やりすぎですリボーン先生


泊まっていってという昔と変わらず優しい笑みを向けた奈々に苦笑してそれを辞退した。
仕事で来ている今回は狙撃される恐れもあったというのもあるが、もしかしたら自分を訪ねるやつがいるかもしれないことを見越してのことだった。



奈々にそれならと持たされたガトーマルジョレーヌを口に運ぶ。
酷く甘いが、流石といえる美味しさだった。
イタリアでも古参なこの菓子を知っていたことに驚いたが、家光の好物でもあるらしいというのに納得した。

合間にカップに口を付けた時、微かだが足音が聞こえた。
自然口端が上がる。

(フン、やっぱり我慢できなかったか)

毎年毎年一緒に過ごしてきたのに、今年は1人だということが寂しくなったのだろう。
全く仕様の無い奴だ。

「ま、そこが可愛いんだけどな」


コツコツと聞こえてくる足音に身体を沈めていたソファーから立ち上がる。
態々イタリアから来たのだから、出迎え位はしてやるか。



ドアノブに手をかけられる寸前のタイミングを見計らって、リボーンはすいとドアを開けた。
「遅かったじゃねーか」
「へ?あ、えと」



相手が眼をまんまるにしたことも、手に携えてきたものも、全てが予想通りで。
しかし、艶っぽく笑っていたリボーンはビシリと固まった。









「えーっと態々どうも。
あ、夜分遅くにスンマセン、ブラックキャット便です。
沢田綱吉様からリボーン様にお届け物だそうで、お手数ですが判子かサインお願いできますか?」




















今日は世に言うヴァレンタインである。





























【 やり過ぎです、リボーン先生 】


























「ツナ、お前、これ・・・」
『あ、届いた?良かったー、海外便とか自分でやったの初めてだったからさ』

衝動のままに電話して7コール程で出たのんきな声に、信じられないとばかりに箱を握りしめていたリボーンはそこでキレた。

「ふッざけんな!!!届いたじゃねえだろこの駄目ツナがぁ!!
何だこの中元みてーな渡し方は!?」
『はぁ?
お中元みたいなのって、・・・お中元だけど何言ってんの?』
「ぐッ!」








『イタリアではヴァレンタインデーにはお中元としてチョコの遣り取りを行うものだ、覚えとけよ駄目ツナ』
『へーそうなんだ知らなかったっていうか駄目ツナ言うな』
『ってわけだ。日頃お世話になってる俺様にホッペが落ちる位美味いチョコ寄越せ』
『はぁ!?俺そんなの買うお金な』
『誰が買えって言った。リボーン先生への愛と感謝を込めて誠心誠意作りやがれ。
美味いのが出来るまで特訓だゾ』
『無理に決まっ、ぎゃあああああ!!!』









昔チョコを貰う理由として教えた嘘だった。
自分はもらえるし、他は貰ってもお中元だからと訳の分からないことを言われてそれってつまり義理!?っと落ち込むので一石二鳥だったのだ。

だが今更こんなクロネコあんちゃんにあ、どーもいつもご苦労様でーすみたいなので届けてられるとは思っていなかった。


「でも、いつもは手作りだったじゃねーか!?」
『それはお前が駄々捏ねたからじゃん、今までは偶々一緒にいたからだし。
今年はお前が日本にいるんだから仕方ないだろう?』

今年は丁度自分個人に入った仕事で日本に来ていたリボーンは歯噛みする。
それを寂しく思って来てくれるとか期待してた自分が馬鹿だった。
ついでに渡しておいて〜と奈々への土産などを渡された時点で気付けばよかった。

「だからって市販品で済ますとかお前・・・」
『何言ってんだよそれベルナッションのチョコだぞ』

ツナは呆れたように言った。
ベルナッション。それは王室御用達でリボーンの気に入りの店のものだというチョコの老舗。
たった一粒のチョコがツナからすれば信じられない値段で売っている。
香りが違うんだと言われても、ツナには今でもよくわからないが。
でも好きだと言うから態々買って送ったというのに、これで不満だとか相変わらず我侭な奴だなとツナは眉を寄せる。


『全くお中元でこんな手間取らせるなんてお前だけだからな。
皆は俺の作ったので我慢してもらったってのに』
「!? 何だその贔屓は!!」
『贔屓?
あぁ、まあ皆俺ので我慢してくれてんだから確かにお前だけ贔屓するのは変かもしれないけど。
お前は好みに煩いからって言ったら皆笑顔で俺のでいいって言ってくれたんだぞ』
「・・・・・・・・・・・ッ!!」

勘違いをしているツナに違うといいたいが、ざまぁみろという同胞達の優越感溢れる笑みが軽く想像出来て携帯がミシリと音をたてただけだった。
怒りに震える声でなんとか尋ねる。

「・・・じゃあそれの、お前の作った、残り、は、」
『え?あぁ今スカルが食べたので最後みた』
「パシリ殺す!!」
『はぁ!?ケーキくらいで殺人予告するなよ!!』
「るせえ!駄目ツナなお前に繊細な俺の気持ちがわかるか!!」
『わかんねーよケーキ食べられたからって怒る子供みたいな理由で物騒なこと言う奴の気持ちなんか!』
「お前の作ったのじゃなきゃ、意味ねーから!!だから・・・ッ!
ああもうクソ!!」
『・・・リボーン?』

受話器の向こうの元家庭教師の声が何だか沈んだ気がしたツナは首を傾げる。

(そんなに大事なのか?イタリアのお中元て?)
確かに相手に感謝を表すこととして大切なものではあるが、そんな落ち込む程のものなのだろうか。
しかしいつもは腹の立つ位不遜で自信満々なリボーンが元気がないと逆に心配になってくるもので、ついつい言ってしまう。

『帰って来たら幾らでも作ってやるから、だからそんな落ち込むなって』
「・・・ホントか」
いつも面倒臭がって作ってくれないのにと、リボーンがブスくれたように言う。
昔と違って頑張ればある程度のことは出来るようになったツナは、菓子作りが中々上手いとリボーンに言われている。
味に煩いリボーンが好んで食べる程なのだから、実際は相当な腕前といっていいだろう。
しかし根が怠惰なツナは、余程のことやお客が来た時でなければ腰を上げることはない。
さして自分のものが良くないと思い込んでいることもあるかもしれない。

だが例え下手だったとしても、自分が無理やり始めさせたことでも、リボーンはツナが自分の為に作ってくれただけで嬉しかった。
だからこそ余計に今日という日を期待していたのだ。



なのに・・・この仕打ち。
他は手作り俺だけクロネコ便で市販品とか、ありえねーだろッ!?



受話器越しに伝わってくるドロドロとしたものに、ツナは嘆息する。
何が不満だったか知らないが、ご機嫌斜めらしい。
リボーンが年々幼くなってきている気がするのは気のせいだろうか。
会った時の方が大人だった気がする。

(ま、嫌じゃないからいいけどさ)



『皆は中々会えないけど、でもお前はいつでも会えるだろ?
それに散々嫌味とか文句言いながらだけど、でも結局今でも俺のこと助けてくれてるから。結構これでも感謝してるから。
今年は奮発してみたのに』

お前全然嬉しくなさそうなんだもんなという、気のせいじゃなければ少し拗ねてるらしい声音のツナに、リボーンは眼を点にした。

「・・・・・・・・・・は?ちょっと待て、それはどういう意」
『何でも作ってやるから、だから、』



















早口で言って一方的に切られてしまった携帯を閉じもせず、リボーンは口元を覆った。
顔が熱い。

今の自分のニヤけ顔を見たら、ビアンキでさえ愛想を尽かすかもしれない。
それぐらい、だらしなく緩んでいるのがわかった。
「・・・フン、なんだ。俺の杞憂じゃねえか」


全く素直じゃない奴だ。
ベットに放り投げるように置いてあった箱を持ち上げ、ご機嫌に軽くキスを落とす。

「・・・俺が帰るまで、いい子で待ってろよ?駄目ツナが」






今年もまたヴァレンタインがお中元のようなものなんだという嘘を訂正するのを忘れたが、まぁいいだろう。













『文句言うなら早く帰ってこいよな、寂しいだろ』














こんな嘘などなくたって、愛しい教え子は昔から自分がいないと駄目なのだから。


































次の年の同じ日。
今度は何処のメーカーとも知れぬ送られてきたチョコがインターネット通信販売のものだったと知ったリボーンは、慌て訂正の電話をかける羽目になる。






<fine>
































結局ツナはイタリアでのヴァレンタインが何なのかをわかっていなかったというオチ。

あまりにアンケート結果の先生が不憫だなあと思ってたら浮んで書いてみたらやけに長くなったお話。
結局先生あんま良い想いしてないけど(笑)

勿論本当はイタリアではお中元なんかじゃないしチョコも渡したりしませんので信じたりしないで下さい(笑)
向こうでは花束が支流みたいですねv

リボーン先生がやりすぎ(今回は嘘教えすぎ)って後悔したり周りが迷惑被ったお話を書いていきたいと企んでいたり(また碌でもないことを・・・)

2009.2.14


あきゅろす。
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