春の終わりと初夏の告白




―― 俺、好きな人できたんだ

―― ・・・ふぅん






返ってきたのはそれだけだった。



やっぱりなぁ。
そう思った自分もお相子かもしれないけど。


















そんな二週間も前のことを未練たらしくつらつらと思い返していると、チャイムが鳴った。
ぶっちゃけ面倒臭かったのだが。




「・・・・・・・生きてる?」




その扉越しのくぐもった声に、あの時みたいに胸が音を立てた。





































































『そういやツナ、スパナと別れたんだって?』
「・・・・・・・・いや、付き合ってないしそもそも俺もスパナも男だよね?」



どうして皆同じことを聞くのか。
此処最近繰り返し尋ねられる言葉にげんなりして何度目かわからない同じ回答を返した。







幼馴染であり、常にクラスの人気者であり、総来有望な野球選手の友人からの電話を切ったあと嘆息した。
疲れていた。

体を湿気た布団に投げ出しゴロゴロと意味も無く転がり、埃が舞うので動きを止める。
そろそろ大学に行かねば出席日数が危ないだろう。
わかっているのだが、億劫だった。








いい加減にしてくれないかというのが正直な感情だった。
俺だって人間だ。

怒ることもあるんだ。



でも人より怒りの沸点が相当高いらしく、というか面倒な気持ちが勝って大抵怒りなんて表すこともなく終る。

俺は怠惰だ。
自覚してる。

だから正直人と話すことも面倒で、1人でぼうっとしてることの方が好きだったりした。
誰かといると気を使ってしまうので疲れるから。


駄目人間だなぁと思う。自分だって。
昔のあだ名が自分には本当にピッタリだったのだろう。





そんな自分にうんざりして、でも人と話したくなくて屋上で1人ぼんやりと寝転んでいたある日。


「あ、」
小さく呟かれた声に眼を開ければ、何かの塊が空から降ってきた。
顔面に向かって。


それが機械の類だとわかってからいや流石に死ぬって!と死ぬ気で避けた。




今までの人生の中で最も俊敏に動いただろうことによりバクバクと鳴っている心臓を押さえながら、殺されそうになったモノ(ロボット?)を落としてきた奴を睨もうとして上を見上げる。
そして此方を見下ろす猫のような無気力な眼とぶち当たった。
「アンタ、動き早いな」
「・・・・・・・・・」

そして来ると思っていた謝罪の言葉でなく、心底感心しているという声に何だか脱力した。
・・・・・・・なんかもう、いいや。疲れた。








それがスパナと初めて出会った時だった。























それから何故か俺に興味を持ったらしいスパナと、俺は一緒にいることが多くなった。
一緒にいるといっても、俺が1人でいると何処からともなくスパナが猫のようにふらりとやってくるというだけのものだったが。

スパナはあまり話さない。
なのでどちらかといえば聞き側の俺といると、自然会話は特になかった。
ふとした時に何でもないことをポツポツと話す程度。

「スパナって季節で一番何が好き?」
「春か秋。夏は体がベトベトするしPCがショートしやすい」
なんつー予想通りな回答か。
スパナらしいなと苦笑しているとアンタは?と聞き返される
「俺?んーまあ全般嫌いも好きもないけど。
夏かなぁ?」
「ふーん、似合わないな」
「・・・うるさいな、わかってるよ」
そんな爽やかなイメージが似合うのは幼馴染だけだろう。
でもちょっと面白くなくてもう空のパックをベコベコと鳴らしていると、ばふりと大きな手が頭に乗せられた。

「冗談だ。アンタは綺麗な青空が似合う」
「・・・よく言うよ、似合わないのはお互い様だろ?」
「否定はしない」



スパナが真顔で頷いたことに笑った。
少し照れ隠しもあった。



どんなくだらないことでもこんな時が楽しかった。
スパナといるその空気が心地が良かったのだ。







この頃やっと俺はスパナの傍にいることが好きらしいことに気付いた。

だから離れようかなと思った。
特に俺は何かを期待した訳でもないし、このままでいられるならそれで良かったのだが。












「・・・・・・・・・疲れた」
「スパナ?お前その顔どうしたんだよ」

ふらといつものようにやってきたスパナが、こさえて来た大きな隈に驚いた。
此処最近姿を見ないと思っていたら、どうやらラボに篭っていたらしい。
そして覚束ない足取りで、フェンスに寄りかかって牛乳を飲んでいる俺の傍まで来ると、

「・・・もう、限界」
「は?って、ちょ、うわ!」
ばたりと倒れこんできたかと思うと、スパナは爆睡を始めた。
俺の腹を枕にして。

「いやお前自分のベットで寝ろよ・・・」

どんなに大きな声を出しても揺さぶっても駄目らしく、暫くしてから俺は諦めた。
此処まで疲れているスパナを見たのは初めてだったのもある。
起こすのは気がひけた。




でも、


「・・・・・・・・・重いんだよ、スパナの馬鹿」




おまけに熱苦しいし。
春ならまだしももう初夏なんだぞ?




こっちの気も知らないで静かに寝息を立てているスパナが憎たらしくなった。
泣きそうだった。

自覚なんてしたくなかったのに。
















その日、この心臓の音でスパナが起きてしまえばいいのにと何度思ったかしれない。












































久しぶりに見るスパナに、動揺を悟られないようにへら笑った。
一緒にいた頃みたいに。

「どうしたんだよスパナ?」
「ウチ、アンタに言いたいことがある」
「・・・・・・・・・何?」


心臓が一つ、期待するように波打つのを叱咤した。


「ウチも、好きな人がいるんだ」
これから告白しようと思ってるというスパナに、周りの音が少しずつ聞こえなくなっていく。


そんなこと無いとわかっていたのに。
馬鹿だなぁ。

自分から突き放した癖に。


悟られない内にドアを閉じてしまいたかったから、ただ祝福するように笑った。
「そっか。じゃあ早く言いに行きなよ」
「ん、・・・じゃあ、」





次に紡がれるだろうさいならという言葉を聞きたくなくて。
何の感慨もなく向けられるだろうひょろりとした背中を見たくなくて。

眼を閉じて。
















「アンタが好きだ。
ウチと一緒にずっといて下さい」


















だからその言葉が上手く理解できなかった。

気付いたら朝で、スパナがいつかの日のように俺の腹を枕にして寝ていた。

































「この間のさ、好きな人ができたって。ホントは嘘なんだ」

ある日の帰り道。
二人で手を繋いてブラブラと歩きながら言ってみる。

それにスパナは前を見たまま、こっくりと頷いた。






「ん、知ってる」





























初夏を想わせるような爽やかな笑顔なんて、お前には似合わないと思いたかった。
・・・ただ不意打ちを喰らって悔しかったからだけど。









<fine>



































スパツナと同じ位大好きなクラへ相互感謝な贈りものです!

2009.6.15


あきゅろす。
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