3限目

初めて会った時そいつは木陰ですやすやと寝ていて、何故か木の葉塗れだった。

無邪気なその寝顔に、眼と体が吸い寄せられるようになって、
気が付いたら屈み込んでいた。

自分の行動に多少驚きはしたものの、まあいいかと開き直った。
慣れていることなのに珍しく忙しない心臓の音で眼を覚まさないかと冷や冷やしながらもそのまま距離を失くそうとした時。
唐突にそいつは綺麗な琥珀で俺を見上げてきた。

一際高く胸が音を立てる。



しかし相手は、


「唐揚げ!」


と叫んで俺がいるのも構わず腕も使わず腹筋のみで起き上がり、強烈な頭突きをかましてくれた。
傷む額と星が舞ってチカチカするぼやけた視界が治るころにはそいつは消えていた。






次の日にはヘラリと笑って、教壇の上に現れたのだけれども。

































【 3限目 】







































(・・・来た)

ドキドキしながらぽやっとした顔のアイツにいつものように笑顔で笑いかける。
そこらへんの女子には意識せずとも浮ぶそれが、コイツの前ではぎこちないことになってる気がする。
口だけは問題なく動いてくれることが救いだ。

「返却か?」
「あ、うん」
「和食の料理本?
何だ、パン食からようやく弁当でも作る気になったのか」
「うん? って何で俺がパン食だって知ってんのお前?」
きょとんとした顔にドギマギする。
まさかいつも見てたからなんて言えない。
「た、たまたまお前が食べてるのを見ちまっただけだッ、
別にずっとみてたからとかじゃねえゾ」
「あはは、それはわかってるよ」
ありがと、じゃーね〜と笑って言って向けられた背中に何も言えずに見送る。
(・・・くそッ)

俺としたことが、好きな相手を指を咥えて見送ることしか出来ないなんて…ッ!




のんびりと歩き始めたその人と入れ替わるように入ってきた女生徒が、ぱっと顔を輝かせた。
「あ!ツナ先生お早うございます〜ッ!」
「うんお早うハル、今日も元気一杯だねー」
くすくすと笑って女生徒頭をぽんと一撫ぜして去っていったその笑顔に胸がキュンとした。
「はぁ…」

切なげに嘆息したこの男子生徒の名はリボーン。
後ろに撫で付けた少し癖のある漆黒の髪をかきあげただけで静かにするべき図書室のあちこちから女生徒の嬌声が上がる程の美少年。
18歳という若さで女なんてより取り見取りだぜと鼻で笑って云える位モテている。
妬むことも馬鹿馬鹿しくなるくらい他も完璧な上に、おまけにあの3Dのボス格だといったら誰も歯向かうものなどいなかった(3D生徒は除く)。

しかし何故あのリボーンが図書室で大人しく受付などやっているのか。
それは学校の生徒から教員までが首を傾げていることだった。

まあそれはこの年頃の少年ならごく普通な理由。
恋をしているからという簡単なものだったのだがその事実を知るものは少ない。






お相手は一ヶ月程前にやってきた臨時教師、沢田綱吉。
一体どうやったのかは不明だが、あの只の不良だったらどんなにかまだ良かったのにと係わった全ての教員から大人までを嘆き悲しませる程の3Dの生徒達をたった一ヶ月で纏め上げたと噂される特異な男だった。
しかし見た目は如何にもごく普通で平凡で、怒ったところなど見たことがないし想像もできないといわれる位温和で優しい性格の為、大抵の生徒にはタメ口を利かれ、ツナとあだ名で呼ばれるほど舐められている。
本人もそれを気にするでもなくいつものほほんと笑っていたが。

嫌われることもないが、特別好かれてるわけでもない。
其れが平凡教師ツナの一般的な評価であった。






が、それは表面上だけの話であって。

リボーンは知っていた。
密かに彼が人気であることを。

それがやっかいな性格や問題を抱えた生徒(主に3Dの生徒)やら教員やらまでを虜にしていることを。
しかもそれはそれは熱狂的に。
彼が無意識で無自覚なので余計に性質が悪かった。
オマケに彼はとても鈍い。

さり気無く言ったって全く気が付かないし、ストレートに言ったって変な勘違いをするか、業とか!?というほどの頓珍漢な答えを返すのが常だった。







だからリボーンは柄にも無く焦っていた。
今までは待っていようがいまいが向こうから手の内に飛び込んで来たのだが、今度ばかりは勝手が違う。
だって相手は自分のことなど生徒としか見てないのだ(寧ろ眼中にないようだとかは立ち直れそうにないので考えないでおく)。

それに、最近あのお節介はウチのクラスでも放任している奴に手を出しているのだ。
名前は忘れたが、アイツも相当の捻くれものだ。





「あんなのほっときゃいーのに」

あのお人良しが・・・。





何故か女生徒が多い室内(理由はわかっているが)で、一人リボーンはつまらなそうに嘆息した。

















あきゅろす。
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