大空に焦がれる

ドン・ボンゴレの命を狙う者がいる。
それを誘き寄せる為に下っ端の部下を囮に使う。

そう発言したことにより、それは始まった。


















「ザンザスお前はどうしていつもそうなんだ!
それじゃ部下ばっかり一番辛い思いをすることになるだろ!?」
「カス共も崇拝するお前の為なら喜んで身を投げるだろう。
その程度は役に立って貰わねーとな」
「お前、それ本気で言ってるのか!?」
「じゃなきゃ口にするか。
甘えたことばっかり言ってるカスと一緒にするんじゃねえ」
「・・・・・・・・ッ!」
キッと睨む青年の瞳が炎を宿したような色に輝く。
それに主が眼を微かに細めたことに気付いたスクアーロは、顔を引き攣らせた。

(コイツ、業と怒らせてねーかぁ?)
確か以前もくだらないことで怒らせて、うっとりと(この比喩をコイツに使うのは気色悪いが)青年を見つめていた。
今回は間違っていないのでまだいいが、青年が怒ることを見越していたに違いない。
もう少し言い方を考えれば、この青年―沢田綱吉も考えたかもしれないのに。


「絶対にお前の言った通りになんてしないからな!」
「カスが。
誰がてめーの意見なんて聞くか」
つまりは勝手にやらせてもらうと言った男にツナはもう何も言わずに部屋を後にした。






怒りも顕に閉められたドアにスクアーロは嘆息する。
大抵はツナが言っていることが正しいが、今回ばかりは自分の直属上司のこの男、ザンザスの言うことの方が理に適っている。

だからこそ余計に頑なになるような怒らせ方をしてはいけなかったのに。

「じゃあカス、綱吉を説得してこい」
「はああああ!?」
一体如何するつもりなのかと聞こうとした所で言われたことに眼を剥く。
今までの一部始終を見せておいていう台詞じゃない。

「見たろう?俺がいくら説得しても聞かなかった。
だからお前が如何にかして来い」
「さっきの何処が説得だぁ!?
テメーの場合は業と怒らせてただけじゃ、ガフ!?」
「いいから行きやがれカスが」

狸の置物で地面に這いつくばされたスクアーロに、拒否権はなかった。

































【 大空に焦がれる 】






































イタリアマフィア最大最強と謳われるボンゴレファミリー。
それを現在率いているドン・ボンゴレ]代目は、歴代の中でも人望、実力共に最高とされている。

しかし、そのドン・ボンゴレがまだ20代の若者であることはあまり知られておらず、
ましてやボンゴレ独立暗殺部隊頂点に君臨する男がその青年に懸想していることなど、誰も知らなかった。




・・・・・・・・一部の不幸な部下を除いて。


















その代表とも言える男S・スクアーロは、呻いた。
あの馬鹿が怒らせた直ぐ後にツナを説得してくる?
「無理に決まってんだろぉ・・・」


ただでさえ部下想いのツナだ。
自分の命が掛かっていようと部下を危険に晒す位なら喜んで自分が的になるだろう。
そういうところは嫌いではない、と今ならば言えるが、気分は良くなかった。

初めはザンザスに対する腹立ちが優先していたスクアーロだが、暫く後には真面目にツナを捜すことに決めていた。

作戦決行は明日。
時間がそれ程残っているわけではないのだ。









20分後、ツナを見つけたスクアーロは苦笑せずにはいられなかった。
其処はいつかもザンザスとツナ二人が喧嘩をした後、いた所。

「よッ」
枝に手をかけ軽々と登る。
軽いとは言えない自分が体重をかけても折れない丈夫な巨木。
その寝るには丁度いい高さと広さのところで寝ているツナの隣へそっと腰を下ろす。

夕日に当たっている所為もあるが赤い頬にあった痕跡。
やや腫れた瞼。

泣き疲れて、いつの間にか寝たのだろう。






顔も良く知らない誰かの為に疲れるまで泣ける程優しい青年。
上司の愛する存在で、・・・・自分の想い人。







「スクアーロ?」
その声に、自分の心の声でも聞こえたのかと心臓が一つ跳ねる。

「・・・起きてたのかぁ?」
「ん、さっき。登ってくる振動で」
「そりゃ悪ぃことしたな」
「エスケープしてたのは俺だし」
別にいーよと、もぞもぞと起き上がり猫のように眼を擦るこの青年が、マフィアのトップだとは誰も思わないだろう。

「ザンザスに言われて来たの?」
「・・・・・・・・まぁな」
しかしなんでわかったのかと聞くのも馬鹿馬鹿しいこの鋭さ、超直感はボンゴレの血筋そのもの。
アイツが欲しくて堪らなかったもの。

そんなツナに遠まわしに言っても仕方ないので単刀直入に言う。
本人もそれはわかっているだろう。
「今回の話は黙って飲め」
「嫌だ」

一秒も待たない即答。
これは完璧に凝り固まっているようだ。
此処にはいないザンザスに改めて恨み言を言ってやりたくなる。
それはこの顔を背けている青年も同じで。

しかし口から出たのは全く違う言葉だった。







「お前は、残酷だなぁ・・・」







「え?」
まさかそう返されるとは思っていなかったのか。
ツナは驚いたようにこちらを見る。
自分が本音を言っていることが分かっている為か些か傷付いたようにも見える。
それに胸が苦しくなったが、今は自分のことなどどうでもよかった。

「綱吉がどんだけ部下や仲間の為を想って行動してるか。
少しはわかってる、つもりだぁ」
昔は理解できなかったけどなぁとスクアーロは笑った。



初めは何て反吐が出るほど甘い餓鬼だと思っていた。
苦しみを抱きながら死にもの狂いだったザンザスを押しのけ、頂点に立った男の癖に。何を言っているのかと。
正直、八つ裂きにしたくなった。
それは当人のザンザスと周りがが許さず、キレそうになる度、スクアーロは渋々と口を閉じたのだが。

だがいつかはマフィアという現実を知り、変わっていくのだろうと思っていた。
誰もと同じように。
そう、高をくくっていた。


「だが、お前は変わらなかった」


寧ろ、自分が傷付き血塗れになる度に更に優しく、強くなっていった。
もっと仲間を守れるようにと。

それは自分や周りに衝撃を齎すと同時に、心を捉える一因となった。

ザンザスは誰もが認める実力とカリスマ性、怒りというもので全てを呑み込み束縛する暗黒の大空。
あらゆるものを支配せんと驀進していた。
その魅力支配された者、自分達は畏怖の念を抱きながらも彼の施しを乞い、付き従った。



一方ツナは、誰一人失わない為に強くなった。
ただそれだけだった。



ザンザスと比べ何と乏しく脆弱なことかと嘲笑しようとした。
しかし、出来なかった。




・・・その精神は全てを包む大空に、最も相応しかったのだと、わかっていたから。












それは今となっては恐ろしいことなのだと気付いた。

ツナは仲間を守る為ならば身を危険に晒すことを全く厭わない。
そうする程の実力と自信もあるからだろう。

部下もそんなボスとしてのツナを一目見れば恋をしたように慕い、忠誠を誓った。
でも、ツナを昔から慕ってきた者達は違った。

ツナがボスとしての資質と人望を上げる度に、誇らしくあると同時に、傷が増えていくのを見ていられたかった。

平気だと笑って、理解してくれないことが。
苦しかった。


何もわかっていない部下。
嫌われることを恐れ、何も言えない幹部達。
自分を見てもらうことしか考えていないアルコバレーノ。


「誰も何も言わねーなら、俺が言ってやる。
お前は残酷だ」

視線を逸らさず、ずっと言わなければと思っていた言葉を続ける。

「お前はファミリーを傷付かせたくないと言う癖に、
俺達が綱吉が傷付くのを見て平気だと。思ってるのかぁ?」
「それ、は・・・」
自分でも薄々、否。
聡いこの青年ならとっくにわかっていたんだろう問いに。

ツナは戸惑ったように視線を下げる。

「逃げるなぁ、聞け」
「!」
両頬を挟み、ぐっと顔を近づかせる。



「顔も知らねぇ、一度しか顔を合わせたことの無い奴の為に泣くお前の気持は俺にはわからねぇ。
だが、お前の気持ちを汲みたいとも思うのも本当だ」
「・・・・・・・・・・・」

直向きに話すスクアーロに、ツナの琥珀が揺れる。

「俺が。俺達が必ず守る。
だから珠には、俺達のことも考えてくれ」
「スク、」
「それだけだぁ」


今回の作戦を呑んでくれたら。嬉しいと言い立ち上がり、飛び降りる。


「スクアーロ!
俺は、その、それでも俺は!」
「俺達の王はお前だぁ」

泣きそうな声を上げるツナを笑って見上げる。

「お前がどんな決断をしても俺達はお前に従う。
それが喜びだからな」
「スクアーロ・・・」





背を向けた剣士の背中を、ツナは続きを言えないまま見送った。





















「臭ぇカスが」
「う゛お゛!?」

柱に寄りかかるザンザスに、スクアーロは飛び上がる。
今までのことを見られていたのかと思うと自然顔に血が集まった。
「い、何時からいやがった!?」
「アイツがベソベソ泣いてた時からだ」
「・・・・・・・・つまりは俺が行く前からってことじゃねーかぁ」

だったらお前が行けば良かったじゃねーか!と睨むと、そんなこともわかんねぇのかと鼻で笑ったザンザスは衣を翻し自分が歩いて来た道のりを辿り始める。

「恋人を慰めるのは傷付いている時が一番だってのは、昔から決まってるだろうが」
「・・・・・ッこの性格破綻者が!」



一体いつからあんな風に笑うようになったのやら。
それがツナの影響だとは、言うまでもなかった。

それ位ずっと近くにいたアイツと、少し離れたところから眺めているだけだった自分。
勝敗は明白だった。
(でも、)




傍で守ること位、許されると思いたい。
二人がいるところを視界に入れない内に、その場を去った。



































翌日。
作戦は実行された。








「なんっでお前もいるんだぁ!?」




ドン・ボンゴレがいるという予定外の点を除いて。




それじゃ意味ねーだろうと叫ぶスクアーロにツナはケロッと答える。

「だってスクアーロが俺の思うようにしろって、言ってくれたんじゃん」
「そ、それは」
「それにちゃんともう一人囮用意したんだから」
「だからコイツじゃ意味ねーだろうがぁ!!」
「黙れカス」
「ぐはぁ!?」
容赦なくスクアーロを蹴り飛ばし、何蹴ってんだよ!?というツナを宥めるように抱きしめザンザスはフンと不敵な笑みを浮かべる。

「綱吉は俺が守れば済むことだ。
それもわかんねーとは相変わらずお頭の軽いカスだな」
「・・・・・・・・・・話が最初と違ってんじゃねーかぁーーーーッ!!」






結局自分がツナの傍にいられないことに不満を覚えただけだったザンザスに、スクアーロはふざけんなと雄叫びを上げるのだが、直ぐに煩いと股蹴り飛ばされるのだった。








<...fine?>

































あれ?なんか目茶目茶スクツナ感の方が溢れてね?っていうのはきっと気のせいです。
設定的にはザンザスとツナは相思相愛のラブラブなんだから良(殴





・・・・・えー、一応ザンツナ溢れる続きを書いているのでお許し下さい。




じゃー取り合えずザンザスさんおめでとうございました〜






2008.10.10


あきゅろす。
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