冷菓
夏だ。
だからこの茹だる様な暑さも仕方がないとはわかっている。
これは気象現象なのだから。
だが余りに高いこの湿度だけでも、少しはどうにかならないものだろうかと思ってしまうのが人間の性というもので。
【 冷菓 】
「あ゛ーづーい゛ーー・・・・、蒸〜れ〜る〜びょ〜ん〜〜…」
「・・・・煩いよ、犬」
「だって本当のことらもん〜・・・」
まぁ今はそれよりもうんざりするのは、隣で床にへばっている犬の間延びした呻き声の方だが。
不思議なもので暑いとわかりきっていることを連呼されると、余計に暑く感じてくる。
体に張り付いたシャツのように鬱陶しい。
「そりゃあ、もっさい柿ピーはジャポーネの夏も平気だろうけどさ〜」
「平気じゃないし、俺だって日本の気候には辟易してる」
「嘘らぁ、いつもと変わらないし汗もかいてないびょん」
「・・・・・・」
説明するのも面倒だった。
会話を打ち切りたいこともあり、突っ込んでみる。
「そんなに暑ければ、あのアイス。
食べればいいのに」
ゴミ捨て場から拾ってきた冷蔵庫。
辛うじて稼動しているそこには、数時間前にやってきた少年がくれた冷凍菓子があった。
彼曰く、
『骸がさー、なんか行き成り出てきたと思ったら買い物に付き合って欲しいって言うんだよ。
それで俺としては冗談じゃなかったから、断わったんだけど。
でもそれが犬の誕生日祝いを買うためっていうからさ』
結局骸の誘いは断わったものの、ついつい買ってしまったと言って差し出したのは近所のスーパーの袋。
そこにあるのは太陽の熱により少し解け始めた数種類のアイスだった。
物だと犬の好みはわからないし、ケーキを食べる気分の気候でもないから選んだのだと少年は苦笑する。
『気持ちだけだけど、少しでも今日が犬にとって過ごし易い日になればと思って』
会えなかったのは残念だけどと手を振って、彼は帰っていった。
寝起きの千種にアイスを預けて。
やっと起きだした犬にあるがままのことを伝えると、暫し黙ったあとに飛び出てきたのは安っちいアイスばっかびょんというちょっとした文句という名の照れ隠し。
低血圧の千種としては、早くしないと溶けるよと指摘してやっただけ親切だったと思う。
「・・・あれは最後の手段だびょん」
つまりは勿体無いから食べないらしい。
ごろと転がって顔を背ける犬の耳は少し赤かった。
きっとこの暑さの所為だろう。
ジーと鳴く蝉の声が一層室内の温度を上げているようだった。
「・・・・・・・・暑い」
2009.7.29
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