番外

「お焼香、いいですか」
「・・・え?」

振り返った拍子に零れた涙に、その少年が戸惑ったような顔を見せたので。
ツナは慌てて顔を擦って立ち上がった。

「是非、お願いします。あの、母もきっと、喜びますから」
俺一人で送るよりもずっと。

腫れ上がった痛々しい眼でツナが微笑むと、少年もぎこちなく微笑んだ。








ツナと同じくらい深い悲しみを持った瞳で。



































【 星に願いを 〜番外〜 】











































「…お前、ナナにそっくりだな」

暫くしてから、ぽつぽつとナナについて話してくれた少年(リボーンというらしい)に、ツナは苦笑した。

「ん?あぁ、一応血は繋がってるらしいから。
俺ね、母さんのお姉さんの子供だったんだって」
「・・・・・・・・」
「でもそのお姉さんは体弱くて亡くなっちゃって、代わりに妹の母さんが引き取ってくれたんだってさ」
「…随分と他人事みたいに言うんだな」
「俺にとって母さんは沢田奈々っていう人だけだし。
一度も会ったことがない人がそうなんだよって言われてもねー」

感傷も何も含まれない。
ただ事実のみを詠み上げるようにしながらツナは呟く。
「ピンと来ないよ」




そう広くは無い粗末な室内はあっという間に片付け終わり、ツナはよいしょとたった一つのダンボールを持ち上げ、笑った。
「そういう訳だから。お焼香に来てくれて有難うね」
「いや有難うじゃねーゾ」
「?」
「これから宜しく、が正解だツナ」
「?」

差し出されたそれを、首を傾げながらも母の知り合いだからと仕方ないかと受け取る。
読む前に気付いた文字と少年が言った言葉に、ツナの頭の中は真っ白になった。











「今日から俺がお前の父親なんだからな」













其処には、印刷された文字で濃く、はっきりと「婚姻届」と書かれていた。






























あの明るくて元気だった母さんが逝ってしまったことも衝撃だったけど、再婚しようと思っていたのも驚きだった。

でもまだ若いともいえる母さんの人生を、俺一人の為に潰すのも嫌だったからそれは別にいい。
きっと告白されたら戸惑いはするだろうけど、きっと頷けたと思う。



でも、母さんがいなくなって。

しかも婚姻届のみが受理され、書類上とはいえ知らない男の子供にされていたなんて。



しかも

年端もいかない、一つしか違わない(更に年下)少年が自分の義理とはいえ親?

























「冗談だろ!?」
「嘘じゃねーぞ」

ほーらと厭味ったらしい切れ長の眼でこちらを見ながら、リボーンがピラピラと見せたそれにぐっとなるが負けずに叫ぶ。
「そんな紙切れがどうだっていうんだよ!俺は認めないからな!」
「お前、この三文字が読めねえのか」
可哀想な奴だなーと見てくるのが腹が立つ。
さっきまでの悄然とした姿は幻だったのか!?
「婚姻届位読める!」
「じゃあ理解もできるな」
「できるか!
っていうかそれ、出すなよ!」
折角しまった少ない持ち物をまたほいほいとダンボールから出し始めていたリボーンから奪い返す。
「また此処で暮らすんだからいいだろーが」
「もう此処には住みたくないし住めないんだよ!」




















『12日には出て下さいね、次の入居の方も待ってるんで』







用件だけを無情に告げそそくさと切られた電話に、途方に暮れるながら頷くのと同時に何処か安心した。





もう此処にいなくていいということに。



















どんなに望んだって 待っていたって

帰って来てはくれない人を待つのは辛くて 寂しい



自分は一人なんだと嫌でも思い知らされる



それはもう味わいたくないから





















「じゃあ、後がつかえてるから出てくってのか」
「そーだよっ、それにお金ないし。仕方ないだろ・・・」

もう何も言うなよ、ほっといてくれと荷物を詰めなおすツナに、
リボーンは眼を瞬きああそうかとまだ知らなかったのかお前と一人納得して懐をごそごそと探りだす。

「でも次の入居者、俺だし。
俺は金持ちだから金の心配もしなくていーんだゾ?」
「あーそーッそうだろうねさぞかし・・・、ってはあ!?」

あったあったと取り出され、目の前に提示された<契約書>と書かれたこのアパートのものであろう書類を見たツナは絶句した。

「これから宜しくな、義息子よ?」
「・・・ッふざけんなーーーーーーーー!!!」




パパって呼んでいいぞ〜?という少年に向かってツナは手近にあったタワシを投げつけた。
































こいつからは逃げられないと、何処かで気が付いていたから。

ささやかな抵抗として。














あきゅろす。
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