄目ツナ?」
「・・・・・だ、め。ツナ、ゆー・・・な」
言葉を返そうにも上手く話せない口、いや自分の体を呪った。
しかも重いし、熱いし。
「答えになってねーぞ」
「うー・・・」
じっと見下ろす元・家庭教師を、勝手に潤む瞳で見上げる。
途切れ途切れにしか話せないのが腹が立つが、何も言えないのも癪に障るのでぜーぜー言いながら声を出す。
・・・自分でも思うけど俺って餓鬼臭いな。
「だって、言ったら。お前等、すご・・・く、大袈裟に、言うじゃん、か」
「当然だ。大袈裟じゃなくて実際大事だから言ってんだろ」
「そこまで、酷く、な、」
「平熱35度の野郎が40度になったら十分大事だ馬鹿が」
「うぅ・・・」
反論する気力も力ももう出ず、ツナは呻いた。





イタリアに存在する巨大マフィアのドン、沢田綱吉ことツナは現在インフルエンザにかかっていた。
ドン・ボンゴレに就任し、イタリアに来てから二度目のことであった。
一度目は「イタリアにもインフルエンザって流行るんだー」などと暢気なことを考えていたのだが、熱が上がるにつれ後悔した。
辛いからではない。
否、辛いというのも本当だが、それよりも辛かったのが、


部下、特に側近達の反応と見舞いの嵐の方だった。













「「「「「「ツナ(綱吉、さん)がインフルエンザに!?」」」」」」
ツナに関することだけ息が合うらしい幹部達に、補佐のリボーンは嫌そうに眉を顰めながら頷いた。
「ああ。お陰で予定してた会談も食事会も依頼も全部キャンセルだ。あー面倒癖ぇ、勿体ねぇ。
何でよりにもよってクソ忙しい年始年末にかかるんだあの駄目ツナめッ」
「そ、それで10代目は今何処の病院に!?」
「馬鹿。此処のがよっぽど腕が良いのがいるし安全だろが。
お前等、くれぐれも今回はツナの回復の邪魔すんじゃ、」
「リボーン」
「あ゛?何だコロネロ」
「もうどいつもいねーぞコラ」
「・・・・・・・・・・・・・・はぁ、いい年こいた大人共が」
リボーンは不機嫌そうに溜息を吐いた。






その後、ドン・ボンゴレの部屋で争う怒声に奇声や絶叫、悲鳴、爆音は、優秀な補佐達が幹部の者達を叩き出すまで続いた。








更に熱が上がったツナが死にそうな声で恨み声を上げた。
「毎回毎回誰がリンゴをあげるかとかタオルを変えるかとか誰でもどうでもいいようなことで争い始めるわ人肌が一番良いとか言って脱ぎだして布団に潜ろうとするかと思えばこっちが動けないことをいいことに着替えさせようとして脱がそうとするわ嫌がらせなのかそれを撮り始めるわ…ッ!
去年と殆ど変わんないことやるし!?何故か部屋は破壊されるし!?あいつ等幾つだよもうーーーーーーーーー!!!」
体力が最低値なのに一息で言いきったために咳き込みながら、ツナはこれだからインフルエンザなんて大ッ嫌いなんだと呻いた。

ツナがインフルエンザを嫌うのは、部下達の暴走をいつものように止めることが出来ず、殆どされるがままになってしまうからだ。
これでは幾らお金があっても足りないし(修繕費)、寝れないし、病体は悪化する一方。

『これは・・・、いつか。死ぬ・・・・・ッ!!!』

間違いないと超直感で悟ったツナは決心した。絶対に今年はかからないようにしようと。
嫌いな予防注射も受けた。
毎日の怒涛の業務に倒れそうになりながらも体には気を遣った。


なのに、またかかった。

ショックだったが知られなければいいんだと今度は気を張っていつも通りに振るまって生活した。



バレた。

・・・・・・・でもリボーンが言わなければまだマシッ!いける気がしないでもない!(迷惑をかけられるのがリボーン一人ですむ)



と、思って。いたのに。

なのに・・・っ!








「何で、あっさり言っちゃう、か、なぁ!もう!」

荒れ果てたというか消滅した自分の部屋だった場所を想い、半泣きしながらツナはリボーンを睨んだ。
因みに今は核爆発でも平気だというとある一室に寝かされている。
此処はツナと\代目、もう略補佐のような立場のリボーン・コロネロ。創設者のジャンニーニ達しか知らない地下室なので、当分守護者達には見つからない筈だ。
でも彼等の嗅覚は(ツナのことになると)半端じゃないので見つかるのも時間の問題かもしれない。

・・・・って、なんで悪いことも何もしてないのに俺が逃げ隠れみたいなことしなきゃいけないんだよ!?
おかしくない!?

「だ、か、・・・・ら。こう、なるから!知られるの、ヤダったのに・・・・・っ!」
「あぁ、さっきの酷さはまるで嵐の守護者の怒涛の攻めみてぇだったな」
「リング戦を懐かしむ、な、よ・・・・・」
突っ込みの哀しい性。息が絶え絶えでも突っ込まなければ駄目らしい。
「でも、悪いことばっかでもねーぞ」
「何が、だよ?」
少し荒んだ目をしながら半眼で見るツナに、リボーンはニッと笑いながらサインのされた紙を二枚渡した。
「会談も抗争中マフィアの鎮圧も終わったんだからな」
「・・・・・え!嘘!?どうやって、この契約取ったの!?
此処のマフィアも相当、梃子摺りそうだったのに・・・ッ!
まさか、皆でやってくれた、とか!?」
「言っとくがあの役立たずの馬鹿守護者共じゃねえぞ。
会談はディーノが。抗争の片付けはヴァリアーが終わらした。因みに時間は30分ジャストだ」
(交換条件がツナに会わしてやることだから金もかかんねーし。プライレス)
妙に機嫌良く話すリボーンに対し、ツナはへなりと疲れきったように布団に突っ伏した。
「〜〜〜いいんだか悪いんだかわかんないよ、それぇ・・・。
同盟してるからって、もうディーノさんには返せない位お世話になってるのに・・・・・。
この時期向こうも忙しいだろうから、つまりは迷惑かけちゃったってことだし。
ヴァリアーはザンザスのやり過ぎ止めるのでまたスクアーロとか部下が、酷い目にあっただろうから、治療費持って見舞いに行かなきゃいけないし。
・・・・・怪我大丈夫かなスクアーロ」
情けない顔をして後始末のことを考えながらも独り言気味に既に八つ当たり決定済みの剣士が無事か心配するツナに、リボーンは少しムッとする。
「だから急を要する仕事はねーって言ってんだッ。
おら。布団ちゃんと被れ!寝ろ!んでとっとと治しやがれ!!」
「わぷ!」
布団を強引に被せて鼻を鳴らし、どかっとベットへ腰掛け、ちゃんと寝るか見張るようにツナを見下ろす。
「〜〜言われなくてもちゃんと寝るって。何で俺がお前に子供みたいな扱いを・・・」

不服そうに口を尖らせながらも布団に潜り込むツナの頬は、熟れた林檎のようだった。
ツナは肌が白いから余計に赤さが顕著になる。
痛々しい程真っ赤だ。
今更だがリボーンは些か心配になり、頬へ手を伸ばす。
「・・・だから。もういいから。休め」
ひんやりとした手でそっと触れられ、ツナは気持さに思わず眼を閉じる。
「これ以上執務滞らされても困るからな。
それとも俺様を過労死させる気なのかダメツナ様は?」
「・・・早く治させていただきますよリボーン様」
少しばかり不安そうな眼で見ている癖に素直じゃないことを言うリボーンに苦笑しながらもツナは頷く。
「ちゃんと、治すからさ」

ツナが安心させるように微笑むと、リボーンは思わずといったように優しげに微笑んだ。



(うーわー・・・。またそんな凄い甘い顔されても)
いつも仕事中には決して見せない表情。
ツナはリボーンのこの珠にしか見せない笑顔が結構好きだったりした。
言ったら調子に乗るだろうから口にはしないけども。
(・・・・インフルエンザも悪いばっかりじゃないのかな)

などと思ってしまう自分はかなり現金だ。





「じゃ、新年のマフィア対抗ゲームは適当にまとめとくからな」
「(また今年もやるのか・・・)あー・・・、うん。わかった、任せる」
ツナの心情を読み取ったのかリボーンはニヤリと笑い、技とらしく大仰に礼の形をとる。
「では、ボス。ごゆっくりとお休み下さい」
「・・・休ませて頂きます、優秀な補佐殿」



リボーンがドアノブに手をかけた時、ツナはふと疑問に思っていたことを聞いてみた。
「リボーン」
「何だ」
「どうして、わかった?」

結構上手く騙してたと思ってたんだけどと顔を向けるツナに、リボーンは一瞬詰まったような顔をした後、疲れたように深く溜息を吐いた。
「・・・・・・・・・・・・それを言わすのかお前は」
「?」
全くわかっていない様子のツナに、彼にしては珍しく自棄になったように言い捨てた。

「・・・嫌でも毎日見てたらわかるからだよこの駄目ツナが」









(お前はわかりやすいしな・・・)
心の中で付け足してから閉じた扉に寄りかかり、息を吐く。
室内とは違うひんやりとした空気が心地良い。

まさか聞かれるとは思っていなかったから。
お前をいつも見ているからなんて、素直に言えるわけもなく。

「ったく、こっ恥ずかしいこといわせんじゃねぇよ駄目ツナが」
柄にも無いことを言ったとブツブツ呟きながらリボーンは歩き出す。




途中、赤くなった耳を隠すように帽子を深く被りなおしてから。

















リボーンが出て行った扉から視線を戻し、ツナはまだ納得いかないように首を傾げた。
「・・・・・・だから、ドン・ボンコレとして振る舞ってたのに顔でわかるぐらいじゃヤバクないか?俺?」


























Codesto amore....Per ora,Insanabile improbabile...






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