刹那の連鎖
(申し訳ございません、沢田殿)
バジルは眼をそっと閉じ、一人の少年を想った。
自嘲とも、清清しいともいえる笑顔を零して。
「拙者は、貴方をお慕いしてしまいました・・・」
此処にはもういられない苦しみを誤魔化す為に。
今まで、予兆がない訳ではなかった。
しかしそれはツナから離れなければならないことを意味していたので、気付かないフリを。
自分を謀ることにより、騙し騙しやってきた。
「それも、限界。か・・・」
気付いてしまったら、それはもう止めることなどできない。
後から後から止め処なく溢れてくるもの。
それは甘く、切なく、苦しく。
時に狂おしい程の気持ちにさせるどうしようもないもの。
「・・・さようなら、沢田殿」
ただ一人愛した人。
バジルは最後にスヤスヤと眠るあどけない寝顔に一つ微笑み、最愛の義弟に別れを告げた。
【 刹那の連鎖 】
彼の存在を知ったのは、物心ついた時だった。
「弟君、ですか…?」
「そうだ」
心から尊敬し忠誠を堅く誓った人が頷いたことにどう答えていいのかわからず、バジルは戸惑った。
「ですが拙者に、わ!?」
「なーんだ酷いなバジル。俺がいるだろ〜?」
血縁者はいないと言いかけたバジルに、それを遮るようにして家光はうりゃうりゃと頭を撫ぜてからカラリと笑った。
「お前は俺の自慢の息子バジル、だろ?
つまりはこのツッ君はお前の弟になるってわけだ」
「親方、様」
「これが俺の可愛い息子でお前の弟だぞ〜」
「・・・・・・・・このお方が、」
家光がだらしなく笑み崩れ、懐から出して渡した写真に。
その、時を止めた無邪気な笑顔に。
バジルは心を奪われた。
だがその感情が何かなどはわからないまま、出会い。
供に過ごして、育ってきた。
その星が瞬く程の。一瞬の幸せな時。
それは本当にキラキラしていて。
壊したくないから、決意した。
(嫌われてしまう前に逃げるなど、卑怯だと。貴方は言いますか?)
「沢田殿・・・、」
結局、この年になっても言えなかったセカンドネーム。
家族皆沢田なのにと笑う貴方の瞳が寂しそうだったことを知っていた。
でもそれが枷にもなって、手を握り込むことで。
その痛みで自分を抑えて笑うことがどれだけあっただろうか。
「いつのまにか、真っ直ぐ貴方を見ることも出来なくなっていたんです」
こんな汚らわしい想いなど消えてしまえばいいのに。
そうすれば、もっと。
ずっと貴方の傍にいられたかもしれないのに。
いつのまにか足が止まっていたので、何気なく満天の空を見上げる。
それに呼応するかのように流れる星。
あの子のような、綺麗な光に。
バジルは瞬きもせずに見惚れた。
眼の端から流れるものに、星がぐにゃりと歪んでも。
見納めだとばかりに逸らしもしなかった。
2009.7.24
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