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廊下を歩く軽い足音にふと過去から今へ引き戻される。
首を向ければ予想した人物が開けっ放しだった扉から顔を覗かせる。
「ただいま〜、正一。そっちにスパナいる?
って、あぁ寝ちゃってるんだ」

その会った当時から変わらない優しげな容姿に、思わず意識しなくても笑みが浮ぶ。

「お帰りなさい綱吉さん。
綱吉さんの用事なら今すぐ叩き起しますけど」
「いやいやいやいいよそれはって、ああ・・・」
既に殴っている正一にツナ申し訳ないような顔をする。
乱暴にベットから落とされたスパナはぼーっと辺りを見回し、ツナを視界に入れるとのそりと立ち上がる。
正一にはぎゅうとツナに抱きついた義弟のちぎれんばかりに振られる尻尾が見えるようだった。
「お帰りツナ」
「ただいま、スパナ。気持ちよく眠れた?」
「ん、」

今まで会えなかった分を補充するかのように抱きついてくるスパナに、ツナは愛おしそうに微笑む。
それに調子に乗らないようにと正一が些か不機嫌そうに釘を刺す。
「スパナ、お前の方がデカいんだから加減しろよ」
「んー・・・」
「正一、今は何の研究やってるの?」
聞いているのかわからないスパナにムッとするが、スパナを撫でながら正一の隣に座ったツナに聞かれ、答える。

「綱吉さんが出かける前に入ってきた依頼の仕上げです。
御覧になります?」
「ああ、あの常連さんの」
一つ納得して軽く身体を寄せてきたツナにドキリとする。
PCを手渡した方が見やすいだろうとわかっているのに、服越しに伝わる淡い熱が離れることがなんだか惜しい。
そうっといつもより近いところにある養父の顔を盗み見る。
(うわ・・・。睫毛、長い)

色素の薄い睫毛が影を織り成している。
本当に同じ東洋人なのだろうかと時々思う。
でも遠い祖先が伊人だったらしいと以前話していたので、生粋とも言えないのだろうか。


養父、沢田綱吉は綺麗だ。


男にその形容詞を使うことも変だが、正にその言葉がしっくりくる人だ。
決して絶世の美男子ではない。
だがその傍にいるだけで常人とは空気が違うことがわかる。

ざっと見れば平々凡々と言っても可笑しくないのに、見るものが見れば惹き付けて病まないその魅力。
傍にいるだけで浄化されるようなその柔らかな空気に誰もが安心してほっと息をつく。
癒されるとはこれをいうのだろう。



「正一?」
「へ、は・・・ッ!?」
「どうかした?」
下から覗き込まれるようにして見上げられ、顔に熱が宿る。

「いいいやその久しぶりに綱吉さんに会えたので嬉しくて、それで、」

(って何を言ってるんだ僕は!?)

内心絶叫した。
言うことを聞いてくれない自分の身体が恨めしい。

しどろもどろになりながら段々赤くなっていく正一に、キョトンとしていたツナは蕩けるように微笑んだ。
正一の頭を軽く引き寄せそっと抱きしめる。
「つ、綱吉さん!?あの、」
「うん。俺も正一に会えて凄く嬉しいよ」
「・・・・・・・・・・・・ッ!」

ツナの頬にくっつけられた自分の頬が更に熱を帯びたのがわかる。
変な体勢なのに身体が硬直して動かない。
強くなった気がする金木犀の香りにくらくらする。

「ただいま正一。俺の可愛い義息子」
「・・・・・・・・・お帰りなさい、綱吉、さん」



耳元で囁かれ、やっとのことで言った。
こういう時、本当にこの人に会えて良かったと思う。

だんだん硬直していた体が解れてきたので、おずおずとだがツナの背中に手を回そうと腕を持ち上げる。



「正一ばっかずるい」
「うわあっ!?」
「おわっと」
しかしそれは更に二人に抱きついてきたスパナにより阻まれる。
正一の膝から落ちそうになったPCを安全なところへ置きながらツナが笑う。
「スパナはお兄ちゃんっこだなー」

絶対違う。
ぎゅうとまた自分の腕の中に抱きかかえたツナに撫でられご機嫌なスパナをぎりぎりと見やる。
ただツナが自分を構ってくれなくて拗ねていただけだ。
仕方ないなあと言いながらも特に離れようともしないツナをいいことに、今度はキスの雨を降らせ始めたスパナに正一は立ち上がる。
「お前それだけ抱きついてたら十分だろ!いい加減離れろ!
っていうか仕事で疲れてる綱吉さんにこれ以上負担をかけるな!」
「足りない」
「お・ま・え・なー!?」
「正一、俺のことなら気にしなくていいから」
「綱吉さんはスパナを甘やかし過ぎです!」
「んーでも可愛いし」
「そんなずうたいのでかいのの何処がですか!?」
「そうだよー僕の方がずっと可愛いでしょツナちゃん?」


困ったように苦笑するツナに正一が突っ込んだ時、一段と金木犀の香りが強まった。
完全に開け放たれた庭の窓からよいしょと降りた青年に、正一とツナが声を上げる。

「びゃ・・・ッ!」
「白蘭」
「やっほー、ただいまツナちゃん」
「あ」

スパナからツナをひょいと奪い取り、抱き上げた白蘭にツナは困ったようにする。
「白蘭、お前庭から帰ってくるのはやめろって」
「んーだって一番あそこが入りやすいんだもん」
「・・・普通は逆だろ」

警備が厳しい庭園から入ってくる方が至難の業だというのをだってめんどうなんだもんと笑って終わらせるのは白蘭だけだろう。
「それよりツナちゃん忘れてることない?」
「え?」
「可愛い義息子にお帰りのチュー」
「・・・・・・・・お前幾つ?」
「17歳だよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
にこっと可愛らしく首を傾ける白蘭に嘆息しながらも、抱き上げられた状態から一番近い額にそっと唇を落とす。
それに不満そうに白蘭が唇を尖らせる。

「えー苦労して仕事終わらしてきた義息子にそれだけー?」
「寧ろその年でなんで嫌がらないかが俺にはわからないよ」
「スパナ君とか正ちゃんとかにはする癖にー」
「二人は可愛いからね」

サラッと言ってもう降ろしてくれといってしぶしぶとだが床に降ろす白蘭。
床に足を付けたツナは、それを見上げて笑いかけた。
「とにかくお仕事お疲れ様、いつも有難うな白蘭」
「・・・・・・・・・僕だって、可愛いよ」
「は?」
「僕だってツナちゃんの可愛い義息子じゃないの?」

不貞腐れたように言う白蘭に一瞬ポカンとしていたツナは噴出す。
なんて可愛いことを言うのだろうか。

笑われたことによりますます臍を曲げそうな義息子の肩に手をかけ、ツナは涙眼になりながら笑いかけた。
「勿論、お前も俺の可愛い義息子だよ。決まってるだろ?」
「そっか。じゃ、証明して?」
「?」

途端にこっと笑って抱き寄せる白蘭に呆気に取られる。

「おでことかそういうとこじゃなくて、ここに優しくお父さんからして欲しいなー?」
「・・・・・・・・・・・・・・」

トンと自分の唇を示す白蘭にツナは沈黙する。














「正一」
「なんだ」
「あの人よりウチのがマシ」
「・・・・・・・・・・・・それは否定しないけど、比べる相手が最低だぞスパナ」
「うん。それはウチも今思った」


それじゃあそろそろ駆除にかかるかとばかりに立ち上がりながら、スパナはふと思いついたように言った。
「正一」
「なんだ?」
「偶には正一も素直になった方がいい」
「な・・・ッ」
「その方が綱吉も喜ぶ」



ニッと笑って揉み合ってる二人の方へ行ってしまったスパナに、正一は声にならない叫びを上げた。














正直に羨ましいなんて言えるか恥ずかしい!

















<...fine?>

































終わらなかったので続きます(汗

正ツナブームっつーか、正vsスパ→ツナブーム到来中!



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