4限目

放課後。

出席確認を終え、名簿を閉じようとしたツナはいつも読み上げている名簿欄に一枚の紙が張り付いていることに気付いた。
かなりの間開かれていなかったためかペリペリと音を立てる程張り付いていたそれを剥がしたツナは眼を瞬く。
名簿の続きなのか、一つの名前がポツリと記されている。
見慣れない文字をツナは無意識に読み上げた。
「六道・・・・、骸?」
「あぁ、登校拒否してるただの引きこもりだよ」
ひょいと後ろから覗き込んだ生徒が言ったことに、聞き返す。
「え・・・、ってことはまだ学校に在籍してるってことですか?」
「一応書類上はね」

3Dは様々な理由で辞めてしまった生徒が多い為、在籍している生徒が他クラスに比べて非常に少ない。
だからと言って仮とはいえ担任の自分が、今まで全く知らなかったことにツナは呆然とした。
ツナの感覚からすれば、教師失格と言っても過言ではない。
「お、俺ちょっと六道君の家に行ってきます・・・ッ!」
だから今日は先に帰って欲しいというツナに、男子生徒―雲雀恭弥は不機嫌になった。
「君が行く必要なんてないよ。
アレにそんな価値もないし。行っても無駄だからね」
「そんな言い方、」
「じゃあ聞くけど。
君はあの男も手こずっていた生徒をどうにか出来ると思っている程、自分が教師として優秀だというのかい」
「そ、それは・・・」

雲雀が言わんとしているあの男とは、3Dの本当の担任でツナの先輩でもあるディーノのことだろう。
彼の代わりとして臨時で雇われているツナは、言葉に詰まった。
まさか尊敬しているディーノよりも自分が上だなんて思ってないし、嘘だとしても言えるわけがない。
だとしてもこのまま自分が何もせずにいるなんて、到底ツナにはできなかった。
ツナは体の向きを変え、雲雀をひたと見据える。
「・・・・ディーノさんと俺との差なんて口にしなくても歴然としてます。
でも俺は、何もしない前から諦めて自分の生徒の未来を潰すなんて・・・、できません」

眼を逸らさずに静かに言ったツナを不満げな顔で睨んでいた雲雀は、やがて諦めたように眼を閉じてから嘆息した。
「・・・・・わかった、君の気が済むなら行けばいいよ。
でも、僕も行くからね」
「え、六道君の家に案内してくれるんですか?」

地図見るの苦手なんで助かりますというツナに、雲雀は呆れる。

登校拒否をしているということは、それなりに理由があるものだ。
だから普通、こういう時は生徒が行こうとするのを止めたりするんじゃないだろうか。
「まぁどっちにしろ付いて行くつもりだったからいいけど」
「はい?」
「そっちじゃないって言ったんだよ」
「あ、はい」




慌てて付いてくる教師だとは思えない青年、沢田綱吉。
ツナと雲雀がまともに会話をしたのは、ツナが来て一週間を過ぎたばかりの時だった。






























【 4限目 】






























それはいつものように、一目で一般の家ではないとわかる屋敷の門を潜ろうとした時だった。








「・・・・・・君、此処に住んでるの」







その声に何気なく横を見たツナは、衝撃のあまり硬直した。
(な、何で此処にこの子が・・・!?)

鋭い切れ長の眼。
整っているが甘さは全く感じられない相貌。
学校指定ではないのに何故か着用が許されている学ランに、風紀を司ると示された腕章。


――間違いなく自分のクラスの生徒の一人、雲雀恭弥だった。


とても優秀で、騒いだりすることはないが存在感はある子だ。
口をきいてくれないので生憎とまだ話したことは無いが、ディーノがこの生徒には良く注意をしてあげるようにと彼の心配してよく電話をくれるので、繊細なんだろうことは知っている。

実際にはツナの心配をしているのだが、未だにディーノの入院の正確な理由を知らないツナは話を勘違いをして受け取っていた。
そうとは知らないツナは、此処で会ったのは偶然だろうと踏んで、誤魔化すことに決めた。
理由としては、尾行されていれば気配で気付いただろうし、そもそもこの生徒が自分に興味があるとは思えなかったからというものだった。

「い、いやあの、その。お金が転がってっちゃって拾いに入っていっただけっていうか」
「・・・・・・・・・・・・・」
「そのついでに立派な庭だなぁなんて見惚れてたんだ、けど、ははは、見られてたなんて恥ずかしいなぁ先生。
そ、それにしても奇遇だね雲雀君、こんなところでどうしたの?」

無言な目線が痛かったが、この調子なら何とか誤魔化せるかもしれないというツナの期待は、

「あ、十代目!お帰りなさいませ!」
「ナイスバットタイミング獄寺君!!!」
「はい?」

そこで箒を持って現れた舎弟の一人により、見事に崩された。
ツナは内心泣きながら、今まで立っていた道が強制的に幕を閉じられ、眼の前に新たな道が勝手に開かれていくのを感じた。


さよなら輝かしい俺の教師人生!こんにちはゴットファーザーロード!











「ねぇ、勘違いしてない君」
「・・・・・・・・・はい?」

明日からのことを考え一人憂いていたツナは、その平坦な声に飛ばしかけていた意識を元に戻した。
少年は見るからに興味の薄いとわかる視線をツナに向けている。
「何を心配してるか知らないけど、君が如何いう家の出身だろうと僕には関係ないから」
「あ・・・」

(雲雀君、まさか気を使ってくれた・・・?)
今まで散々極道出ということで酷い扱いを受けていたツナは一瞬泣きそうになる。
こんな家の俺でも、君は俺を先生として認めてくれるんだね・・・・!!

「お隣だったみたいだしね」
「・・・・・・はい?」

だがしかし、一人感動していたツナはその付け足されるように呟かれた言葉に冷水をかけられた気分に陥った。
その顔の変化に少年は少し面白そうに口端を上げる。
「おやすみ」

そして揚々と隣の屋敷に躊躇なく入っていったことに、ツナの眼から出かかっていたものは即座に引っ込んだ。






















『風紀組』

その屋敷の入口に掲げられた表札の文字は、問答無用で相手を殲滅することから恐れられている、過激派で有名な組のものだった。















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