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話終え、沈黙している綱吉を黙って見ていたベルは繁々とそれを見つめたあと、
「なんかムカつく」
「ッ・・・!」

おもむろに手を振り下ろした。
突然の痛みに手を押さえ呻く綱吉に、そんな深くねーだろとそっけなく言ってナイフを引き抜いたベルは冷めた眼を向けた。
「なーお前さ、わかってんの?」
「な、にが・・・」
「ボスのホントの気持ちってやつ」
「ザンザスの、気持ち・・・・?」
「そ」

くるくるとナイフを弄びながらベルが笑う。

「俺も今朝まであんまよくわかってなかったんだけどさ、さっきわかった」

飾ってある花も茶器も気にせずテーブルから身を乗りだし、ベルはずずいと顔を近づける。
長い前髪の下から彼が此方を値踏みするように見ているのが綱吉にはわかった。

「ボスはあんたがいなくなんのが怖かったんだよ」
「・・・・え」
「まあまあ使える部下をずっと此処に潜入させて死なせてたのもその為じゃん?」
「それの何処が!」
「そいつらさ、アンタに指一本触ったこととかあった?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「ないっしょ?」


綱吉は自分が傷付けられることは平気だ。
勿論痛いことも殺されることも御免というのが本音だろうが、自業自得だよねと言って結局笑って受容することを、ザンザスは知っていた。

だから逆にザンザスは引きずり出す手段を考えた。
綱吉は自分と違って他人が傷つくことを酷く嫌う。
赤の他人であろうと、自分の所為で傷つく事を恐れていた。
それが命を奪う側の暗殺者だったとしてもだ。

いつかきっと音を上げて綱吉は自分の元へ帰ってくる。
そう願いザンザスは暗殺者を送り続けた。



それはきっとあの不器用が過ぎるボスからの狂気染みたラブコール。



そうだと知ったのはついさっきだとしても、それは長年に渡って続けられたもの。




「だから俺はそこまでボスが入れ込んでるアンタに興味持ったんだよね」
「…ベルが思ったより。大した奴じゃないよ、俺は」
「へー?
眼の前で暗殺者が死にそうになる度に血相変えて治療して最後には自分の部下にしちゃうのに?」
「・・・・・・・・・・俺は、そんなつもりじゃ」
「知ってる知ってる。
あんたが望んでなくたって、あいつ等がアンタの元に残ることを望んだんでしょ?」
「何で、そんなことまで知って、」
「あのさぁ、俺一応プロよ? 下調べ位するっつの。
っていってもあのマーモンが帰って来なくなって流石に驚いたからだけど」
金にしか興味のなかった元同僚の変化にそういやあん時は大笑いしたっけなーと言ったベルは、ふと笑みを引っ込ませた。
「・・・・・・・・? ベル?」

突然沈黙したベルに、訝しげに綱吉が尋ねる。

ベルは一心に、ある一箇所を見つめていた。
それを見た綱吉は、その時やっと紅茶が入ったカップが倒され手にかかっていることに気付いた。
手が燃えるように熱くなっていて痛覚が鈍っている為か、全くわかっていなかった。
そろそろ流石に止血しなければ不味い。
立ち上がろうとするが、ベルがそれを止める。
「ベル?」
「動くな」
「え」

それは零れたと紅茶と合い混ざり、今までベルが見たことがないものになっていた。
澄んでいるその色に、眼が奪われる。

「見つけた・・・」
「は?」

吸い寄せられるようにそれを前に膝を付く。
陶然となっている暗殺者に綱吉は動揺し、手を引っ込めようとしたがベルはそれを許さなかった。

「俺の、俺だけの、お姫様・・・・」
「は?ちょ、ベルやめッ・・・、んッ!」

求めて求めて止まなかったもの。
その証であるものを舐めるようにして、手に誓うようにキスを落とす。
何度も何度も。
「痛…っ!やめ、やめろって!!」
やっとのことでベルの顔を自分の手からから引き剥がした綱吉にベルはニッと笑いかける。
ぺろりと口端に付いたものを舐め取ったことに綱吉の背筋が粟立った。
逃げなければという代々受け継がれてきた血が警告を知らせる。
しかし綱吉の体はベルの向ける一心の眼差しにより、金縛りにあったように動かなかった。
その瞳はボサボサと垂れ下がった前髪に隠れて見えないというのに。

(そうじゃ、ない・・・)

だが綱吉は自分で自分を否定した。

違う。
ただ自分は聞いてみたいと思ったのだ。
暗殺者なのに。
こんな眼差しを向ける青年の言葉を。

多分理由なんて、ない。

「俺が綱吉の願いごとを叶えてやるよ」
「・・・・・・・・ベル、有難いけどそれは無理だよ」
「どうしてさ?」
「・・・・・どうしてって、」

何故無理だと初めから決め付けるのか。
それがベルには不思議で堪らないことだった。

そう思っていたら、ベルはきっと綱吉に会うことはなかっただろうに。
あるのかもわからないものを捜していたから、ベルは綱吉に出会えた。
それだけで十分な理由になる。

「俺が叶えるって言うんだから、お姫様は嬉しそうに頷けばいいだよ」
「・・・・あのな、俺男だから姫じゃないんだけど」
「だって俺王子だもん。俺が王子なら綱吉は姫ってことだろ?」
「・・・・・・・・・・・・」

シシシと笑う青年と意思の疎通が取れないことに気付いたのは今更だった。
何か言おうとするがどれも無駄に思え、やがて綱吉は諦めたように嘆息した。

「知らないよ?俺。どうなっても」
「いいよ、俺が決めたことだし」
「死ぬことになっても?」
「王子死なないし」
「・・・・・・・・・はぁ」
「―― もっかい言うけどさ、綱吉。俺が決めたことだから」
「う、わ!?」

握ったままだった手をぐいと引き、抱きとめる。
思った以上に軽い身体。
それが何故か猛烈に愛しく感じる。
さっきまでつまらなければ殺そうとしていたのが嘘のよう。

ベルは綱吉が堪らなく好きだと感じた。
自分を全てあげてもいいと思えるくらいに。




「だから、俺が死んでも。綱吉の為とかじゃないし」
「・・・・・・・・・・・ッ!」



その辺宜しく〜と、軽いのに甘く耳元で囁かれた言葉に、綱吉の身体が震えた。
言い募ろうとする前に、一指し指で口を封じられる。

「綱吉が何言おうとそれだけは絶対。
王子の言うことは聞くもんだからねお姫様?」
「・・・ッ認めるか!!つーか姫とか言うな!」

体を押しのけ手を振り払い、綱吉は顔を背けた。
怒んなよーというのに煩いと返しながらも堪えられなかった。

「・・・・・・・・ッ」
「・・・・・・泣くなって」

震える体を、背後からそっと抱きしめても。もう抵抗はなかった。
ただ小さく礼を言った青年が愛しくて、ベルはうっとりと眼を閉じた。

















ねぇ綱吉 二人で店を開こう?

綱吉がマスターで、俺がウェイター
幾らでも好きなお茶を淹れても怒られないし、きっと誰でも美味しいって笑ってくれるって


ちゃんと接客できるのかって?


シシシ平気平気、そんなの簡単だし




だって俺王子だもん

姫の夢を叶える為ならなんでもできるんだぜ?




























数年後。





町の外れにできた喫茶店。

そこには紅茶のブレンドが上手いと評判のマスターと、妙に果物ナイフを操るのが上手いウェイターがいた。
強面の常連がそれに喧嘩をふっかけているのがそこでは日常茶飯事。

それに足を運んでみるのも一興かもしれないという変わった客が何故か後を絶たないので、それにマスターは「・・・嬉しいんだかわからない」と苦笑する。

マスターの出すお茶は美味しいし、店の雰囲気もまずまずなのだがどうも生きた心地がしないので、一般の客はまず長居はしない。

だがいつも帰り際、「まぁそれも悪くないって今は思えるからいいけどね」と微笑するマスターを眼にすると、どうしてもまた足を運んでしまうのだった。
例えそれに見惚れたことに、ナイフや銃弾が飛んできてもいいと思える位に。






いくら命があっても足りない。

でもまた行きたくなる。

そんな危険な甘いティータイムを味わいたいなら是非また行くといいだろう。








“ambra campanile”

その喫茶店にはいつでも彼等が笑って待っている。















<...fine>




















「だっからお前はほいほい笑うなっての綱吉!」
「?? 何で?」
「何でも!(綱吉が笑うのは王子の前だけで十分ッ)」
「あー、もしかして妬いてるとか?」
「!! ち、違ッ」
「安心しろって。
あんだけ美人さんなら俺が笑って見送っただけじゃ靡きもしないから」
「・・・・・・は?」
「にしてもあの常連さんをお前が好きだったとは意外だな〜。
確か名前は・・・、ルッスーリアさん、だっけ?
親しげに話してたけど昔の同僚さんなn」
「あんなオカマ好きになるわけないしあれの何処が美人なわけ!?」
「な、何怒ってるんだよベル!?
ぎゃあナイフ投げるなって!お客さんに当たるだろ!?」
「あーもー綱吉ってば鈍すぎ!!
ずっと一緒にいんだからいい加減気付けよなッ!」

































“ambra campanile”=琥珀鐘楼

ツナとベルを重ね合わせた店名ですね。
センスがどうとか文体合ってんのとかいう突っ込みは無しの方向で(殴

ずっとずっと書きたかったのに書けなかったベルツナvvv
内容は素敵サイト様のベルツナに影響されて突発的に浮いてきたものだけど撮り合えず満足!!

最後の文はちょっと遊んじゃいましたvv(色々台無し

2008.12.11



あきゅろす。
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