開店前2

彼等が呼び出された時、先ず眉を顰めたのは嫌と言うほど覚えのある腐れ縁達の顔と、



「あ、お前等遅いぞ〜」













何故かすっかり旅支度を済ませたとわかる家光の姿だった。






































【 開店前2 】






































「・・・・・・・・帰る」
「ま、待てラル!」
家光とその他を見て何かを察し、帰ろうと身を翻したラルを家光が止める。
「大体くだらない碌でもないことは予想できた。
よってここにいる理由は無い」
「話だけでも聞いてく」
「黙れ狸が」
腰に縋り付きそうなのを顔面に蹴りをお見舞いすることで回避し、ラルが去ろうとすれば、

「ちょっと、コレしかないの」
「わー!何人の財布勝手に見てるんだマーモン!」
「先に前払いしてよ」
「いや、ちょ、先に俺の話聞いてよ!?」
いつの間にかすられていた財布をマーモンから取り返す。
ほっとする暇もなく今度はコロネロが『ラーメンあさり屋』を上から下まで眺めて尋ねる。
「その前に何でこんなボロ屋開いてんだ家光」
「そ、それは」
聞かれたくないことを突っ込まれ、しどろもどろになる。
「お前ならこんなのやらなくてももっと良い、」
「ま、まー今はそんなこといいだろ?
ささ、狭いけど入ってくれ」
無理に話を遮り五人背中を押して彼等には低い入口へ押しやる。
「本当に狭いね」
「汚いな」
「オマケに臭ぇゾ」
「ガラクタばっかだなコラ」
「お客様が来ない理由がよくわかるな、不衛生なことこの上ないぞ家光」
「・・・・・・・」
ずばずばと容赦なく言われてさりげなく家光は傷つく。
しかしどれも事実だったのだが何も言えない。
「「「「「本当にお前駄目だな」」」」」
「う、うるさーい!それも本当のことだけど口に揃えて言うなーーーーーー!!」












「で?何で俺達を呼んだ」
「暇じゃないんだから手短に済ましてね。
じゃなきゃ延長料金が増えるだけだから別にいいけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
憎たらしい自分の息子よりも年下の少年達に嘆息する。
此処まで生意気に育たなくても良かったのに。
天は二物を与えないというが、こいつらの場合色々貰ってる分性格が最悪になってしまったに違いない。
しかし、今回はその色々貰ってる分に頼らなくてはいけない。
家光は顔を真面目に正し、真剣な声音で話し出す。
「お前達を呼んだのは他でもない。この店のことを頼」
「「「「「断わる」」」」」
が、それは直ぐに遮られた。
「・・・いやあの全部まだ話してな、」
「話さなくてもそれぐらいわかるぜ」
「冗談じゃねえぞコラ」
「誰がこんなボロ屋やりたいと思うの?
料金5倍でも割りに合わないよ」
「そうだな、立て直す以前の問題だな」
「俺様がこんな店に足を踏み入れただけでも不名誉意外の何者でもねーのに何寝言ほざいてんだ家光」
「そこまで言っちゃう!?」
「「「「「其処まで店放置したお前が悪い」」」」」
「つくづく容赦ないよねお前等!!」

その後ぎゃんぎゃんと家光が涙ながらに訴えようが、懇願しようが鼻で笑うか殴るか金が上増すだけで話は一向に進まないまま時間が過ぎた。

やがて一人げっそりとした家光は、小休止を提案する。
「大したもんないから、皆粗茶で良」
「エクスプレッソ」
「コーラ」
「僕、レモネード」
「酒」
「・・・お前等ねぇ!おじさんをもっと労わろうかと思わないの!?」
「家光、」
半泣きになって叫んだ家光はポンと叩かれた肩越しに振り返り、
「諦めろ」
その方が身の為だというスカルの生暖かい眼に泣きながら下へ降りていった。



















家光が一階へ行ってから30分程経ち、リボーンが眉を顰めて呟いた。
「おせえな・・・」
「家光のことだから何が何処にあるかがわかんないんじゃない?」
「自分の店だぞコラ」
「この店の惨状見ればわかるだろ」
「でもちょっと遅すぎだな」
「よしじゃあ見て来いパシリ」
「何でだ!?」

ぎゃあぎゃあと言い争った挙句結局五人揃って一階へ下りていくが、当然いると思っていた男の姿は無かった。
「あんまり無理な注文するから買出しに行ったんじゃない?」
「無理っていうような内容かコラ?」
「少なくとも売れてないラーメン屋で頼む内容じゃないんじゃないか?」
「どっちにしろスーパーは直ぐ近くにあるんだから遅すぎだぜ」
「ちっ、これならパシリを動かした方が早かったか」
「いい加減昔の呼び名はやめっ・・・、ん?」
カウンター上にいつの間にか置かれていた紙に気付き手に取ったスカルは言葉を途切らせる。
適当に四つ折にされていたのと『虹っ子達へ』という汚い字に家光からのものだとわかった。
「先輩、これ家光が置いてったものらしいですよ」
「あ?」
手渡され、リボーンが開いた紙を覗き込んだ一同は、











<お店のこと頼むね☆
全権はリボーンとかに頼んじゃうぞv
俺の愛息子がその内来ると思うからそん時は宜しく>










固まった後、









「「「「「あんっの糞オヤジーーーーッ!!!」」」」」









売れないラーメン屋が震える程の怒声を上げた。





























散々家光に対する悪態を吐いたりスカルに八つ当たりをした後、リボーンは嫌な沈黙を破った。
「・・・こうなったら、好きにやってやる」
腹を決めたように先ずはスカルに言う。
「パシリ、てめえはホールをやれ。コロネロとラル・ミルチはキッチン。マーモンは経理と店装担当だ」
「は?ちょっと待てラーメン屋にホールも何もないだろう」
一番初めにさっさと放り出すと思ってリボーンが意外と積極的なことを言ったことに些か驚きながらもスカルは眉を顰める。
カウンターしかない狭い店内でウェイターなんて必要ないだろうというスカルに、リボーンは馬鹿にした顔をする。
「誰がんな貧乏くせえ料理の店やるっつった」
「さっき自分でいったじゃないか」
「るせえてめえの気のせいだ」
・・・この野郎。
ちっとも変わっていないな、反論しても時間が無駄なだけ男め。

「・・・じゃあどうするんだ。
この店の店装じゃ、ラーメン屋とか庶民的な中華ぐらいしかジャンルが、」
「イタリアンに決まってるだろ」
「っはあ!?何言ってるんだ!
こんな腐った卵みたいな香りが充満してる小屋でそんなのできる訳が」
「改装する」
「一応留守を任されてるんじゃないのか俺達は!?」

全てを一任されてるからといって其処まで好き勝手にやっていいのか!?主のコンセプト総無視だなおい!
あの家光が店のコンセプト考えてたとはとても思えないけども!



「じゃあ先ずはどんな店装にするか考えるか」
「二階行くぞコラ」
「あ!ちょっと待・・・っ」
そのままズカズカと勝手知ったるといったカンジで階段を登っていってしまった4人にスカルは嘆息した。
「・・・ったく。
全く勝手なんだから。家光も先輩達も」

あの傍若無人なあの人達をいつも結局は言う通りにさせている家光はある意味凄いけども。
その男が残していった唯一の走り書きのような手紙を流し見る。
相変わらず汚い字だ。
「もっと丁寧に書けばそれなりに綺麗なの・・・、ん?」
最後に思い出したように付け足されていた一文に気付いたスカルは、その文字を見て再び固まった。







<追伸:ツッ君に手ぇ出したら殺すからなv>








汚い適当ないつもの字ではない流麗だが毒々しいそれに、本気だとわかったスカルはぶるりと身震いをする。
「・・・・・・・・み、見なかったことにしよう」
通常は飄々として何処か食えない男だが、冷静で冷徹な一面も持つことも知っているだけに恐ろしかった。

(でも、)
「家光の子供でしかも息子だというのに手出すも出さないも何もないだろうが」
こんなことをしたためる位相当な親馬鹿だったのか。子供がいること事態知らなかったが。
暑苦しい程の愛妻家だということは知っていたけども。

まあ兎に角自分には関係ないとスカルが紙を几帳面に折りたたみ薄汚れたカウンターに戻すと同時に、声が二階から降りてくる。
「おいパシリ、何やってんだ」
「あ、はい今行き、」
「エクスプレッソ持って来いよ」
「俺はコーラ」
「僕、レモネード。じゃなきゃお金ね」
「酒」
「・・・・ッ俺をパシリにするなぁ!」

口ではふざけるなといいながらも、報復が恐ろしいスカルは言われた通りのものを用意してやる為にコンロに火を付けてから店外に飛び出す。
これから暫くはあの人達と仕事をしなくてはいけないことを考えるだけで気が滅入った。
(先輩じゃないけど、家光次会った時覚えてろよ・・・ッ!)

直ぐに会計を済ませてラーメン屋に舞い戻り、ガチャガチャと茶器を用意しながら碌なものが置いていない店と原因を作った家光に悪態を吐き、気休めに家光の息子は少しはマシな人であってくれと願ってみたりする。
「でもまぁ、蛙の子は蛙だからな・・・」

所詮無理な願いだろう。



半ば諦めながら、スカルはプラス思考だポジティブになるんだ自分と呟き、胃と同じように軋む階段を重い足取りで上がっていった。






































そう遠くない未来、自分がその青年に心を奪われることも知らずに。











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