BabyFace and EagleEye


「くそ、疲れたぜコラ・・・」

いつもよりも重く感じる身体に思わず口走った。
それもこれもひょんなことから知り合ったあの男(というより餓鬼)の所為だ。
幼い顔立ちと華奢な身体からは想像もできない馬鹿力で、血を見るのは貧血を起こす程嫌いなのに射撃の腕は確かな変な奴。
偶々互いのターゲット同士が取引相手とわかった時は、度々顔を付き合わせることになったとしてもどうせ仕事期間中だけのことで、自分には支障はないだろうと高を括っていたのだが。・・・それが間違いだった。

あの甘すぎる気性の所為で余計なトラブルを次々と呼び込み仕事を邪魔するのは当たり前。
他にも金が無いから奢れとたかるわ、面倒事を押し付けてとんずらするわで散々だった。

中でも極めつけに最悪だったのは元々とんでもないクラッシャーだった奴が、都市で一番の観光の売り物だった世界遺産の一つを崩壊させ自分をそれに巻き込んだことだった。
間抜けにも突っ立っているのを突き飛ばし、天井が落ちてくるのを見上げた瞬間もう二度と奴には係わりあわないと心に誓った。



だがそんな全くもって忌々しい思い出ができてしまったこの国からも、今日でおさらばだ。
奴のお陰で国外へのあらゆる交通機関が停止し、とんだ予定外の滞在延長を喰らっていたのだが、やっと出国できる。
こんな不快なことも、いつもの無人の島にでも引っ込めば忘れるだろう。
面倒なことは忘れるに限る。





指定の座席を見つけ、立ち止まり様に荷物をドカリと降ろしてから隣に人がいることに気が付いた。
大きなアイマスクを付け自分を覆うようにすっぽりと薄い布を被った相手が身じろきをしたので、起こしてしまったかと軽く謝る。
それに返ってきたのは自分と同じ程度の短い寝呆けた切り返し。

(・・・・・・・・?)
それに少しばかりデジャブを感じたが、特に気にすることもないかと席に腰を落ち着ける。
当分誰とも口を聞く気にもなれなかったので、寝ているフリをする為に眼を閉じた。
























【 BabyFace and EagleEye 】

























だがこれは流石に何か言わないと気まずいだろう。

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
今、コロネロの膝の上では何故か隣席の乗客が無言で悶えていた。
上にある荷物を取ろうとしてバランスを崩し、肘掛に頭をぶつけたらしい。
随分とドン臭い奴のようだ。
しかしコロネロは、寧ろこんな状態になるまで気付くことなくうたた寝していた自分に呆れた。
これが仕事中ならば完璧に死んでいたところだ。
まあ自分の場合、僅かでも殺気を感じれば嫌でも身体の方が先に動くので問題はないだろうが。
そこでコロネロは知らずこうなるまでに疲弊した原因の顔を思い浮かべてしまい、内心悪態を付いた。
気を逸らすように膝に寝転がる状態になってる相手(子供?)に声をかける。
黄色人種のようだが面倒だから英語でいいだろう。

「平気かコラ?」
「・・・・は、はい大丈夫です。スイマセン」

別にいいと言おうとしていたコロネロは、へらりと笑った見覚えのあるものに身体の機能を停止し、
自分が倒れこんだ主を見上げた相手もまた、浮かべていた笑みのまま見事に石化した。

そして数秒後、機内全体にユニゾンに揃った絶叫が木霊する。


ガバリとコロネロから身体を引き起こし、もう一度確認するようにコロネロを擬視した男――ツナは幽霊でも目撃したかのように蒼褪めた。
「聞き覚えのある変な口癖だと思ったら・・・ッ!!
何で此処にいるんだよお前!?っていうかあの時、死んだんじゃ・・・!」

呆気にとられていたコロネロも、十字を切ったり念仏を唱えたりと滅茶苦茶で大変失礼なことをしている相変わらずな相手に青筋を浮かべる。

「それはこっちの台詞だコラ!! っていうか勝手に殺してんじゃねえ!」
「な、なんだよ生きてたならそう言えよな! 勘違いしてワンワン泣いちゃったとかすっごい恥ずかしいじゃん!?
そもそもあれだけの瓦礫の下敷きになったら死んでるほうが普通で生きてる方がおかしいだろ!? あ、なんか今更だけど凄い腹立ってきた・・・ッ!
お前俺の涙返せよこんにゃろう!」
「あぁ!?てめえが勝手にピーピー泣いてたことまで責任持てるかコラァ!
大体あの時守ってやったんだから少しは感謝ってもんをしたらどうだこの恩知らずがッ」
「恩師らずとか人聞きの悪いこと言うなよ頼んでないのに助けたのはお前なのに!」
「相変わらず顔に似合わず可愛くねえ餓鬼だなテメーは!?
ああそうかよ分かったぜ!! テメーを助けるなんて馬鹿な真似は金輪際しねえから安心しやがれ!!」
「そうしてくれるとこっちとしても助かるねどうも有難うございますってお礼言ってあげようか!?
っていうか顔は関係ないだろこの三白眼!」
「るせえぞこの万年童顔!!」
「何で俺が昔からこの顔だって知ってんだよこのムッツリ!?」
「だ、誰がムッツリだコラァアア!!?」
「うわ図星かよ顔近づけんな!」
「誰がテメーみてぇなちんちくりんに興味が沸くか!!!」

ギャアギャアと言い争っている二人を遮るように、そこで罅割れたアナウンスが流れる。

『機内の乗務員乗客員全員に告ぐ。
この機は我々が乗っ取った、抵抗するものは即座に、』






「「るさいそんなもん勝手に告ぐな暇人共!!!」」






お約束のような展開に今はそれどころじゃないんだとくわっと叫び、更に二人は睨み合う。

「こんのトラブル製造機が!!テメーがいると碌なことがねえ!
ホントにお前何か変なもんにでも取り憑かれてんじゃねーのかコラ!?」
「お前に言われたくないし呪われてもいないし何で俺の所為みたいになってんだよっ」
「どうせまた何かポカでもやらかしたんだろ?
へらへら手ぇ抜いて甘ったれた仕事をするから残党に復讐される嵌めになんだコラ!」
「俺は嫌な仕事でも後腐れないようキッチリこなす主義だっ!
お前の方こそさっさと仕事やりすぎて恨まれても全然気付かないから知らない内に敵増やしてるタイプの癖に!!」
「んだとコラ!?」
「なんだよムッツリ!」
「ムッツリじゃねえって言ってんだろいい加減にしろコラァアア!!」


途方も無いこの口論に、周りはハイジャックをされて命が危ないというのにいまいち緊張感を持てないでいた。
てかなんだこの状況。


「と に か くッ!!
俺はお前と一緒のしかも相席なんて縁起も景気も悪い飛行機なんて乗ってられないっ」
「奇遇じゃねえか同感だぜ・・・ッ、俺もこんなケチのついた胸糞悪い場所にいつまでもいられるかコラァ!」
「そういうわけで俺が先に降りるんだからどいてくんない?」
「これぐらいの順番待ちもできねえのかテメーは!?」
「だって遅くなって降りる前に後片付けしなきゃとかになったら面倒じゃんっ」
「んなこと俺だって同じだ!」
「ああもうわかったから早く退いッ」



「手を上げろ!! 命が惜しくば抵抗などする、」
そこに雪崩れ込むようにしてやってきたのは先程のアナウンスのハイジャック犯。
揃いのマスクを被った彼等は、自分達に向けられたその恨みのオーラに、皆まで言えずに身を竦ませた。



「あーもー結局こうなるし〜・・・」
「てめえがいるからだろうが、コラ」

心底面倒だとぐったりするツナとお決まりのような展開にうんざりしたコロネロは、





「―― でももうこのまま穏便に帰るっていうのも。無理だよね?」





次にガラリと豹変した声音にギョッとした。

先程とは打って変わって飄々としたツナの顔を見下ろしてから合点がいったのか、ひくりと顔を引き攣らせる。
(まさか、今までのは全部コイツの・・・)



「・・・・・・・・・・てめえ、謀りやがったな」
「面倒っていうのは本当だよ」

しらっと恍ける男に、コロネロは自棄になったように眼の前の面々をギロリと睨んだ。
「てめぇ等、人様の帰り道塞ぐとはいい度胸してんじゃねえか・・・・ッ!
素人集団共が覚悟は出来てんだろうな、あぁ!?」
「そうそうその調子、お前の方が悪役みたいだけど触りとしては良い感じ?」
「テメーはいちいちるっせえんだよコラァ!!!」
八つ当たりも混じっているので大変恐ろしいメンチを、うわあピッタリと拍手でもって賛辞するツナにコロネロが吼える。
それに固まったままの集団をひーふーみーと数えていたツナは、褒めたのにと肩を竦めてから軽い調子で尋ねた。
「じゃ、そろそろ不本意だろうけど。一時休戦しよっか?」
「・・・ちッ、仕方ねぇなコラ」







男の舌打ちが響いた一瞬後、二つの影が武装集団の前に躍り出た。




































その暗殺者には見えぬ淡い容姿に標的とされたが最期、この世から存在そのものを消されてしまうと恐れられるは“ベビーフェイス”

見惚れるようなサファイアで獲物を捉え、一撃でもって狩りとる姿はまるで伝説の翼獣と称される“イーグルアイ”



そんな裏世界の1と2が乗ってる飛行機を襲ってしまったことは、武装集団にとって不幸以外のなにものでもなかった。
おまけにこの最強コンビが互いの素性も名前も何も知らないその場凌ぎで急遽結成されたものだったとは、気の毒としか言いようがないだろう。








腐れ縁とは正にこのこと。
気は合わないのに息は合ってる二人のヒットマンは、これからも悉く顔を突き合わすことになる。














この出来事は、それを予感させるような偶然の邂逅 ――













<fine>







































相手を全く好きじゃないコロツナが書きたかったとかいう代物を尊敬するさかな様にBD祝い品として献上しようとかしてるアマですスミマセン_| ̄|○
しかも去年のBD祝いだっていうね・・・・・・・・・ッ!(ホント一回沈めばいいのにコイツ!!!)

迷い出すとどれもこれも駄目に見えて献上できなくなるのはアダノの悪い癖です(落ち込み)
じゃあこれは良い出来なのかと聞かれてもコメントは出来ません(殴)

あまりに遅くなりましたが、よければどうか受け取ってやって下さいさかな様・・・・・ッ!!!(土下座)
本当におめでとうございました!!!


2009.1.26


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