幼馴染み

「・・・・・・まだ起きてやがるのか」




それともただの消し忘れだろうか。

煌々と輝いている部屋を見上げてから、ザンザスは慣れたように塀に飛び上がり、屋根に上って開けっ放しであろう窓に手をかけた。
案の定鍵のかかっていない窓(自分には都合が良いが相変わらず無用心なことだ)を開けると、暖かな空気が冷えていた身体を優しく包む。

しかし、見回す程もない部屋の中には目当ての姿はなかった。



「・・・・・・・・・・・・・・・・」
ザンザスは少し逡巡しただけで迷いなく土足で部屋に侵入する。
そして何故か襖を開け放ち、馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

「今度は何で泣いてやがるんだカスが」
「えっく、う、なんだ、よ・・・。
勝手に入るなって、いっつも、言ってるのに」
押し殺すように泣いていた声が襖を開けられたことにより、室内に響く。

「・・・・・・・・・・・・・・・・どれだけ泣いてたんだお前」
伏せていた顔を上げ、堂々としている不法侵入者を睨みつけた幼馴染を見たザンザスは暫し黙った。
ずっと泣いていたからか、顔が物凄く腫れて凄まじいことになっている。

唯一の取り柄の顔が無くなったらお前に何が残るんだと言いながら襖から引き出そうとするザンザスの手を嫌だと拒絶してツナは顔を背ける。
「うるっさい、厭味ばっかじゃなくて偶には慰めようとか思わないのかよ」
「胸くらいなら貸してやる」
「誰が野郎の胸で泣きたいと思うか。
言葉でっていってんの」
「無理だな。それなら他を当た」
「でもティッシュ代わりって思うことにする」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい」
って訳でちょっとじっとしててといってザンザスの背中にしがみ付いたツナは泣いた。
雫は全てザンザスの服に染み込まれていく。
ツナはただ静かに涙を流した。





座っているだけなのも手持ちぶさなので、近くにあった冊子を手に取ろうとしたザンザスはそれに気付いた。
(また、来てやがったのか)


忌々しい古臭い上着。
それだけでツナが泣いている理由がわかった。

なるべく動かないようにといつの間にかじっとしていた自分が馬鹿馬鹿しくなる。
でもそれでも立ち上がって出て行こうとはちらとも思わない。



他人を想って泣いてるこの青年を慰めるのも、抱きしめるのも冗談じゃないと思うのにされるがままにしているのは。
それにより少しは自分の方を見てくれるんじゃないかという打算があるから。

こんなちみっちい面倒な計算なんて柄じゃないし面倒だというのが本音なのに。










いつの間にか重みを増していた少年に、相手が寝ているのだと気付く。
だったらもう寝かせて帰ろうと立ち上がろうとするが、コートを握っているらしく上手く立てない。
起さないようにと彼にしては珍しく悪戦苦闘した結果、上着は置いていくという結果になった。

窓から見える夜中特有の闇の深さに、寒さが来た時よりも半端ないことが知れた。
流石に20分もこの寒空の下を歩けば風邪を引くかもしれない。

・・・・・でも仕方ない。



こんな駄目な幼馴染に惚れてしまったのは自分なのだから。


































【 幼馴染 】

































「ん・・・?」
のそりと起き上がってからずり落ちたものを反射的に押さえ、それが仏頂面が得意な幼馴染のものだと気付くのに時間がかかった。
近くとはいえ寒さが厳しくなった空気の中を上着無しで帰るのは辛いだろうに。
(っていうか、布団に寝かせてくれればよかっただけなのに)

不器用で理不尽で我侭で、・・・一途な困った奴。
また土足で入ったんだろうことがわかる足跡に嘆息する。








『てめぇが好きなんだよ、文句あるか?』







急に以前言われた時のことを思い出す。
顔が火照る。
たとえ相手があの傍若無人の俺様だって、人から好かれるということに自分は嬉しいと感じてしまう。
「だってしょうがないだろ・・・」


そんなこと言われたのも言ってくれたのも初めてだった。


誰もいないし聞いてないのに言い訳をする。











何故自分にこうも構うのかと言った時のことだった。
随分濃いことをサラッと言ってくれたもんだ。

「お前は言ったらスッキリした顔してたけどさー・・・」
逆に俺の頭はもやもやだらけだよどうしてくれんだよこっちの身にもなれっての。

ただそうであると告げただけで、未だに何も求めて来ないザンザス。
いままでの経験上、理不尽なことを言って来たっておかしくないのに。
最近は何を考えてるんだかわからない。

逆にそれに不安になって、アイツのことが気になって仕方ない。
四六時中、見たくもない強面の顔が浮んでくる。







「・・・・あるに決まってんだろ」
お前なんてゴメンだよとあの時言えなかったことを呟く。
業となんだか兎に角忘れていったことだけは確かなコートの裾を掴んだまま、暫く離せなかった。
















<...fine?>
































想い人がいるとわかっているのに好きだと言ってきた幼馴染と、自分の気持ちに戸惑う青年。




・・・・・・・ザンツナを書こうとするとギャグが遠のくのは何故でしょうか。
黒雛鈴夜様に捧げたいと思うんですが、書き直しはいつでも承りますので!(滝汗

ザンツナキリリク有難うございました!!
宜しければお持ち帰り下さいませv



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