1限目

「ディーノさん!大丈夫ですか!」





病室に飛び込んできた青年に、暇そうにベットに横たわっていた男は嬉しそうに微笑んだ。

















































【 1限目 】



























「おーツナじゃねえか!
久しぶりだな!
見舞いに来てくれたのか?」
「はいって、そうじゃなくてっ。
全治11ヶ月の大怪我って、どうしたんですか!?」
「いや〜、ちょっと仕事でドジっちまってさ」
「仕事って・・・、」

ツナはキュッと形の良い眉を顰める。

「どうやったら学校の先生って職業で此処まで酷い怪我できるんですか!」
「大したことねーよ。
ちょっとロマーリオの治療の仕方が大袈裟なだけだ」
「頭を17針縫って腕と足と肋骨を複雑骨折してその内の幾つかが肺に突き刺さりかけてて眼球が腹膜内離を起こしかけていたら十分命に係わるぐらい大怪我ですっ!」
「・・・・・よく知ってるな」
「さっきロマーリオさんから聞きました」





『どんな薬よりも注射針よりも効くもんを持ってきてやるよボス』





渋く笑って出て行った同職の仲間を思い出す。
確かに自分はこの青年の潤んだ眼が一番弱い。
よく知っているものだ。



そうさ。



俺は自分の為に、今にも泣きそうな顔をしているこの青年が愛おしくて堪らない。
それは嘗て彼が後輩だった時から。
・・・否、会った瞬間から決まっていたことだ。


悲しませている癖にどうしても嬉しいという気持ちが顔に出てくる自分は最低な男だ。
そう自覚しながらもそっと呼びかける。
生憎と今は、抱きしめてやることができないから。



「悪かったよツナ」
「・・・ディーノさんが重態で病院に運ばれたって聞いた時。
心臓が止まるかと、おも・・・ッて、」
「・・・・・・・・ツナ」


嗚呼、本当に。
こんな重要な時に限って上がらない腕が恨めしく、抱きしめて平気だと囁いてやれない自分がもどかしい。


「泣くなよ、ツナ」
「・・・うっ・・・く、」
「俺はこういう怪我よりもお前に泣かれんのが、一番辛ぇんだよ」
「・・・・・・」
「約束するから。
もうこういうことにならねえようにするからさ」
な?頼むよと弱ったように苦笑するディーノに鼻を啜ってツナが頷く。

「・・・わかり、ました。
早く治ってくれるように、・・・俺も頑張りますから」
「なんだ、毎日見舞いに来てくれるのか?」
「いえ。
たまには来ますけど」

ちょっと気落ちする。
昔なら迷わず嬉しそうに頷いてくれただろうに。

「・・・なんだよ冷てーな」
「俺が毎日来たって、林檎剥く位しかできませんから」

療養の邪魔になるだけですと言うツナにいやいやと首を振る。
この青年こそ自分の特効薬なのに。

「いやそれで十分っていうかそれが一番良、」
「だから俺考えたんです。
ディーノさんが早く良くなるにはどうすればいいか。俺には何ができるのかって。
それで昨日やっと思いついたんです」
「・・・・・・?」



ツナはもう決めたという力強い眼差しで宣誓するように言った。






「俺、ディーノさんの代わりに並高の学校の先生やってきます」






「なっ!?」
「ディーノさんが入院してて一番気になるのはやっぱり大切な可愛い生徒さん達ですよね!
だから俺がディーノさんが気にしないでいいように代わりに彼等の様子を見守ろうと思うんです!」
「待て!!ツナあのな、」
「大丈夫です!
俺ももう教師になって6年目ですから。
ディーノさんには及びませんけど、少し位は生徒さん達の役に立てるかと」
「ツナいいから聞けって!俺の怪我はな!」
「はい!これで安心してディーノさんも療養に努められますよね!
勤めは立派に果たしてきますから!」

じゃ、この後面接なんで!とツナは爽やかに笑って病室を出て行く。



ディーノは動かない身体を精一杯揺す振り蒼白になって叫んだ。


































「俺の怪我はその生徒達に負わされたもんなんだってーーっっっ!!」







頼むから行くなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!

































重病患者寮等から響いた叫びは、元気に去っていく元教育大学の後輩の背中には届かなかった。

この心配によりディーノの病状には胃潰瘍というものが追加され、ますます入院が長引くこととなる。























あきゅろす。
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