本日開店3

「仕事まる投げしやがって…」










その言葉と声音にぎょっとして、
気が付いたら目の前にいた般若の方が可愛く見えるだろう、最後に会った時よりも物凄い迫力の顔に体を仰け反らせた。
声にならない思いを心で叫ぶ。


ちょ、何でお前が此処にいんの!?


この男は桜が似合う小さな島国ではなく、遠く離れたアーモンドの花が舞う国にいるべきであって。







でもいるものはいるんだから仕方が無い。

「ちょっとぶりだねー?」
顔を引き攣らせて笑いながら誤魔化しを試みる。
どんな時でもパニックに陥らないようにして、笑顔でお客さまにはOKしなければいけないのは自分の仕事の一つだし。



「何時こっちに来たの?連絡くれれば良かったのに」
そしたらとっとととんずらしてたろうけど。
「・・・・・・・・・・」

心の声が丸聞こえなのか、相手の顔はちっとも変わらない。
交番前を歩かせれば即効逮捕だろう。

ちっとも揺らがない凶悪な顔に機嫌を取ろうとへらりと笑ってみせる。
「ええっと、今度のことは本当に悪かったと思ってるん、」
「…喰ってやる」
「そうそうちゃんと喰われてやるから
・・・・・・・・・って、はいぃっ!?」
向こうにいた時から常日頃から冗談で言われていたことに蒼褪める。
いつもは笑って俺なんか食っても腹壊すだけだぞーといなしていたが・・・。
(今は眼が、本気と書いてマジなんだけど…っ!?)

「ちょ、ま・・・っ、ぎゃーーーーーーー!?」
何か言う前に、頭二つ程も違う男に成す術もなく押し倒され、簀巻きにされて逆さまに吊り上げられる。



「お願いします許してーっ!」
ぶらぶらと揺れる視界下にいつのまにか用意されていたものにざっと血の気が引いていく。
実際は上がる一方なのに。

パスタがアルデンテを一瞬で通り越してしまいそうな湯がボコボコと沸き立つ。




・・・人はいつか死ぬ。
それはわかってるしいつか俺もそうなるって理解してる。

でも、

「釜茹ではいやだーっ!」
頭の毛先から感じる熱気に情けない泣き声が自然に上がる。

無情に口端を上げた男は、

「報いを受けやがれカスが」
「う、うわあああああああああああっ!!」



ツナをこの世界に繋ぎとめている縄を、何の迷いも無く切り落とした。









































熱い熱い熱い

焼け死んでしまう

あついあついあつい

暑苦しい

身動きが取れない

重い



・・・重い?




ツナは其処でおかしなことに気付いた。
何故釜茹でにされかかっているのに重いと感じるのか。



ぱちりと眼を開けて直ぐ視界に飛び込んできたものと、自分の状態に叫び声を上げた。

































【 本日開店3 】






































「・・・朝から煩ぇぞツナ」
「迷惑な顔してるけどお前の所為だからね!?」
先程まで自分を抱きしめるようにして寝ていた少年に突っ込む。
どうりで苦しい筈だ。

「何でてめえツナ抱きしめてんだコラ!」
「いやお前もなんでいるのコロネロ!?」
リボーンと同じくツナを後ろから抱きしめるようにして寝ていたコロネロにも突っ込む。
どうりで暑い訳だ。

「何でって、」
コロネロは耳元で叫ばれた為顰めたままの不機嫌な顔で言う。
「自分の部屋だからに決まってんだろコラ」
「え!?」
「お前が寝ぼけて部屋間違えたんじゃねーか」

呆れて言われて室内を見回してみれば確かに違う。
自分の間違いと寝ぼけていたことにツナは恥ずかしくて真っ赤になる。
「ご、ごめんコロネロっ」
「い、いや、別に」

改めて恥ずかしそうにされたらなんだかこっちまで恥ずかしくなってきたコロネロは眼を逸らし、
随分と明るくなっている窓の外に固まった。
「・・・・・・・・・・・おい、今何時だコラ」
「ちょっと待って。ってあー・・・止まってるや。
電池切れてるじゃん」
あちゃーと目覚ましをツナが元に戻すとリボーンは使えないと舌打ちをする。
「パシリめ」
「何でそこでスカルに舌打ち?可笑しいよね?」
「それぐらいパシリセンサーでどうにかするのがパシリの役目なんだ。知らないのかツナ?」
「うん絶対お前が間違ってることは分かってる」
朝から漫才を始めたつかえない二人は置いておいてコロネロは少し焦ったように立ち上がり部屋を出る。

「どうしたの?コロネ、ぶッ」
追いかけ廊下に出たツナは、部屋を出て直ぐの処に立っていたコロネロにぶつかり上を見て固まっているのを訝しげに見たが、
数秒後、同じく其処に固まった。





彼等が見つめる先は暢気な顔をした鳩が眠っている箱。
一つの針が指しているその数字は、まだ迎えてはならない筈のもので。












「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
寝坊ーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」













開店時間まで後一時間。
予約はさらにその30分後に入っていた。
































寝坊?
そんなものしたのは高校以来だ。

「絶対アイツの呪いだ・・・」
「何、ブツブツ言ってんだ」
何をどうやって間に合わせたのか記憶もない程の勢いであっという間にアイドルタイムを迎え、食事という名の休息をもそもそと味わっていたツナの眼の前にカップが置かれる。
「あ、ありがとリボーン」
「ああ。
次はラルが休憩か。呼んでくるからそれまでは座ってろよ」
無理して倒られてもめんどーだからなと遠まわしに心配してくれているらしい少年に苦笑しながら礼を言う。





一人になり、最後の一口を黙々と租借し呑み込んでから、ツナはふうと嘆息して椅子に凭れ掛かった。



嫌々ながらも考えてしまうのは、今朝がた夢の中に出てきた海の向こうにいるアイツ。

やはり、あの出ていきかたは不味かっただろうか。
絶対に八つ当たりされてるだろう一番の被害者の当たり前だぁ!という叫びが聞こえた気がして思わず首を竦める。


夢の内容が、アイツならばやりそうなことでもあったことが笑えなかった。
もしかして今よからぬことでも考えているのだろうか。
例えば自分を何がなんでも連れ戻そうと怖いこと考えているんじゃないのかとか、或いは部下を寄越そうと悪い顔して笑ってんじゃないかとか。
(・・・・っていうか、アイツ自ら出てきそうだなー)

店なんてどうでもいいとかいって放り出して。
でもそれは困るから周りが止めて。
で、もう面倒だから結局皆で日本にやってきたりとか。。。



・・・・・・・・・・・・・大分有り得そうだ。



結構自分の勘は当たるのであまり考えないようにしようとツナは温かい茶色い液体が入ったカップに手を伸ばし、一気に飲み干す。

「うし!午後も頑張りますか!」

たん!と空になったカップを置き、ツナは気合をいれて立ち上がった。



















































「・・・あれって」

聞き覚えのある声に足を止めた男は、随分と小奇麗になった店のテラスで一人気合を入れている青年を視界に止め、切れ長の眼を軽く見張った。

十年ぶりの、しかし少しも変わっていないその姿。

何故彼が今こんなところにいるのか、何時帰ってきたのかなど一瞬疑問が浮かぶ。
しかしそれは直ぐに消えた。



そんな細かいことはどうでもいいことだったので。




問題は彼が本物なのかどうかだけだった。












「・・・・・・・・・・・・」
男は、迷わずそちらに足を向けた。
























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