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何故?と聞かれたので捜しているからと応えた。
続けて誰をと聞かれたので律儀に応えてやる。
今日は機嫌が幾分いいから。

普通は皆下賎で赤黒いものを持つ。
それは下々の色。

しかしお姫様なら綺麗な紅を持っている筈だ。
だから自分は捜しているのだ。

綺麗な紅を持つ人を。

切らないと捜せないのは些か面倒だと時々思ったりもするが、






「殺るの嫌いじゃないからいいけどさ」






王子結構マメっしょ?と笑って見下ろしても、相手はもう息もしていなかった。
























【 琥珀鐘楼 】





















聞かれる前に、偶には自分から言ってみようと思った。




「俺?殺し屋」
「いや聞いてないけど・・・」

やってきた相手に呆れたように言った青年は一つ伸びをする。
就寝している時に突如としてやってきた相手が誰だがわかっても、特に騒ぎも焦りもしない。
それだけで彼が一般人でないことが知れた。

のんびりとベットから降りながらカーディガンを羽織る。
「じゃあ手始めに、自己紹介でもしようか殺し屋さん?」
「俺は別にいらね」
「そんなこと言わないでさ。
あ、立ち話もなんだから座って座って」
「・・・・・・・・・・・・」
そういってもふもふとしたスリッパをつっかけて茶器を用意し始めた彼の名は沢田綱吉。
次期ボンゴレ後継者。
よって現当主の息子、つまりベルの主に命を狙われてる男だ。

それを知っていればもう十分。
だからもう何も知る必要がないというのに、綱吉は話し始めた。

「俺紅茶淹れるの趣味でさー、色々ブレンドさせて皆と飲んだりすんのが好きなんだよね」
これは新作と言って薄いカップに綺麗な紅い液体を注ぐ。
それはベルの知る赤とは対極のもの。
ベルが知っているそれはどろりとしていて赤といっても黒く濁っている。
容姿がどんなに美しかろうとそれは皆男も女も王も乞食も皆同じ。
でも何故か時々思うのだ。
コイツならば違うのではないかと。
それは幼少の頃、偶に自分に笑顔を向けたり、寝ている時に毛布をそっとかけてくれる人達だった。
確かめたくて、ちょっとならいいか。そう思って切り裂いてみればやはり同じ赤黒いもの。
途端興味を失い、いつもその場を後にした。
最近はそんな興味が頭を擡げることもなくなってきた。
それはボンゴレを継承するのは俺だと言って、初めて自分を地面に捻じ伏せた男に会った時から。
別に負けたわけじゃないけども、あの男が。ボスが上に立ったら面白くなるかもしれない。
漠然とそう思った。
それからの面白い狩りの毎日。
嬉々としてナイフを振るった。
ボスが足りないというから日に日に身体に降りかかるものの量が増え、匂いが体に染み付いた。
今はそれが自分の体臭のようになっている。

だからある日呼び出され、ただ一言命ぜられ渡された写真に拍子抜けた。

邪魔というのは分かる。
継ぐのは自分だというのに、未だ死なない従兄弟が目障りだというのは。
だがボスの眼には、はっきりとわかる程恐怖というものがあった。
理解ができなかった。




「俺怖くねえの、お前」
「今はね」
殺し屋なのに?と聞いてももう慣れたと困ったように笑う。
それは諦めているというよりも、わかっているというものだった。

「君、えっと」
「ベル。ベルフェゴール」
「そう、ベル。
お前の主ってザンザスだろ?」
「へーよく知ってんじゃん」
本来ならば、答えることは禁忌な筈の雇い主の名をさらりと認めたベルに苦笑しながら、綱吉はだからだよと言って自分のカップに温かな液体を注いだ。

「? だから余計に怖いんじゃねーの、この場合」
だって相手はあのボンゴレ次期当主と影でいわれるボスだぜ?
それは同じように表では言われている綱吉に言っても仕方ないことかもしれない。
病弱でさえなければ。
そう言われる位には継ぐに値する資質を持つというこの青年。
会うのは今日が初めてだが、どのへんがそうなのかはさっぱりわからなかった。
わかったのは紅茶を淹れるのが上手いということだろうか。
趣味というレベルは超えている。
ベルは久々に何かが美味しいと思った。
すっかり飲み干し、お替りというベルに笑ってはいはいと注ぎながら綱吉が尋ねる。
「ねぇベル。
今まで俺の所へやってきた暗殺者がどれだけいたか、知ってる?」
「知らね」
興味もない。
言外にそういうベルにだよねーと相槌を打ちながら綱吉は冷めきる前にと自分の紅茶をに口に含んだ。
「ベルを含めたら79人。
全部ザンザスが差し向けたものだよ」
「・・・・・・・・」

カップを傾ける手が止まり、流石のベルも沈黙した。
ありえないことだ。

それが他のマフィアが向けたものならわかる。
強大なマフィアといえど、死に掛けの後継者に向ける殺し屋に高い金など出せるかというのが他のファミリーの意思だろうが、田舎の僻地とはいえ腐ってもボンゴレ。
そんな安い金で雇われたチンピラのような暗殺者に、次期当主の守護者が負けるわけがない。

だが綱吉は今、ザンザスに雇われた暗殺者のみの数を上げた。

つまりは綱吉の守護者の強さを知って差し向けている筈。
なのにその数はどういうことなのか。

「シシシつまりそれぐらいお前が強いってこと?」
簡単に綱吉のいる室内までやってこれたベルとしてはそれしか考えられなかった。
些か予想外だがそれもまたいい。
テーブルに肘を付きながらナイフを浮かべるベルに、綱吉は曖昧な笑みを浮かべ首を振った。

「違う。俺は何もしてないよ」
「じゃー側近がすっげー強いからとか?」
「ベル、俺は今この部屋まで来た人の数だけ言ったんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「それ以外の人は、悪いけど数にいれてないよ」

琥珀の瞳が、暫し光を失ったように濁る。
それに何故か胸がざわめいた。
「・・・・あのさー俺、意味わかんねーことばっか言われんの嫌いなんだよね」
「うん」
「だからさっさと言えっての」

ナイフの一つを眼の前で閃かせる。
それに怯えることなく綱吉は淡々と言った。
「自殺したからだよ」
「は?」
「皆。来た人全員が俺の眼の前で、自分の武器を自分に向けて、死んでいった」
「・・・・・・・・・・」

そんな馬鹿な話があるだろうか。
しかし、一蹴しようとしてもできないなにかがあった。
それはザンザスを眼の前にした時に感じるものと何処か似ている。
俺も最初は訳がわからなかったけどという綱吉は、それきりそれに関しては口を噤み、少し昔のことだけどと別のことを話し始めた。



「初めは、ザンザスは俺の補佐になるつもりだったんだ」

暗黒という色が似合う野望を知っているベルからすればそんな馬鹿な話もなかった。
それを知っているのか、敢えてベルの視線は無視して綱吉は続ける。

「でもだからザンザスは、怒ったんだと思う。
俺が次期当主にならないで、・・・隠居するっていったことに」
「・・・・・・・・・・・・・」
「俺はたださ、皆や。ザンザス達に。
偶に飲みに来て、笑ってもらえるような喫茶店とか開ければいいのになって、思っただけだったんだけど・・・」

まさか、あそこまで激怒するとは思っていなかった。
笑ってお前はそっちの方が性に合ってるだろうな、だなんて言って貰えるとさえ思っていた。

それが、ザンザスの逆鱗に触れた―

今なら何故ザンザスが猛り狂ったのかが朧気ながらわかる。
ザンザスは本当に俺を大事にしてくれていた。
実際は自分の方が頂点に立つものとしての資質を持っているとわかっているのに。
全てを投げ打って自分に仕えようとしてくれていた。
なのにあっさりと俺はザンザスの誇りと期待を打ち砕き、踏み躙った。
それも笑顔で。

だから初めて、ザンザスから暗殺者が送り込まれて来た時。
仕方ないと思った。
それでもいいと思った。

しかし眼の前で一人でに上がった血飛沫を見た時、ザンザスは決して自分を許しはしないのだと理解した。













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