本日開店2

「おい3番のセコンドまだか」









ひょいと顔を出したウェイターに、直径1Mもあろうかと思われるパスタの入ったフライパンを軽がると振っていた青年はギロリと目を向ける。
「るっせえぞコラ今出すトコだ」
かたりと置かれたそれを手に取り一瞥したウェイターは鼻を鳴らす。

「パスタぐれーもっとまともに盛れねーのか」
「人の料理に一々文句つけてんじゃねーぞコラ!」
既に次に取り掛かりながら明日の仕込みもしていた青年は苛々と叫ぶ。

客には決して見えない角度だが、険悪な雰囲気を醸し出している二人に気付き、またかと嘆息した別のウェイターが近づく。
「あーもーわかりましたから、パスタが冷めるし伸びるじゃないですか。
俺が持ってきますからね」
「「しゃしゃるなパシリが」」
「だったらあんたらちゃんと動いて下さいよ!特にリボーン先輩!
今俺一人でホール動かしてるんですよ!?」
今何人のお客様(しかも全部女性)がいらしてると思ってんですか!?とホールには届かない程度に声を上げる青年に、
間逆の魅力を持った二人は似たような顔付きで言う。

「それがパシリの仕事じゃねえか」
「偶には俺を休ませろ」
「俺はパシリじゃないしリボーン先輩はいっつも思いっきりサボってますよねぇ!?」

いい加減にしろ!あーん?やんのかコラァといった雰囲気になりそうなところで、








「・・・・・・・・何やってんのお前等」










青筋を浮かべた小柄な青年の姿に、3人はピタリと動きを止めた。






































【 本日開店2 】













































休日でなくとものんびりと町の人々が散歩をし、偶に旅行途中の車が停車して眼を和ませる。
都会といえども、田舎と呼べる程長閑な町。

そこの海辺近くにひっそりと佇む店があった。






『ラーメンあさり屋』

その名前と店装からして全く儲かっていないことがわかる店には、
この店にしてこの店主ありというようなやる気も無い腕も無い店主が住んでいた。

店内では常に閑古鳥を飼育しているのではというほど人気も無く、ついでに店主は店先に出てもいなかった。
何をしているのかと思えば、店が儲からないことを嘆いてるわけでも息子のこれからの行く末を案じて悲嘆に暮れているわけでもなく、
腹を掻いて寝ていたるのが常だった。

どうしてこれで潰れないのか不思議でならないのと同時に、この父親からどうして?と思うほどの息子が男にはいた。
この息子は、父親と違いご近所でも評判の腕の良い料理人だった。
料理人といっても免許も何もないのだが、お裾分けされる料理と共に彼の優しげで世話好きの性格はとても好かれていた。




息子が突然家出し、父親まで蒸発するまでは。















かつてあった今にも倒壊しそうな錆びれた店は消え、
現在そこには洒落たイタリアンレストランが堂々とした姿で立っていた。




そしてその店の中には、売れないラーメン屋の店主であった家光の息子でありかつて家出少年だったツナこと沢田綱吉もいた。









家出する前からの友人であり同業者でもある青年から、至急帰郷されたしと連絡を受けたツナは、十年振りの故郷に足を付いた。
すっかり様変わりした実家の様装に仰天し、従業員達に食ってかかるが、
自分の父親である家光が、彼等に店を押し付けたという非常識にも程があることが判明し沈没する。

よって現在渋々ながらも家光を見つけ出すまではいると約束させられ、此処『Vongola Restaurant』にて働いている。

































ツナが働き始めて5日目。
まだまだ慣れないというの普通だろうが、ツナはあっという間に店のメニューから流れまで把握し、
今では開店当初から働いているというように此処に自然に溶け込んでいた。

しかし、全てに慣れたという訳ではない。
ツナが先ず此処で働き始め驚いたのが、
表面上は完璧というのによくこれで店が回ってるなと呆れるぐらいの従業員達の仲の悪さだった。













キッチンとホール。
そこには店が大きくなればなる程、隔たりが出来やすい。

それは店を上手く回すにおいて作ってはいけないものである。
シェフやマネージャーならば最も気を使うものの一つだろう。


しかし此処ではホールとキッチンというわけでは無く、従業員全員がそれぞれ仲が悪いようなのだ。
初日でそれは嫌という程思い知った。

なのに、何故上手く潤滑しているのかがわからない。
チームワークなんてものは初めから持ち合わせていないというようなワンマンぶりなのに。

(・・・個々の能力がそれを上回ってるってだけなんだろけど)
誰かを思い出させるような慣れた感覚にあーヤダヤダと半眼になる。
これだから余計に始末が悪いのだ。
そんな人種に慣れきっている自分も嫌だけども。





これで何度目かわからない事態に、
有無を言わさず休憩室へ呼び出し正座させていた3人を同じく正座しながら呆れて見やる。
いつまでもこうしてる訳にもいかないのでブスくれたり不満そうだったりしている憎たらしい顔達に尋ねてみる。

「・・・・・それじゃあ言い訳でも聞こうか」
「「「コイツ等(この人達)が悪いんだ(です)」」」
「うんつまり3人が3人とも悪いってことだよね」
可哀想だけども連帯責任ということでととばっちりを喰らったスカルはそんなと眼を潤ませる。
しかしそれはサングラスをかけた瞳ではツナには伝わらない。


「俺としては店が上手く回ってるし、今更全ての原因である父さんの息子の自分が今までの方針に口出すのも気が引けてたし、
喧嘩するほど仲が良いって言うからほっておいたけど、」
「「「三つ目は取り消せ(して下さい)」」」

やっぱ仲良いんじゃんと思わせるような揃った顔つきと声と反応にはいはいと適当に言ってからツナは腕組みする。
「一応今は俺が責任者ってことになってるから言わせて貰うね。
次、喧嘩したら・・・」

そこで何故か黙り、じっとスカルの顔を見つめるツナ。

「・・・・・な、なんですか?」
黙ってしまったことが逆に恐ろしくてスカルが尋ねると、ツナはうん、コレにしようと一人頷き、




「スカルはキッチンでラルの補助ね」



「は!?
俺がラル・ミルチの!?」

ラルが誰よりも恐ろしいスカルは一気に真っ白になる。

キッチンに入るのも料理をするのも問題ない。
コロネロとは比べられないが、並のコックよりはある程度のものが作れる。

が、問題はラルの補助という点だった。
「そ、そんなッ!」

スカルには出会い頭にリボーンと間違えられ中華包丁を顔面、心臓、股間目掛けて3本同時に投げられた過去があった。
今でも二人きりになると恐怖のあまり動けなくなる位苦手としていた。
しかもラルはなよなよとした男が嫌いなので、硬直するスカルを弛んでる!っと張り倒すことが殆どだった。
トラウマの傷は深まるばかりなので、スカルは成るべくラルに近づかないようにしていた。
なのに、二人きり?

確実料理の魚にされる・・・ッ!!

「俺には無、」
「コロネロはね、」
「…なんだコラ」
スカルを軽くスルーして顔を向けたツナに、コロネロは些か引き気味になる。




「ホールで常に笑顔で女性だけに接客。
料理を出す時には必ずこのリストの言葉のどれかを歯を光らせながら甘く耳元で囁くことね」
「な!?」




自分が唯一不得意とする接客をあてがわれただけでなく、煩わしくて嫌いな女限定なんて有り得ない。
「待、」
「はいこれがリストね」
抗議しようと口を開く前に絶妙なタイミングで手渡されたリストに目を落とし、一気に血の気が下がった。
「んだコレは俺を腐らせる気かコラ!?」
「いつもリボーンが言ってるようなことだから腐りはしないって」
眼球と脳まで腐りそうな文字の羅列から眼を引き剥がしツナに訴えるがツナは平気平気俺には無理だけどーと無責任にへらりと笑う。
歯を光らせるなんて人間じゃ不可能なことをしながら!?
舌先から腐り落ちそうなコレを甘く囁けだと!?
「ふざけ、」
「で、リボーンは、」
これまた素晴らしくコロネロの言葉を回避し、体を向けられたリボーンは平然を装いながら内心汗をだらだらとかいていた。

自分には劣るが完璧に近い二人の苦手なものを此処まで的確に割り振るとは。
(ま、まあ俺には苦手なもんなんてねえからk)




「リボーンは商店街に行って法被着て襷と鉢巻き付けてタンバリンとラッパ吹き鳴らしながらビラ配りやってもらうから」




自他共に完璧な男の顔は、想像したくも無い己の姿を想像し絶望色に染まった。














































新しい従業員が加わって6日が経ち、
更に接客からサービス料理に至るまで全ての質が向上した『Vongola Restaurant』は、ますます盛況していくことになった。

その理由は定かではない。






<...fine?>



































「沢田、本気で奴らにやらせるつもりか」
「うん?」
「俺は反対だ」
「え、それって如何いう」
「使えんパシリが厨房に入ってきたら邪魔だからな」
「あぁ(苦笑)。
心配しなくても平気だよ」
「じゃあやはり只の脅しか」
「脅しじゃないよ?」
「?」
「だってあいつ等が喧嘩しなきゃ良い話だしさ」
「無理だな(あっさり)」
「じゃあ有無を言わさず実行させるだけだね〜、
俺仮だけどオーナーだから」
「・・・・・・・・・・・・・」


優しいけども甘くはない仮のオーナーは、仕事はきっちりやらせる主義だった。

きっと親が反面教師だったからだろう。



















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