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幻覚だああそうに違いない。
つい最近似たようなことを腐れ縁のパシリに言ったと男は気付いていた。

しかしあの時と今では状況が違う。
あれはパシリが制御が出来なくなった獣のようにツナに襲い掛かっていたのであって、ツナは被害者だったのだから。



大変御幣があることを考えた男は眼の前の映像をなんとか上手く解析しようとするが、全て同じ答えに行き着きそれを脳が拒否する。
スパークしそうだ。

(って俺はロボットか)


まあどっちにしろ、






「ワンワンワン!」
「ウー・・・ッ」
「いてー・・・」






この部屋で正気な奴なんていないとわかった。





























【 レッツエンジョイ・ドックライフ? 2 】




























「てめー獄寺。
いつからそんなプレイ楽しむようになったんだ?」
「ち、違いますリボーンさん」
「まあどっちにしろツナは正気じゃねーみてーだがな。
お前なんかクスリでもやらせたのか?」
「そんなわけないじゃないですか!!」

流石に本気でいきり立った獄寺にリボーンは悪いと簡潔に謝った。
そんな笑えないジョークを言ってないとやってられなかった。
すっぱだかのツナが右腕に抱きついて犬みたいに吼えていたのだ。
冷静でいろというほうが無理だ。



「犬の躾をしないのは近所迷惑だよ」



前触れもなくかかった声に、獄寺が舌打ちする。
そういえば午後から来るとツナが昨晩言っていたのだった。
わかっていながらも今はお呼びでない客人に邪魔だと言わんばかりに睥睨する。
「ここらに近所も糞もあるか、何の用だ雲雀」
「君には用はないから安心しなよ獄寺隼人」
「ツナに呼ばれたのか?」
「そうだよ赤ん坊」
いたのかいといいながら開けっ放しだった室内に足を踏み入れた男は、次にYシャツ一枚で獄寺にしがみついてご機嫌そうなツナを視界に入れ動きを停止した。
「・・・・・・・・・・・WAO、何の遊びっていうか誰の趣味?」
「素っ裸よりマシだろうが」
チャッとトンファーを構えた雲雀に、咬まれて痛がっていた獄寺と吼える犬と素っ裸で獄寺にじゃれ付くツナを見てまずツナに服を着せることを選んだリボーンがげんなりと言う。
抵抗にあったのか、リボーンの端整な顔やモデルのような綺麗な指先には細やかな蚯蚓腫れのようなものが出来ていた。
それに今までこの男が傷を作ったことなど見たことが無かった雲雀は、一先ずトンファーを降ろす。
「なに、じゃあ沢田綱吉が裸だったから着せたってこと?
君ってそんなに大胆な性格だったっけ」
後半の台詞を向けた相手を見るが、ツナはただニコニコと笑って首を傾げただけだった。
その仕草はとても可愛らしいが、返答にはなっていない。
雲雀もどうやらツナがおかしなことになっていると漸く気付き始めた。
「・・・この間、お茶をした時は何ともなかったよね。どうしたの、この子」
「昨日の夜もまともだったゾ」
「俺が今朝挨拶に来た時には、もうこの状態になってらした」
「じゃあこうなったのは、」
「おや、皆さんお揃いで何をやっているんですか?」

そこで突如として文字通り湧いて出てきた男に、雲雀は嘆息する。

「・・・・・・・一番お呼びじゃないのが来たね、面倒くさい」
「失礼ですね、暴言を吐かれて僕が喜ぶのはボンゴレだけですよ」
キミに言われても全然気持ちよくありません寧ろ不快ですという存在そのものが不快だと称される男に雲雀は辟易した。
しかしそんな反応には慣れているのか、男は別なことに眼を瞬かせる。
「・・・・・・・?
何をやってるんですか貴方達。新しいプレイにでも目覚めたんですか気色悪いですね」
「何度目のやりとりかわかんねーからやめろ。段々苛々してきた」
「はあ犬相手に何をしてるんだか知りませんが、僕には関係ないことですし別にいいですけど」
「あ?」

ボンゴレと話してるんじゃなければ彼は僕が連れていきますよと言って骸が抱き上げたものに、一同は唖然とした。
それは正しく犬ではないか。

(む、骸!?お前まさか俺が俺だってわかって・・・!)
一方抱き上げられたツナは、今までの誰にも気付いてもらえないという絶望色に打って変わって希望に眼を輝かした。
コレほど骸に会えて良かったと思えたことはない。
「クフフ、結婚したいだなんてやですねーもう準備は十年も前から出来てますよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・とうとう電波の毒が全身を回ったみたいだね」


そこまで言っていないと否定を表し顔を近づける骸に精一杯前脚を突っ張るツナと嬉しそうに笑う骸。
周りからすれば電波が気の毒な犬に絡んでいるようにしか見えなかった。

それにむっとしたのか骸はツナに顔を近づけるのをやめる。


「電波電波と煩いですね、僕からすれば貴方達の方がどうかしてるようにしか見えませんよ」
「・・・・・・どういうことだ骸」
傍迷惑で変態な男だが、その幻術と戦闘能力は守護者の中でも一、二を争う。
もしや骸にしかわからないことでもあるのかとリボーンは尋ねた。
しかしそれに骸は肩を竦め、抱き上げた仔犬を愛おしげに撫でただけだった。
「犬を中心に顔を寄せ合ってるなんて僕にはてんで理解できないというだけです。
ですが貴方達の趣味に口を出す気はありませんしね」
「てめえ、さっきから十代目を犬だ犬だって、侮辱してんのか・・・・?」
いい加減にしないとただじゃおかないと殺気を出し始めた嵐に、仔犬の喉元を撫でてやっていた骸はスッと眼を流しやる。
そこには酷く蔑んだ含みがあった。

「侮辱してるのは貴方でしょう、獄寺隼人」
「・・・なんだと?」
「やれやれ、本当の主人が誰かもわからないなんて。
幾ら貴方の姿形が変わったとはいえこんなに役に立たぬのなら、守護者総入れ替えでもした方がいいんじゃありませんか、ボンゴレ?」
抱っこしているツナの耳筋を撫でながら尋ねる骸に、嫌がりながらも夢心地だったツナははっとしてワンと吼える。

「クフフそれしにしてもこんな可愛らしい姿になるなんてどうしたんですか?」
「ウウウーッ(撫でるなってーッ)」
ねちっこく撫で回す骸にツナが唸るのを、三人は似たような瞳で眺める。

(((コイツ、もう駄目だな)))

しかし、新しい霧の守護者でも捜すかと誰かが切り出す前に、一同は理解せずにはいられなくなる。
それは構いすぎた骸に、いい加減にしろとキレたツナが咬みついた時だった。



「嘘、だろ・・・」
「・・・・・・気のせいじゃなければ、見慣れた色だね」







仔犬の額からゆらリと立ち昇るは死ぬ気の炎。

うっすら色付くものが示すは、大空の証・アランチャート。







霧の守護者はふざけているわけでもとうとう気が触れたわけでもなかったのだ。











「・・・・・・・・・・・・マジか」

元家庭教師の茫然とした呟きが、室内に響いた。


























あきゅろす。
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