絶対の掟

主に言われたことは必ず実行しなければならない。

だから、命令されたら、例え相手が誰であろうと違えてはいけない。





それが彼の中の絶対の掟。






だから彼は忠実にその言葉を守ってきた。

それが彼の全てだから。


































【 絶対の掟 】

































「あのッ!有難うございました」
「・・・・・・・・ついでだし、悪いのは連れだから」

気付いたら何処かの中学生に絡んでいた相棒を手にぶら下げ、柿本千種はうんざりしながら言った。
眼を離したら直ぐこれだ。

やけに興奮していた犬に手刀を落としたのはついさっきだ。
一瞬暴れたので眼鏡が落ちて壊れた。罅割れているが辛うじて前は見えるが眼に悪いので買い換えなければならないだろう。
割れたついでに破片で頬から少し血が出ている。
帰ったら心配性なあの少女に何と説明すればいいのか。

めんどうなので適等にじゃあと言ってから背を向けると、待って下さいという声が追ってきた。
立ち止まり、振り返る。

「でも、でも嬉しかったんです・・・ッ
眼鏡もちゃんと弁償しますから、だから、そのッ」
「・・・・・・・・・・・・・」

いつものようにめんどうだと言って去ればいいのに、何故か真っ赤な顔をして言いあぐねている少年が気にかかって動けない。
逆になんなのかと聞いてみる。
「だから、何?」
「おおお友達になって下さい・・・ッ!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

思わず引き摺っていた犬の服が手からすっぽ抜ける。
犬が呻いたがそれどころじゃなかった。

言ってからぎゃあ違う間違ったなどと頭を抱え、少年は真っ赤になりながら言い直すように口を開く。
「そうじゃなくて、お礼がしたいので、学校の名前教えてください!!」


・・・・・・・・何で学校?


恐らく、学校まで明日辺りに礼金か何かを持ってくるつもりなのだろうが。
(めんどい・・・・)

嘆息した千種は適当に書いたメモ用紙を渡した。
「連絡先」
「え・・・」
「学校に来られるとか、めんどいから。
用があるならそっちにしてよ」
「・・・・・・・・・はい!」

嬉しそうに笑った少年をなんだか見れなくて、千種は犬を拾い上げるフリをして目線を逸らす。

「・・・・・ところで、眼鏡幾らするか知ってるの」
「えと、3000円とか、ですか・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・やっぱりいいめんどすぎる」
「えええもっとするんですか、すみませんちゃんと働いて返しますんでー!待って下さいええと、」
「千種。柿本千種」
「俺は綱吉、沢田綱吉っていいます!」




これが、自分を追いかけてきた変わった少年、沢田綱吉との出会いだった。


































「最近千種の機嫌がいいようですね」

今日も寄る所があると別の道から帰っていった千種を見送った骸は言った。
それに犬が恨めしそうにぶすくれる。

「俺殴った日からずっとだぴょん」
「ああ、あの犬が優しくしてくれた少年を照れ隠しに苛めそうになってたっていう」
「ちちち違うビョン!!」
「遣り過ぎになりそうだったのを千種が止めたんでしたよね。
それでお礼にとその子が眼鏡を弁償したんでしたか」
端的にしか聞いてないのでそれしか知らない骸に、犬が不服そうに補足する。

「・・・・・・・それだけじゃなくて勉強教えたり、御飯も行ってるみたいだビョン」
「それはそれは」
妬くんじゃありませんよとわかりやすい犬に苦笑して頭を撫でてやりながらフムと骸は考えた。

あの有る意味犬よりも人見知りをする千種がそこまで心を開いている少年。
千種の為にもこれからも仲良くして欲しいが・・・。

「一度、挨拶に行ってみてもいいかもしれませんね」
「骸様?」
「何でもありませんよ、犬」

にっこりと骸は微笑んだ。














「・・・・・・・・・・ッ!!」
「どうしたんですか千種さん?」
「・・・・・・・いい、何でもないよ」

突然襲ってきた悪寒により鳥肌が立った腕を密かに摩りながら、多分と呟く。
猛烈に嫌な予感がしたのは・・・、きっと気のせいだろう。






しかし、千種の嫌な予感は後日的中する。


























「おやおや偶然ですねぇ、千種」
「・・・・・・・・・・・・ッ骸様!?」
「ファミリーレストランなんて人が多い場所を君が好んで利用するなんて」
どうしたんですかといいながら絶対業とだとわかる笑顔の骸に千種は嫌な汗をかいた。
念のため尾行には気を付けていたのに・・・ッ

それはツナの周りにいる不良や友人、家庭教師を毎度あしらうのがめんどうだったからなのだが。
何故か、猛烈に骸をツナには会わせたくなかった。
取り返しのつかないことになる気がする。

「骸様、何か急ぎのお話なら外の方で聞きますので・・・ッ」
「何を慌ててるんですか千種」
珍しいですねとにっこりと笑う骸に苛立ちを覚えた時、



「あれお友達ですか?千種さん」



タイミングよくドリンクバーで取ってきた飲み物を持ったツナが現れる。
(最悪だ・・・ッ!)

ツナの持っているコップをテーブルに置かせて背を押す。
「・・・・綱吉!悪いけど向こうに行ってて」
「え?え?」
「そうだ、あとパイナップルジュースを持ってきて欲しいんだ」
「ああ、はい。わかりました」

ツナを骸の眼から隠すように囁いてから送り出す。
いつの間にかちゃっかりと座って珈琲を飲んでいた骸はいつになく焦っている千種に悪戯っぽく笑いかけた。
「クフフ、僕から隠したい程可愛い子なんですか?
羨ましいですねぇ」
「ただの知り合いですし男ですよ」
「おや女性に興味が無いかと思っていたら、そういう好みだったんですか」
「いい加減にして下さい何しに来たんですか・・・ッ!」

思わずテーブルを殴り、いつもより声を荒げてからハッとした。


今、自分はたった一つの居場所であり、恩人であるこの人に対して何を言ったのか。


「あ・・・」
血の気が下がる。
暫しの沈黙の後、自分の肩にそっと触れた手にビクリと身体が震える。

「千種、顔をあげなさい」
「・・・・・・・」

その、優しげな声に恐る恐る顔を上げる。
骸は微笑んでいた。

「良かったですね」
「・・・・・・・え?」
「新しい居場所を見つけたんでしょう?
大切ならば、手放してはいけませんよ」
「・・・・・・・・・」
不覚にも、その言葉に目頭が熱くなりそうになり慌てて眼を擦る。
まさかそんなことを言われるとは思っていなかった。

「今日は丁度君の生まれた日ですし、お祝いに何かご馳走しますよ」
「骸様、覚えて・・・・・」


自分でさえ忘れていたことなのに。








「千種さん、一応二つ持ってきましたけど」
「綱吉、ちょっと」
「はい?」

そこへトロピカルなジュースを持って帰ってきたツナを隣に座らせて改めて骸に紹介する。

「骸様、彼は並盛中に通っている沢田綱吉。
俺の、・・・・・・・大切な友人です」
「千種さん・・・」

些か赤くなって言った千種に、今までそんなことを言われたことがなかったツナは感動したように眼を潤めた。
その様子に骸はふっと微笑し、







「やっと、会えましたね」
「へ?」






ツナの手を握った。
思わぬ骸の反応に、千種は固まりツナはキョトンとする。


「・・・・・・・・何を、言ってるんですか骸様」
「貴方に会える日をどれだけ待ち望んでいたか」
「はぁ・・・」

昨日爆笑しながら懐かしのアニメ特集見てたのは誰だ。
クロームが隣で涙ぐんでいたから余計に最悪だったのを覚えている。

「でもその悲しみの日々も終わりを告げました。
嗚呼愛してます、私の運命の人・・・」
「ち、千種さん俺この人の亡くなった恋人にでも似てるんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」

どう対応していいのかわからないというツナの手を骸から離し、深く嘆息した千種は心の底から懇願した。





「頼むから帰って下さい骸様・・・・」



































主に言われたことは必ず実行しなければならない。

だから、手放すなと言われたからには、例え相手が貴方であろうと違えるわけにはいかない。






それが自分の中の絶対の掟。






その言葉を守って、決してこの居場所を譲り渡すことはしない。


それが自分の全てだから。















だから、

















「千種さん何であの人おっかけてくるんですか!?」
「いいから早く走って綱吉」
「千種ーっ!待ちなさいっ」
「ツナてめぇまたその根暗とほっつき歩いてたのか!
門限とっくに過ぎてんだろうがっ」
「やっと見つけたのなツナっ
遊びに行くなら俺も混ぜてくんねー?」
「十代目を返せ眼鏡野郎ーーーーーーっ!!!」
「うわお前等までなんでいんの!?
ってぎゃー何か黒いオーラが足に巻きついてくるーーーーっ!?」
「・・・・・・・・・はぁ、めんどい」
「千種さんどうし、ひゃあっ!」
「行くよ綱吉」

しっかり掴まっててよという言葉に、抱き上げられたツナは真っ赤になりながらもコクリと頷いた。


















だからこの大切な温もりを、決して手放さないと改めて誓おう。












<...fine?>














































千種誕生日おめでとうっ



同じく誕生日だというY様にこっそりと捧げます(笑)






2008.10.26


あきゅろす。
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