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裏校舎に着いた途端、振り向き様に殴られる。
半ば予想はしていたので当てられはしたが、後ろに下がることにより衝撃は殆ど受け流した。

しかし鉄の味から咥内を切ったことがわかり軽く舌打ちする。
「・・・・・・・・・・いきなり何すんだ」


少し腰を落としていつでも対応できるようにしながらも、一応尋ねる。
業とらしい問いかけに、少年は苛立ったように踏み込んできただけだった。





























「どうにもなんねーんだよ!」




何かを言われて、言い返して。

何度も殴られて、殴り返して。




気付いたら、初めて気持ちを吐露して、悲鳴のように叫んでいた。





どうにもならないこの気持ち。




本当に思う。

誰かに、どうにかして欲しいと願う程に。





自分だってそうだ。

こんな自分は嫌だ。

いつもみたいに笑っていたい。

醜く妬みたくなんてない。

あの子を泣かせたいわけじゃない。

そんな、つもりじゃなかったんだ。





「俺は、俺はただ・・・・」

獄寺の襟首を掴んだまま首を垂れた。
すかさず顎を殴られる。

視界がブレ、地面に叩きつけられたことにより一瞬呼吸も出来なくなった。




「それを言う相手は俺じゃねーだろ!?」




眼が覚めるような言葉。
射抜く眼差し。




「てめーがくだらねー理由で避けたりするから。
だから十代目は、我慢なさって一人で待ってるのに・・・ッ」




いつもの、悪友の矜持の高い声が揺らぐ。




「お前を、・・・・俺じゃなくて、お前をッ。
お前だけをずっと待ってるのに、なのにお前は・・・ッ!!」





泣くかと、思った。
ぼやけた視界でもわかるその悲痛な表情と、怒りに震える声。

(あぁ、お前も、)




 そうなのか




改めて、自分を見下ろしている少年が自分と同じなのだとわかった。

「お前、本当に好きなのな・・・・」
「ったりめーだ!!」







下がりかけていた眼がいつものように吊りあがる。

それが可笑しくて、笑った。







久しぶりに可笑しいと思った。

思えた。







「・・・・・・・・・悪い、どいてくんね。獄寺」
「・・・・・・・・・・・」

首を絞めるようにして山本の上に馬乗りしていた獄寺は、握っていた拳を開くと黙って横にどいた。
それに一言礼を言い、蹈鞴を踏みながらも立ち上がる。




「俺、行くわ」
「・・・・・・・・・・・・何処にでも、好きに行きやがれ」
体に付いた泥や砂埃は払ってから言った山本に、微かな声で獄寺は悪態をつくように返した。
それに苦笑し、歩き出す。






「山本」





振り返る。






「次、また十代目を悲しませるようなことしたら・・・」
「あぁ、わかってる」






続きは言わなくてもわかる声音に頷いた。


























「・・・・・・・・てめーの為なんかじゃねぇ」
もう一度短く礼を言って走っていった山本に呟いて、獄寺は唇を噛み締めた。

「俺じゃ、俺じゃ駄目だから。だから・・・」










『山本・・・・!』









いつもそう言ってアイツの元へ行ってしまう小さな背中。

あの人の為なら、俺は何でもできるから。




だから。




「十代目・・・・」




決して届かない愛しい人の名を呼んで、砂でざらつく拳を握った。




(俺は、貴方が笑ってくれるなら・・・・)





















「痛ぇ・・・・」








切れた口端に伝ったものに、気付かないフリをした。






















あきゅろす。
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