僕の兄を紹介する気はありません




僕には兄が1人いる。



自分と同じで癖ッ毛だけども柔らかいので髪質は似てない。
細いのは同じだけれども自分よりもちょっと背が小さくて、華奢だ。
瞳なんて全く似てなくて、とても綺麗な飴色。見慣れている筈なのに時々僕も見惚れてしまう。

ふとした時に向けてくれる笑顔なんて、クラクラする程の威力がある。





まあ、つまりは物凄く可愛いのだ。










・・・・・・・・・・・・お陰でそれに凄く僕は苦労している。







































































「いないって言ってるでしょう、しつこいですよ白蘭さん!!」
「えーだって昨日はバイトでいないって言ってたし、一昨日はサークル活動で出掛けてるっていってたじゃない」
「どうでもいいような適当についた嘘は覚えてるんですねもう!」
「あれ嘘なの!?」


今日も今日とて入江正一は兄を紹介しろと煩い輩の1人であり先輩でもある白蘭を忌々しげに睨んだ。


「だってさー正ちゃんに似てとっても可愛い子なんでしょ?会わせてよー」
「い・や・です!白蘭さんに会っただけで妊娠します」
「しないよ!?僕なに!?」
「さあ知りませんよ日頃の行い振り返ったらどうですか」

連日連夜会わせろ会わせろというのにいい加減堪忍袋の尾が切れかかっていた正一は据わった眼ではっと鼻を鳴らした。
「正ちゃんいつもとキャラ違う〜・・・」
「ほら、白蘭がしつこいから正一が気を害してしまったじゃないですか」
「って何で君もいるのユニ」
「貴方の家に綱吉様がいるからです」
「理由になってないよねそれ・・・・」

いつだったか兄が連れ帰った少女。
それが足に怪我をしたため蹲っていた同じクラスのユニだった。
因みに僕が通っているのは大学。
つまり彼女は飛び級で大学に通っている所謂天才少女だ。

「お礼をまだちゃんと言っていません」
「それならもう十分貰ったって」
いつか見たようなトランクに大量の札束。
勿論兄と二人で仰天して直ぐに返却はしたけども。
それについていた手紙はきちんと家に保管してある。

「凄い丁寧な手紙だって、兄さん喜んでたし」
「いえ、それもそうですけどまだキチンとお婿に貰うという約束をするのを私としたことが」
「いや何言ってるのユニ!?」

どうやら一目惚れしてしまったらしいことは知っていたが、まさかここまでとは思ってなかったので突っ込んでから酷く疲れた。

「どころで正ちゃんいつ家に着くの?」
「白蘭さんがいるのに馬鹿みたいに真っ直ぐ帰るわけないじゃないですか。バイトですよ」
「酷い正ちゃん!!じゃあ今まで同じようなとこグルグル歩いてたのももしかしてそうなの!?」
「今更気付いたんですか」




ギャーギャーと文句を言う白蘭は気にせずさっさと道を歩いた。
















「・・・・・・・・・・それで此処何」
「だから僕のバイト先です」
「何で!?」
「付いてくるアンタがおかしいんでしょう!?」

あんまりだと騒ぐのをバイト先に迷惑がかかるからやめろと止めていると視線を感じたので見下ろせば涙眼のユニ。
「・・・見損ないましたよ正一」
「・・・・・・・・・何で僕が悪いことしたみたいになってるんだいユニ?」

大体君家知ってるんだから行くなら行っておいでよというのに、夜半に殿方を訪ねるなどそんなはしたないことは1人の女として出来ないという。
まだ時刻は夕方だし何でそういう慎みは持ってるのに想い人の弟のバイト先まで押しかけることは平気なのか。

基準がわからない彼等を何とか宥め、なけなしのお金で店の商品を奢ってあげるからと言うと、

「僕ホットケーキとアップルパイとギガマックとナゲットとポテトとバニラシェイクね。あ、全部Lサイズで。ポテトはシャカシャカするのがいいなー」
「ストロベリーのシェイクがいいです」
「・・・・・・・・わかりましたから、座って待ってて下さい」

ピタリと止まった非難の声にげんなりした。
普段高級なものしか食べない癖になんでそんな俗っぽいものしってるんだ・・・。
白蘭さんにはSサイズのハンバーガーとポテトだけ買ってあげた。
薄給の学生に金持ちが集るな。











食べ終わって手持ちぶさなのか、暇気に足をブラブラさせたり辺りを物珍しげに眺めている二人をちらちら見やる。
何かやらかさないか心配だった。
うう、お腹痛い・・・。

「正一、そんなに辛いなら帰れ。後はウチに任せろ」
「・・・いや、気持ちだけ貰っとくよスパナ」
いらっしゃいませと言いながらもお腹を押さえているとかかった声に平気だと応える。
振り返らなくてもわかる友人は、結構適当だから任せられない。

「平気だ。γもいるし心配するな」
「ふざけるなよてめえ」
手馴れたようにポテトの油を手早く網で切って塩を振ってから苛立たしげに此方を睨んだ人に嘆息する。
まるでベテランのように手早く袋に商品を詰めているのはお嬢様であるユニの護衛のγ。
いつもそこまで近くではないが、ユニを見守っている人だ。

気の良い兄貴分といったカンジで、通常は数少ない周りの常識人の1人として頼りになるのだが。
「おい入江、お前いつまで姫を連れまわす気だ」
「・・・・・・別に僕は付いて来てなんて言ってないよ」


ユニが係わるともう駄目だ。ただのシスコンみたいになる。
突如としてバイト仲間の1人の作業着を分捕り、着こなしてやってきたのを見た時も何も言わずに大体の作業を軽く説明した自分に、僕も慣れたもんだなぁと思った。






後少しで上がりの時間だなと思ったところで注文いいですかと声をかけられギョッとした。
それにその人は悪戯っぽく笑う。
「やっほ〜正一、バイト頑張ってる?」
「綱吉兄さん!?」


ひらと手を振った兄に、正一は慌てて自分の口を押さえた。
白蘭達の耳に届いたら元も子もない。
やや声を潜める。
「どうして・・・・!!」
「ん、なんか最近正一と話せてないなーと。お兄さんとしては寂しくてさ」
「・・・・・・・・・・・」

荒んでいた心が少し和らいだ。
恥ずかしそうに笑うのに嬉しいと思ってしまう。
確かに近頃は、白蘭達を追い払ったりするのにかまけてばかりで碌に話せてなかった気がする。
「もう少しであがりだよね?良かったら一緒に帰ろう?」

にこと笑う大好きな兄の笑顔に泣きそうになる。
ああもう何で何でこんなこと言わないといけないんだ!!

「それは、その嬉しいんですけど・・・・・・・」
「あ、他に友達いるのか」
「・・・・・・・・・・・はい」


決してそんないいものじゃないが、ユニはいいとしてもあれと会わすわけにもいかない。
綱吉兄さんと帰れるチャンスを蹴ってよりによって白蘭さんなんかと・・・・・・・・・!!




断腸の思いで苦渋の決断をしようとした時、





「ねえ正ちゃんそろそろ終わり〜?って、あれお友だ」





近寄ってきた白蘭を取り合えずカウンター越しに殴り飛ばした正一は、迷わず作業着を脱ぎ去り地面に転がった白蘭に投げつけた。
「しょ、正一!?お前何やって!」
「殆ど赤の他人ですが微妙に知り合いなので大丈夫です」
「いやそれ大丈夫じゃなくない!?」

しきりに心配する兄の手をとり振り返り、ちょっと吃驚しているスパナに言う。
「すまないスパナ、やっぱり今日早めにあがってもいいかな」
「ん、」

頷いて飴を取り出したのに、仕事中に舐めるなという小言も今日はしなくていいかと思って行こうとして、呼び止められ言われたことに笑って頷いた。


「正一、今度ちゃんと紹介してよね」







大切な親友になら、勿論自分の自慢の兄を紹介したいと思ったから。
































「約束通り来たぞ正一」
「・・・・・・・・・・・」




翌日。
なんか付いて来たと悪気なく言った友人が引き連れてやってきた面々に、思わず正一は叫んだ。



















「僕の兄を紹介する気はありません!!」














だから帰ってくれと言って素直に帰ってくれるものなど1人もいないとわかっていても、言わずにはいられなかった。








<...fine?>

































元拍手ですねwww
これツナがお姉ちゃんでも面白かったかなーと思ったり。
そしたらリボが洩れなく憑いてくる気がした(笑)

2009.8.17


あきゅろす。
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