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(・・・ん?)

もぞもぞ布団に潜り込んでくる感触に、ああ昨日仔犬を拾ったんだっけなと思い出す。
里親を捜すまでと決めていたから情が移らないようにと思っていたが犬と呼ぶのも味気ないので結局付けてしまった名前はワン太。
うんセンスも欠片もないことはよくわかっているので突っ込まないで欲しい。

起こそうとでもしているのがペロペロと頬を舐める感触に、くすぐったくて思わず笑う。
「クウン」

・・・・・・・・・・・・・・・・んん?

妙に近すぎる泣き声にパチリと眼を開く。
横にいるにしても近過ぎやしないだろうかこの声は。
そこでもぞもぞと布団の中で動いているらしい生き物を見てギョッとする。
(デカッ!?)

何だこのデカさは!?
もしかしなくてもワン太だと思っていたのは気のせいで、今横にいるのは人間か!?
寝起きでぼんやりとしていた眼に途端火が燈る。
全く毎度毎度毎度何度やれば気が済むんだ俺は男で好きなのは京子ちゃんだってどんだけ言えば納得するんだ!?
横にいるのが豊満な美女とか恥らってる美少女なんて幻想は十代の夏に置いてきた俺は悲しいかな夜這いすんのは野郎(しかも特定の守護者やどっかの白いボス)とばかりに決め付けていたので今日は一体誰なんだコンチキショーとばかりに布団を捲ろうとしてから気がついた。

布団が掴めない。

何でだと思って見れば手が手じゃなかった。
いや手は手なのだがそれは前脚というのに相応しくしいて言えば肉球が付いていた。
属性で言えば犬だ。
「・・・・・・・・・・・」

ヤダなぁははは俺ってば寝ぼけてこの間のちょっとした宴会開いてノリで貰った着ぐるみ着て寝ちゃったのかな馬鹿だなああはははははは


(ってアレは猫だーーーーーーー!!!)


実際はどっちでもいいようなことに突っ込んでから頭を抱えて何もかもなかったことにしたかったが、そんなこと出来る体じゃなかった。
なんせ今自分は人間とは程遠い姿形をしていたのだから。
































【 レッツエンジョイ・ドッグライフ? 1 】 





























まあ言ってしまえば小説とかの話じゃよくあるものだ。
へーまあ中々面白いねと一回読んで閉じてしまうようなそんな話。
でも正直自分の身の上に降りかかってくると全然笑えなかった。

(落ち着け落ち着け俺何があった何やった・・・・?!)

必死に考えるが全然思考が纏らない。
考えてしまうのはああ今なんか庭園を駆け回ってついでに噴水に飛び込んで泳いでみたらすっごい楽しいだろうなとか昨日獄寺君がジャーキー買って来てくれたついでにボールも密かに買って来てくれてたから後で投げてくれるようねだってみようかなとかって
(全部犬の思考回路じゃねーかあああああああ!!!)

ああもう毒されてきてるどうしよう毛づくろいしたい。

・・・・・・・犬な自分に心で泣きながら(ついでに毛づくろいしながら)考えるが全くもってわからない。
っていうか何をどうやったらこうなるっていうんだ。
もうどうすべ犬の頭じゃ何も考えられんとよとキュウキュウ鳴いているとコンコンと部屋をノックする音が響いた。
こんな面倒な時にっていうか俺も混乱してまだ状況完璧に飲み込めてないときになんてバットタイミングな!
「十代目、お目覚めですか?」

うわあいしかもよりによって獄寺君とかそりゃないわー。
返事がなかったことに俺がまだ寝てるかとおもったのか入室して来た青年に一人あわあわとうろたえる。
布団を捲られたら終わりだどうしよう!

(いや、まてよ・・・?)
そこでふと俺は正気に返った。
俺が一人(一匹だとは絶対に認めない)でここで悩んでたって何も変わらないだから一緒に考えてもらえばいいんだ。
確か獄寺君て相当頭良かった筈だし!
その為にはなんとかワン太な姿でも俺だってわかってもらわなければいけないと、俺は勢いよく布団から飛び出た。
「わん!」





人間の姿で。





(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いやなんで?)
俺まだ布団から顔出しただけよ?俺此処にいるよ?なのに何で自分の背中を見送ってんの?
あれそれとも犬になったってのは俺の勘違いで幽体離脱だったのか?そっちの方がまだ現実的だけど。

でもやっぱり見下ろしてみてもそれは仔犬といえども立派な犬の身体だった。
んんおかしいな?もう一度冷静に考えてみようか。
俺は今理由はわからないけどもワン太の身体に入って(?)る。
そこまでは確実としよう。
じゃあ俺の魂がワン太の身体に入ったんならワン太の魂は何処にいったんだろう。
お約束的な流れでいけば人間の俺の身体に入ってる筈だよな。

確認するように見やれば丁度俺の身体が勢い良く獄寺君に抱きつくところだった(幻覚だと信じたいなんだあの満面の笑みは)

それで俺はやっと納得がいった。
あ、そうか。てことは今布団から飛びだしてったのは俺の身体に入ったワン太ってことだよな、なーるほどーーー・・・・




(って、あれワン太ああああ!!?)




「じゅ、十代目!?」
突然飛び出てきて抱きついたワン太(俺の身体)に獄寺君は一瞬吃驚したあと真っ赤になりながらも体を離し、「一体どうしたんですか?」と言った後何故か石化した。
どうしたんだろうと思ったが、ワン太の格好を見て納得がいった。
ああそっかワン太が俺になったんだとしたら元は何も着てないわけだから当然だよなって

(何もよくねえええええ早く服着ろ俺ぇっ!!いやワン太!いや俺!?)

ああもうどっちでもいいし獄寺君でもいいから誰かそこの可哀想なまっぱな中年のおっさんに服を着せてあげてください!!
切実な俺の願い空しく獄寺君は石化して突っ立ってるだけだし俺もといワン太は笑顔でべろべろと獄寺君を舐めてるだけだしってやめろおおおおお!!!
あんまりなシュールな光景に俺は思わずベットから飛び降りた。
わあ身体軽ぅいとかそんなん今はいいし!




「ワンワン!(獄寺君獄寺君!)」
中身が俺だって気付いてくれるのは無理でも必死に正気に戻そうと呼びかけた。
いやその前に俺の身体の奇行をどうにかせねばの方が先か。

「・・・・・・・・」

ん?獄寺君何か言ってる?
意識が戻ったのかと足元に駆け寄ると、人間の身体だった時よりよく聞こえるようになった耳が獄寺君の呟きを拾った。







「・・・・・・・・・・しびーっす、十代目」







やっぱ役に立たねえええええええ!!!






















思わず噛み付いちゃったのは仕方ないことだったのだと、俺の気持ちを慮ってどうかわかって欲しいと思う。




あーもう俺のドックライフやいかに!?




























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