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「俺はツナヨシを見ないと創作意欲が湧かない」
「はぁ・・・」
「だから今まで原稿が進まなかった」
「えっと、ですね。先生、」
「だからツナヨシ、俺と一緒に暮らしてくれ」
「いや、あのその結論おかしくないですか?大体、」



茫洋とした眼差しだが、確かに真摯で直向きなものを向けられ手を握られていたツナは、返答に窮しながらも呻いた。








「俺、貴方の担当じゃないんですけど・・・」
「気にするな」
「気にしますから」


































【 締め切りウォーズ 】
































自分は何故か数多くの作家の担当をしている。
それぞれ溢れる程才能を持っているのに個性も溢れ過ぎる人達な為、他の担当を当てられずに自分にお鉢が回ってきただけなのだが。

まあそれは今はいいとして。
これからまたトンボ帰りで出なければならないのに。
(動けないんだけど・・・)



答えあぐねている自分に、相手は感情が薄い瞳を曇らせる。
綺麗な顔立ちをしている人なのでうっと詰まった。

「・・・駄目か?」
「そんな仔犬みないな眼されてもですね、」
「俺はお前をこんなに愛しているのに」


そういう問題ではないことは確かなのと、時間が本当に差し迫ってきたことにツナは焦る。
「だから、俺貴方の担当じゃないですしっ、って、ちょっと聞いてます先生!?」
「大丈夫だ、俺には今担当はいないからな」
「いやいやいや何も大丈夫じゃないですし俺はもう既に有り得ない先生方一杯抱えてるんでもう俺のキャパ定員オーバーですから!」

その中の一人である切れ長の眼の人との約束までギリギリなことにツナは頼むから行かせてくれと懇願する。
「てかそもそも先生には俺なんかよりもちゃんとした、」




そこで、玄関が乱暴気味に開かれる音と怒声が響いた。




「プリィモォォオオオオオ!!」
青筋を浮かべてドアを開けて飛び込んできたU世の姿に、ツナは心底安心したようにほっとし、ツナの手を握っていたジョットは不快そうに眉を顰めた。
それにU世が近づきジョットの手をツナから引き剥がした。
「原稿もあげずにツナヨシの家に入り浸るのはやめろと何度言ったらわかる!?」
「いつもより来るのが早いぞU世、邪魔だ」
「邪魔なのはどう考えても貴様だろうが・・・ッ!」

胸倉を掴み上げそうな勢いのU世に、ツナは慌てて支度をしながら声をかける。
「おじさんいらっしゃい!来て早々悪いんだけど後頼んでいい!?」
「勿論だ、すまなかったなツナヨシ」
ツナの言葉に、やや顔を和らげ申し訳無さそうにしたU世に軽く笑って首を振る。
この人がいれば何の心配もない。

「ううん、お茶も何も出せなくてごめんね!行って来ます!!」
「気をつけてな」
「うん、じゃあまた!」
「付いてくるなよ」
「貴様は残ってさっさと原稿をあげんか!!」
当たり前の顔をしてツナの後を付いて行こうとしていたジョットにU世が今度こそキレた。

















「すいません遅れて!!」

急き切ってチャイムを鳴らせば蒼褪めた渋い顔立ちの男、草壁がすぐさま扉を開いた。
「いえ、兎に角走っていただけますか!?」
「は、はい」


頷こうとするが、これまでも走ってきたツナには少しキツイものがあった。
元々体力の無いのをわかっているが流石に今回は宜しくない。
ツナの心情を読み取ったのか、草壁は一瞬で決断した。
「失礼します」
「うわ!?ちょ、」
「申し訳ありませんが、この方が早いと思われますので」


肩に抱え上げる要領で突然担ぎ上げられたツナは急に高くなった視界に吃驚して思わず草壁にしがみ付く。
それに何となく草壁は自分の死亡フラグを感じたが、今は走ることだけを考えることにした。














部屋に飛び込むと既にそこは修羅場だった。
累々に転がっているのはこの屋敷で何度か見かけたような使用人の方々だろう。
それに内心低身低頭しながら、鬼神のオーラが発せられている方に首を向け、
(ひいいい!!!めっちゃ怒ってるし・・・ッ!!)
見なければ良かったと後悔した。
爛々と光っている眼光に思わず草壁の服にしがみ付く。

それに雲雀の額に大きく青筋が浮んだ。
「・・・・・・・綱吉、」
「あの、すいません雲雀さん!遅れたことは謝りますので!!」
「言い訳はいらないよ」
「はいでもあのですね!」
「いいから、」


涙声のツナには構わず、ギリと雲雀は猛禽類の瞳で睨み上げた。


「どうして哲に抱えられてるのか、説明しなよ」
「・・・・・・・はい?」






鼻水まで垂れ始めた間抜けた顔の担当の後ろで、作家の使用人は諦めたように眼を閉じた。
















(今回は全治何ヶ月で済むだろうか)









2009.4.13


あきゅろす。
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