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「何でウチなの」
「まともなのがお前位だからだ」

ウチは機械が専門で生モノは扱ってないという男にリボーンが真顔で返す。
心底面倒そうな顔をしてから、男はチラとリボーンの腕に納まっているツナを胡乱気に見やる。

「・・・・・・・それ、ホントにボンゴレなの」
「信じられねえが、そうみてえだ」



吠えるのが一回だったらYES、二回だったらNOという簡単形式で質問などをした結果、どうやらこの小さな仔犬が本当にツナであるらしいことが先程正式に判明した。
だがわかったからといって解決方法などわからなかった。
今まで数奇な運命を辿ってきたリボーンでさえ、こんな薄っぺらい作り話のような現象には初めて遭遇したのだ。

取りあえずるんるんで連れて帰ろうとしていた霧のことは守護者二人に任せ、ボスの部屋を後にしながら考えた。
先ずこういうことに慣れているだろうジャンニーニを思い浮かべたが、生憎と仕事で日本に発ったばかりなので早急に来させるのは無理だろう。
では正一はというと、白蘭の不始末に慣れているということで5日前に此処を出たきり戻ってきていない。
ミルフィオーレが近くとはいえ、今頃一睡もせずに憔悴しているんだろう青年を呼び戻す程リボーンは鬼ではなかったのでこれもまた諦める。
一番適任かもしれない自分の同胞でもあるヴェルデの顔も一瞬頭を過ぎったが、すぐさま消した。
論外だ。


結果、このまあ良識の部類に入るだろう彼のラボに訪れたのだが。





「無理。ウチ、猫派だから」
そういってあっさりと首を振った男にツナは半眼になった。
お前、この間は猫嫌いって言ってたじゃんか。

抱えたツナが今にも咬み付きそうな気配を見せたので、リボーンは落ち着けと撫でてやりながら口を開く。
「犬派だろうが猫派だろうがこの際んなこた関係ねーんだ。
解決しろとは言わねえ、調べるだけしてくれ」
「・・・・・・・・・・・・・」

男は何かを考えるように咥内でカラリと飴を転がすと、無表情で返した。
「良いけど、毛とか落とすなよ」




・・・・・・・今は犬の俺にどうしろと。




モスカの調子が悪くなるからと背を向けた男にガクリと脱力したボスに、リボーンが頑張れと肩(?)を叩いた。






























【 レッツエンジョイ・ドックライフ? 3 】

































「おお凄い!俺の声がする!」
「一先ずだけど応急処置みたいなもの」
意思の疎通がとれないのは困るといって首輪型の変声機を付けてくれたスパナにツナは有難うとお礼を言った。
嫌々でも直ぐにこういうのが作れるスパナはやはり凄いと思う。

「本当はこういう小さいの弄るの苦手なんだよね」
もっとウチはでかくて格好良いのがいいというスパナにああもうわかってるよモスカだろと返す。
実際はそうでもないのだが、久しぶりに人と会話が出来て嬉しい俺は、ちょっとばかりはしゃいでいた。
近くに転がったボルトを追い掛け回したり、なんの部品かわからないけど長細いコードにじゃれつくくらいに。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いくら話せるようにはなっても犬の思考回路は離れてくれないけどまあ我慢しよう。


とにかく俺はそんな具合に浮かれていた。
それにスパナがうんざりしたようにゴーグルを持ち上げる。
「うるさい」
「ご、ごめん。でも何だか人とちゃんと話せるのが久しぶりな気がして」
「そんなのウチ関係ない」
全くもってその通りなのだが、その平淡な声が俺としては寂しくて。
いつもはそんなことしないのにもっと話してとか構って欲しいとからしくない駄々を捏ねていた。
犬の思考回路って人間の子供のと似てるのかもしれない。


それに対し、スパナはもう何も言わず、心底うっとうしそうな眼をして。

疲れたように、深く深く嘆息した。


その仕草に急速に俺の体は元気を無くし、やっと黙って蹲ってくれるようになった。
自分としてもスパナの仕事の邪魔はしたくないし犬な自分も嫌だしスパナが辟易するのも最もだとはわかっていたのでそれでよかったのだが。





「・・・・・・・・・・・ボンゴレ?」





暫くしてから戸惑ったような声と、乱れたパソコンのキー音に首を傾げる。
いつも無表情に近いスパナが動揺しているのが眼にみえてわかった。
どうしたんだろうか。


そんな俺に、スパナは俺が自分の状況を理解していないとわかったらしい。
ゆっくりと尋ねた。






「泣いて、いるのか?」






その言葉にキョトンとして、次いで何言ってんのそんな訳ないじゃんと笑おうとして。
失敗した。



どうしようもなく、哀しかったから。











「もう、やだ・・・。元の体に、戻りたい」
「・・・・・・・・・・・」

情けなくて哀しくて、でも何も出来なくて。

俺は泣いた。



(っていうか犬の体でも泣けるんだ)



なんて考えたら笑えたけど益々泣けた。



部屋にゆっくりと響くキーを叩く音と、俺のしゃくり上げる声に犬がキュウキュウ鳴く声が混ざって響く。



「・・・・・・・・・・・・」



ぽすんと頭に重いもの。
見ればスパナのおっきな手。


何も言わずに撫でてくる。

犬扱いするなっていいたかったけど、それがどうしても心地よくて別な意味で泣けてきて俺は黙ってされるがままになる。











気付けばキー音は止まってて、俺は温かくてほっとするぬくもりに包まれて眠り込んでいた。







あきゅろす。
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