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「嫌だ」

ついでに気安く触らないでくれると言って下から来た殺気に、危ういところで一歩下がり冷やりとした男は我に返り叫ぶ。
「恭弥!お前それやめろって何度言ったら、」
「馴れ馴れしいって言ってるでしょ」

名前を呼んだことにより不機嫌度が増したのか、少年は更に間髪いれずに踏み込んでくる。
「親の俺が何で息子の名前呼んで殴られなきゃなんねーんだよ!?」

それを何とか避けながら最もであることを言えば、
「日頃そういう行いをしてんのが悪ぃんだろこの駄目親が」
「うおっ!?」

後ろから蹴りを入れられる。



「お前等なぁ!俺を何だと思ってんだっ!?」

強制的にうつ伏せにさせれた男―ディーノがプルプルと震えながら叫べば、
「「財布」」

と揃って返ってくる。






「こんの親不孝息子共がーーーーー!!!」
「「軟派親父の癖に何言って(んだ)るの」」








それが此処、キャッバローネ家の日常だった。
























【 息子二人と俺と君 】










.
















「無様だね」

そう言ってフッと笑った少年の体がふらりと傾ぐ。
それに慌ててディーノが立ち上がる。
「ほら見ろ!
無理して動き回るから」
「うる、さいよ・・・」

そう言って支えられることを拒む腕にもいつもより力を感じない。
何だかんだ言いながら可愛い息子の弱った姿にディーノはおろおろとする。
「だ、大丈夫か恭弥!?」
「この駄目親が。
うろたえるよりも先に病院だろーが」
「そ、そうだな!今車回してくるからリボーンちょっと見ててくれ!」

そっとソファーに雲雀を寝かせ、車庫に走っていったディーノにリボーンと呼ばれた少年は半眼になった。
「普通、5歳児に病人を任せるか?」




流石駄目親。

自分達が一緒に暮らすことになった原因だ。




息苦しそうにしている雲雀の首元を楽にしてやりながら、リボーンは嘆息した。






















見た目は美青年、中身はへタレ。

それが雲雀とリボーンの父親、27歳だった。
因みに結婚はしていない。



容姿と気のいい性格の為か、ディーノは無駄にモテた。
しかし来るもの拒まず去るもの追わずで、誰にでも分け隔てなく優しいところが災いしてか、女性に告白される数も多いが振られる回数も半端なかった。




挙句に、
『貴方の子供です』
という置手紙とともに子供を押し付けられたり、

『今日の17時には着くと思うから、じゃ』
と、一方的に電話をかけられ時間通りにやってきた随分と大きな息子に出会いがしらに咬み殺されたりと碌な目に遭っていなかった。






「身から出た錆、自業自得に因果応報・・・。
先人は上手い言葉を残してったよな」
「・・・・・・・リボーン、お前そんな難しい言葉何処で覚えてきたんだ」
「子供はいつの間にかでかくなってるもんだゾ」
フッと笑いながらしみじみと言い、次々に流れていく外の景色を眺めていたリボーンに、助手席に座っていたディーノは引き攣り笑いを浮かべる。

「俺は時々お前が本当に5歳児なのか不安になるよ」
「俺は常々お前が本当に俺の父親なのかと不満に思ってるゾ」
酷いことをサラッと言う息子に父親が涙眼になりそうになった時、運転していた男が目的地に着いたことを告げた。

「ボス、此処でいいのか?」
「ん、ああ此処だ。恭弥、もう少しだからな」
「・・・・・・咬み、殺」
「怖っ!!お前本当に弱ってるのか!?」
助手席から降りて、後ろでぐったりしながらもいつもと同じことを言っている雲雀を抱えながら前を見る。

「休暇中なのに呼び出したりして悪かったなロマーリオ」
「本当だぜ。いい加減、車ぐらい一人で運転出来るようになって欲しいもんだな」
「わ、悪かったって」
嫌がる雲雀を宥め賺しながら肩をかして降ろしたディーノに、慣れたように笑ったロマーリオは迎えの時はまた電話してくれといって窓を閉めた。






「おい?此処なのかディーノ」
「お父さんだろ。あぁ、そうだ」

さっさと先に降りていたリボーンに胡乱気に尋ねられ、ディーノは頷いた。
「下手気な医者より腕が良い名医がいるんだぜ?」
「・・・・・・・・・・」





とてもそうは見えない古びた様装にリボーンは眉を顰めるが、雲雀が呻いたことにより一先ずはディーノの言うことを信じるしかないかと建物に足を向けることにした。









.












「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

眼を開いた雲雀は、暫しぼやける視界に眉を顰め、次に自分が嗅ぎなれない部屋に寝かされていることに上体を起こそうとした。

「あ、眼覚めました?」
でももう少し寝てて下さいねと柔らかい声がかかり動きを止める。
声のする方に眼をやるが、ぼやけていて誰かがいるのはわかっても顔まではよくわからない。
「・・・・・・・・・誰、君」
「ん?俺ですか?」
上体を起こしかけた雲雀に布団をかけなおしながら青年は笑った。
「俺は沢田綱吉、貴方の主治医ですよ」
「・・・・・・・・・・ッ!?」

ようやく視界が慣れた途端、飛び込んできた花のような微笑に、少年の胸が大きく音を立てた。












「ってちょっと待てー!!!」













突然、雪崩れ込むようにドアを開いてやってきた途端転んだディーノに、ツナは首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「い、今嫌な予感がし、でぇ!?」

立ち上がろうとした所を衝撃が襲う。
「ツナ、見ろ」

ディーノをクッション変わりに踏んでからぴょいと抱きついてきたリボーンにツナは驚く。
「えぇ?もう出来たの?」
「これくらい簡単だゾ」

色が全て元に戻っているルービックキューブに眼を丸くしているツナにリボーンは機嫌よく答える。
「リボーンはこういうのが得意なんだ?」
「まぁな。
でも俺は万能だから何でも出来るゾ」
「凄いねぇ、リボーンの将来が楽しみだな」
「・・・・・・・・・」

にこっと笑って頭を撫でられ、少し頬を染めながら大人しくしているリボーンにようやく立ち上がったディーノは硬直する。



あのリボーンが大人しく頭を撫でられてる・・・・ッ!!!



(俺なら触っただけで腕を捻り上げるのに・・・ッ!)
腹の立つ上に気持ち悪いことこの上ない。
ついでに物凄く羨ましかった。
「ツ、ツナ俺も撫でてく」
「いい年こいて何言ってるの駄目親父」

途端容赦ない、目にも留まらぬ一撃がディーノを襲う。
声もなく沈没したディーノに、早すぎて何が起こったか分かっていないツナは、雲雀が立っていることにギョッとする。
「ちょ、駄目ですよまだ寝てなきゃ!」
「治ったよ」
「39度もあったんですよ?そんな簡単に、」
「ほら」
ぐいと目の前に突き出されたものにツナは黙った。
体温計だ。

「36.2℃。もう平熱だよ」
「・・・・・・・・」
そのまま手渡され、何処か呆れたようにツナは雲雀を見上げた。
どれだけ回復力が早いのだろうか。

「それより、君これと知り合いなの?」
「え、うん?」
ついと頭を摩りながら起き上がったディーノを指差され頷く。
それに眉を寄せ不快そうにしながらも雲雀は続ける。

「どうして知り合ったの?」
「それは、」



口を開こうとしたツナはそこで自分達が立ったまま話していることに気付き、立ち話もなんだからと別室に移ろうと提案した。

















.


情けない話なんだけどねと前置きしてからツナは話し始めた。

「危ないとこをね、助けて貰ったんだよ」
「危ないトコ?」
「うん、俺よく若い子に声かけられて来いよとか言われるんだけどね、」
楽しそうにお茶の準備をしている姿を見れば納得がいく。
まあナンパされても仕方ないだろう。
それを見つけたらタダで置くかは別として。

「いつもは何とか適当に言って逃げるんだけど、あの時は裏路地に連れ込まれそうになって。
流石にどうしようかなーと思ったよ」
全然危機感のない様子でツナは笑う。
あまり笑って話せることじゃない。

「ディーノさんが通りかかってくれたからよかったけど、
そうじゃなかったら身包み剥がされて、一文無しになってお家に帰れなくなるとこだったからねー」
は?なんで金?どっちかっていうと貞操の危機だったんじゃという顔をした異母兄弟達には気付かずしみじみとツナは言う。

「ほんと怖いよねー、親父狩り」






違うだろ。






いやー、抜けてる所為かよく狩られそうになるんだよねーと笑う医者に、3人は心の中で突っ込んだ。
「ツナ、それは親父狩りじゃないと思うぞ」
「そうなんですか?」
「そういうのはカツアゲとかナンパっていうんだよ」
「それにツナ、おめー親父狩りとか呼ばれる程の年じゃねぇだろ」
「30歳っていったらもう十分親父の部類に入るかと思ってたんだけど、」

違うんだ?へーと、のほほんと配ったお茶を啜るツナに三人は、一拍置いた後一斉に立ち上がった。
「「「さ、30!?」」」
「え?はい」


どのへんが!?


どう高く見積もっても高校生にしか見えない医者に、二人の息子と共に呆気に取られていたディーノは苦笑した。

あの時は襲われそうになっている少女を助けたつもりだったのだが。
男だと知った時も驚いたがまさか年上だったとは。

名も聞かず別れてから、直ぐに後悔をした。





また出会うことができるとは、思っていなかったから。





年下は嫌い!?などと珍しく必死の形相の二人に詰め寄られていたツナに近づく。
「まあ、こうして会えたのも何かの縁だ。
今更だけど改めて宜しくなツナ」
「ええ。そうですねディーノさん」

ツナがにっこりと差し出した手を握り返そうとする前に、ディーノの手は弾き飛ばされた。
「痛ってーーーーーーー!!!
恭弥!何すんだ!?」
「神聖な綱吉の診療所で何を如何わしい事しようとしてるのさこの変態卑猥親父」
「何で握手しようとしただけで卑猥とかまで言われなきゃいけねーんだ!?
大体トンファーで手を殴る奴があるか!!!」

痛い〜っと本気で痛がって座り込んでしまったディーノに慌ててツナが近寄る。
「大丈夫ですかディーノさん!?
うわ、凄い腫れてる!今痛み止めを持ってきますね」
「悪い、ツナ・・・」
「心配する必要ねーぞ。
痛み止めなら俺が撃ってやるからな」
「止めるって何止める気だリボーン!?
俺の息の根か!?」

前から思ってたけど其の黒光りしてる物騒なものはどっから持ってきたんだ!?
銃口を向ける息子に悲鳴を上げてディーノは後ずさる。

「二人とも、お父さんは本当に痛いんだから、冗談はやめてあげてね」
医療器具のセットを持ってきて注意するツナにはーいと二人はいい子の返事を返す。


お願いツナ!気付いて!そいつら本気だから!


言いたくても、ツナの後ろで悪鬼の顔で睨んでいる息子達が怖くて何も言えない。














(くっそー!だからコイツ等連れてきたくなかったのに・・・ッ!!)














しかし苦しんでいる息子を前に、遠くの病院に連れて行く気など起きなかったディーノは、
結局息子達に甘い自分とじんじんと痛む手に呻いた。













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